​展開 



 現在進行形で世界を駆け巡るフルマラソン公認2時間切りと言う世紀の大ニュース。その立役者は圧倒的な世界記録保持者キプタムでも無ければ『マラソン界の神』とまで讃えられたキプチョゲでもない、片や最近マラソン界に飛び込んできたばかりの31歳サウェ、片や今回が初マラソンと言うトラックで歴戦の28歳ケジェルチャだった。


 ハーフの通過は設定通りと極めて順調、60:29とそのままのペースで耐えるだけでも2:00:58。無論散々した全ランナーにとっての大幅自己新となる記録であり十二分に偉業となり得た。だと言うのに30km地点でペースメーカーが外れると、サウェは瞬く間にペースアップしてケジェルチャ以外の選手を全員振り落とした。その中には五輪チャンピオンもいれば勢いに乗るハーフマラソン世界記録保持者の姿もあった。後者がキプリモな訳だが、そのキプリモを持ってしてサウェのペースアップに終ぞ追い縋る事はできなかった。


 そうして30〜35kmを13:54でカバーしたサウェ達だったがこんなものは序の口、次の5kmでは13:42と更に10秒以上ペースアップ。そして最後の2.2kmでは5:51と遂に10km換算で26分台のペースにまで到達してしまう。その叩き合いっぷりがとにかく凄まじく、ケジェルチャも何度か隙を見てサウェの前に立とうとするがサウェは決してそれを許さない。ロンドン橋付近での最後の給水のタイミングでもケジェルチャは決死の飛び出しを見せようとしたがサウェはこれすらも制圧してしまう。




 finish予想が2時間を切り始めたのは丁度その時だった。そんな事を知ってか知らずかサウェが最後の仕掛けでケジェルチャを離し始めたのもそこだった。バッキンガム宮殿前に続く通りの残り600m、この段階でも時計は1:57:58を指していた。ここで著者も確信した『サブ2が出る』と。


 現地の観衆の多くも自らが歴史的瞬間の立会人になれる興奮とそんな偉大な立役者への惜しみない祝福で割れんばかりの歓声を送っていた。そんな光景に迎えられて、セバスチャン・サウェは遂に史上初のサブ2という新たな領域に足を踏み入れたのだった。前半のハーフを60:29で通過してのゴールタイム1:59:30なので、後半のハーフを59:01で走った事になる。凡そフルマラソンのラップタイムとは思い難い数字である。

 

 そんな興奮から11秒後にケジェルチャは帰ってきた。恐るべき事に初マラソンでこの最高次元のレースを最後の最後まで戦い抜いて1:59:41という破格の初マラソン世界最高記録を樹立した。これに続いて優勝候補の1人だったキプリモも単独だハイペースを維持し続けて2:00:28と従来の世界記録を上回るタイムでゴール。更に更に既に歴戦のベテランと言うべきアモス・キプルトが2:01:39を叩き出し4位、五輪王者タミラト・トラは2:02:59で5年ぶりに自己記録を更新した。


 このレース、30km以降一度も先頭を譲らず自らサブ2のレースを作ったサウェも勿論凄いが、同様にもしくはそんなサウェ以上に凄かったのはケジェルチャ。前述の通りケジェルチャはこれが初マラソン、初マラソンでこのレースを演じて見せたのだ。サウェは言ってもこの約2年間で既にプラチナラベル3レースを経験しているのである程度のマラソン経験値は蓄えられているが、ケジェルチャにはそんな蓄積は一切ない。だからこそ今回のレースでも最後まで残っているなんて正直思ってなかったしもっとほろ苦いデビュー戦になると思ったいたのだが、蓋を開けたら史上最強の男と殴り合うはサブ2と言う夢の領域に行ってしまうわで良い意味で何一つ予想通りでは無かった。未だにこれが初マラソンだと言うのが信じられない。






​歴代トップ10の変化 


1、セバスチャン・サウェ→1:59:30🆕

2、ヨミフ・ケジェルチャ→1:59:41🆕

3、ジェイコブ・キプリモ→2:00:28🆕

4、ケルヴィン・キプタム→2:00:35

5、エリウド・キプチョゲ→2:01:09

6、アモス・キプルト  →2:01:39🆕

7、ケネニサ・ベケレ  →2:01:41

8、シサイ・レマ    →2:01:48

9、ベンソン・キプルト →2:02:16

10、ジョン・コリル   →2:02:24



 遂に出現した1時間台と言う領域

それ以外でもこれまで4人しかいなかった2分切りの達成者が一気に倍の8人に激増しあれほど衝撃的だったキプタムの記録は一気に4位にまで追いやられた。更にちょっと前まで2分台出せば歴代トップ10級だったランキングから今やその2分台も駆逐されつつある。10位のコリルはボストンで2:01:52を出した選手で平地で1分台は十分射程圏であり、今回のロンドンで5位に入った前述のトラも難コースニューヨークシティで1分台相当の記録を出して優勝しているので、本質的には既に1分台でトップ10は占められているのかも知れない。

 今回のロンドンマラソンではサウェ、ケジェルチャ、キプリモの上位3人が従来の世界記録を上回りサウェとキプリモは歴代トップ10の中でその序列を上げた。ケジェルチャはキプタムの初マラソン世界記録を1分以上更新。この上位3人はその中でもかなり開きがあるとは言え後半のハーフを59分台でカバーした。またサウェはラスト2.2kmで5:51と言う桁外れのラップを刻み、この最終区間で初めて6分を切った。1km換算で2:40、10km換算で26:40と言うハーフマラソンだとしても驚異的なペースである。 

 そしてアモス・キプルトは2022年の東京マラソンを2:03:13で走って2位に入り、当時の歴代8位タイ(他2人は同じケニアのエマニュエル・ムタイとウィルソン・キプサング)にランクインして以来4年ぶりの歴代トップ10に返り咲いた。従来9.10位にはエチオピアのゲレタ(PB 2:02:38)とレゲセ(PB 2:02:48)がいたが、2分台後半はもうランキングか沙汰される事になってしまった。これにてランキング構成はケニア6人・エチオピア3人・ウガンダ1人となった。