性差の日本史 | あらかんスクラップブック

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60代の哀歓こもごも

性差の日本史という企画展を観に、

国立歴史民俗博物館(千葉県佐倉市)に足を運んだ。

 

日本は、2019年のジェンダーギャップ(男女格差)指数は、世界153か国中121位。 毎年順位が下がっている。 ジェンダー平等社会というのは、権利と機会と責任を男女間で分かち合える環境が整った社会(国連の定義)。 日本は先進国でありながら、大臣は2人、衆院の女性比率9.9%、女性管理職の内部昇格の割合8%。

男女の性差(ジェンダー)が博物館のテーマとして取り上げられるのは、日本で初めてだそうだ。博物館がジェンダーの問題を取り上げることに対する期待は大きいのだろう。平日なのに、かなり人出は多く、土日祝は時間単位の事前予約をしなければ入場できない。

 

日本でジェンダーがどのように成立し、変化していったか? 

7つの部屋に分かれており、構成は以下の通り

プロローグ: 歴史のなかのジェンダー

第1章:古代社会の男女

第2章:中世の政治と男女

第3章:中世の家と宗教

第4章:仕事とくらしのジェンダー -中世から近世へー

第5章:分離から排除へ -近世・近代の政治空間とジェンダーの変容ー

第6章:性の売買と社会

第7章:仕事とくらしのジェンダー -近代から現代へー

エピローグ: ジェンダーを超えて

 

テーマは、

政治空間における男女」 「仕事とくらし」 「性の売買と社会」

この3つのテーマを、時代区分を追ってたどっていく。

私はジェンダーについては、かなり本や研究会などで勉強したので、第1章から第5章までは、あまり驚くようなことはなかったが、 北条政子や春日局の手紙をはじめ、これまで公開されてこなかった直筆の女性の手紙は、書をやってる身として、とても興味深かった。 

第6章の「性の売買」がいちばん圧倒される。

近世・近代の遊郭についての売る側、買う側の実態について、多くのことを初めて知った。 遊郭の収入に依存いていた江戸町奉行とか、遊郭の投資システム、たくさんの身請状、遊女が記録した食事の貧しさ。 博物館ならでの実物の展示は時代を超えて生々しい。

戦後、公娼制度が廃止されてからも、女性たちが解放されたわけではない。 遊郭から出た女性は、借金をカタに女衒や仲介業者の元に引き取られ、貸座敷業へと名を改めた遊郭に拘束された。 それが「自由意志」の売春として、性の売買は、宿場町や産業都市、軍隊駐屯地に広がっていった。 

展示はそこまでである。 廃娼運動にもふれていない。

女性たちは、日本だけでなく、植民地となった外国などにも組織的に強制連行されていった。戦争中には従軍慰安婦になり、戦後はGHQ相手として、1957年の売春防止法のあとも、売春はつづいている。 現代においてもなお、「性風俗関連特殊営業」というかたちで、半ば公然として、女性の性は売られている。

 

第7章の近代(明治)から現代についての展示は、スペースも内容も、まったくダメ。 

明治になると、男女差別は法制化されて、強化されていった。

それに対する女性たちの解放運動、個人的にいえば、北条政子や春日局をだすなら、東洋のジャンヌダルク、福田英子(ひでこ)を外してはいけない。 

戦時中の銃後を支えた女性たちとジェンダー意識はどうだったのか?

戦後も、女性たちによる婦人参政権運動。そんな展示も観て見たかった。

戦後も労働省婦人少年局の施策止まりだ。

1948年の労働省婦人少年局のポスター

この70年以上も前のポスターに苦笑する人が多かった。

 

近代から現代にかけての展示に期待をして見学した人たちは多かったと思う。

見学の順路は、第1章から第7章までになっている。

最後の第7章で、ガクンと落ち込み、この企画展は期待外れだったという印象を与えて、大きな不満が残る。

国立博物館だし、政治に忖度してるのかなぁと邪推もする。

ジェンダー(性差)というのなら、差別について、覚悟を決めて対峙してほしいのだ。 差別だよ。 男女の区分、不平等でも、女性の排除、抑圧、分離でもない。 なにか、取り澄ましたような博物館の姿勢がいやだ。

 

帰りのバスを待っている女性たちも、私と同じ不満をもっているらしく、

「国に忖度してるのよねぇ。予算がつかないと大変だもんね」

「この時期だから、コロナでがんばっている女性がみたら、元気になれるような展示にしてほしかった」

「結局、女性は表の政治権力ではなくて、ウラで実権を持ってるから、いいんじゃないといううちのオヤジ程度の認識なのかな? 博物館も?」

「これじゃ、いつまで経っても世界の笑いモンだ」

 

……。 女は判ってる。 私は、バス待ちの列の横を、見学者たちのブーイングを聞きながら、歩いて帰った。

途中の紅葉がきれいだった。

この国の女たち。昔々からずっと連なる、日本の女たちを尊敬しているよ。 

博物館は、捲土重来。

こんどは、女性たちの近代から現代をテーマに企画展示をしてほしい。 女性の看護、介護、保育などの劣悪な労働環境についても触れてほしい。

 

バラの実