前回、蒲郡市内を西浦駅からダラダラと走り三谷温泉でゴールしたわけであるが、この三谷温泉がなかなかの興味深いスポットであったので、ここで紹介したい。


三谷温泉とは、蒲郡市の東端にある古い温泉街で、西端にある西浦温泉と双璧をなす存在である。

1200年もの歴史を誇る温泉で、最近ではすっかり寂れてしまっているのだが、直近にあるラグーナテンボスの宿泊地として何とか頑張って機能しているらしい。


地元の人間としては敢えて行くような場所ではないのだが、今回たまたま訪問してみたところ、何だか不思議な魅力を感じたので紹介させて頂きたい。

まずは、こちらの写真を。
三谷温泉は、国道を挟んで北側が山、南側が海という地形になっているのだが、この写真は国道から北側を写したもの。
写真の中央、山の上に、何かが立っているのが分かるだろうか。
坂道を20分ほど登って行った山の頂に、それは突然現れる。
ドン!

これは、巨大な弘法大師の像。
写真ではその大きさが伝わりづらいが、身長約19m、台座と杖の長さを合わせると30mほどもあり、ひなびた温泉街において何か異質な空気を放っている。
巨大な仏像など珍しくなく、観光資源としても魅力的なものではないが、温泉と宗教というミスマッチ感が何とも言えず良い。
仏像の奥には、ちゃんと立派な寺がある。
寺には、「マニ車」と呼ばれるチベット仏教の仏具なんかもあったりして、エキゾチックが止まらない。
この写真だけ見たら、ここが蒲郡だとはとても思えず、エキゾチックとロマンチックが止まらない。

さて。
今度は山を降りて、海の方へ。
海側も小高い丘になっており、丘を埋めるかのように大型ホテル、旅館が建ち並ぶ。
この場所は果たして公道なのか、駐車場なのか、広場なのか、何なのか。
公道を歩いていたつもりが、いつの間にか駐車場のような、広場のような、そうでもないような曖昧な空間に迷い混む。

曖昧さ。
それは、現代人が久しく忘れてしまった感覚である。
この世界は、何だかきっちりし過ぎている。
我々現代人は、時にはこういった曖昧さに触れることによって、ある種の不安と言うか、この世界の不安定さを覗き見た方が良いのではないかな。
こちらは、現在も稼働中の大型老舗ホテル。
ここだけ時が止まっているような佇まい。
同じホテルの一角。
斜面に沿って増築を重ねたことによるいびつさが、逆に美しくもある。
建物をつなぐ渡り廊下が、微妙に斜め。
ここにも、きっちりしていない「曖昧さ」を見てとれる。

さて。

不思議な魅力のある三谷温泉をもっと味わいたいと思い、このホテルの日帰り温泉を訪ねてみることに。
混雑していたらさすがにNGだが、フロントスタッフに聞くと、どうやらワタシ以外に客はいない模様。
日帰り入浴¥1,500。
やや高いが、蒲郡市が発行しているクーポンを利用すれば、3割引きで利用できる。

料金を支払い、スタッフに風呂の場所を尋ねると、「そこの通路の先の看板を右に行くとエスカレーターがあるので下って頂くと、もう一つエスカレーターがあるので下って頂き、そこを右に曲がって頂くと・・・」と、たどり着けるのか不安になるような道案内。
いやその前に、ホテル内にエスカレーターなんかあるのか。
二つも。
あった。
指示どおりエスカレーターを二つ下ると、外から写真を撮った斜めの渡り廊下が現れた。
ちなみにこの廊下、奥に進めば進むほど天井が低くなっているトリッキーな構造。
ガリバートンネルか。
何とか風呂にたどり着くと、風呂もなかなかトリッキーな造り。
脱衣場から浴槽に行くのに、階段を降りなければならないのだ。
ここを裸で下る。
浴室は、良く言えばレトロ、悪く言えばボロいのだが、ここに辿り着くまでの道すがらを考えれば、ある意味期待通りと言えよう。
天井から滴り落ちる冷たい水滴が背中に直撃し、思わず「うひょっ!」と声をあげるが、周りには古びたビーナス像以外に誰もおらず、ワタシの声だけが虚しく浴室にこだまして消える。
露天風呂もあるが、正直もうどうでも良く、塩分を含んだ気持ち良い温泉にブクブクと顔まで浸りながら、身も心も分解されていくように感じるのであった。

さて。

なんとも不思議な空間、三谷温泉。
きっちりした世界に疲れたアナタに、是非おすすめしたい魅惑の異空間であった。


おわり。