第7章 なぜこのような国民に不幸をもたらす逆転現象が起きたのか
私の答えは「労働者達が造りあげて来たそれまでの約100年間の公平な社会システムを、富裕層・支配層が我が世を謳歌する為のシステムに戻した」で、さらに言えば「予想以上の大成功を手にし、さらに高みを求め続けている」と付け加える事が出来る。
さすがにエスタブリッシュメント(支配層)のクーデターとまで言い切る人は少ないが、新自由主義が元凶だと指摘をしている米国の経済学者は多数いる。残念ながら、日本ではほんの数えるほどです(注1)。これは、原発事故が起きるまで、日本の学界(東大の教授達)は水素爆発など起きるはずが無いと豪語していたのと同様で、学者やマスコミは政府寄りで無ければ息も出来ないのでしょう。この単純明解な回答で、すべての謎が解けます。
1970年代から、なぜ新自由主義がもてはやされてたのか?
20世紀前半は、産業革命後に起きた労働者権利の高まりと二度の大戦により、資本家・富裕層は人類史始まって以来の大規模な累進課税を課せられ、またニューディール政策に代表されるように社会主義的な政策が採られた。これは彼らにとって資産と所得を大幅に減らすことになる屈辱的な痛手でした。さらに英国が火種を撒き、米国が火に油を注いだイスラエルの中東戦争で、アラブ諸国はOPECを結成し、石油価格を約20倍上げることで反意を示した。これが折からの労働者賃金上昇に加わり、世界的なインフレとなった。これが1900~1970年代に起きた経済状況でした。
当時、急激なインフレは膨大な金融資産を猛烈に目減りさせていた。そこで保守層・資産家は、反撃に出た。そこで先ず、インフレの原因を無謀な賃金上昇にあるとし、さらに公務員の怠慢、労働組合の横暴、公営企業の非効率を大々的にマスコミを使って喧伝した。これが浸透すると、米英日の保守層・富裕層に支えらえた共和党、保守党、自民党は、レーガン、サッチャー、中曽根を政府のトップに押し上げた。この後の彼らの一連の政策は既に見て来ました。
半世紀を経て、新自由主義を最も取り入れた国の経済と社会は、あきらかに逆戻りした感がある。
・全体に所得は増えて豊かになってはいるが、先進国では百年前と同様かそれ以上の格差拡大。
・寡頭政治と見紛うほどの、一部の超富裕者の、超富裕者による超富裕者の為の政治になり果てた。
・ 特に米国だが、貿易、金融、軍事で帝国主義的な粗暴さが目に余る。
・さらに悪い事に、社会が疲弊する過程で生まれるポピュリズムと独裁志向が盛んになっている。
こうしてみると、生半可な事で、現状の米国と世界を超富裕者から国民に取り戻す事は困難なように思える。人類は、これまで幾度も改革、革新を行って、より良い社会を作って来たが、そこでは血を見ることが多かった。
注釈1 英国のデヴィッド・ハーヴェイ経済地理学者は、「新自由主義 その歴史的展開と現在」において、エスタブリッシュメントの反乱とまで言い放っている。日本で、新自由主義改革に警鐘を鳴らし続けて来たのは金子勝経済学教授だった。幾つもの著作があるが「平成経済 衰退の本質」 (岩波新書 新赤版 1769)、2019年、岩波書店もその一つです。またエコノミストの森永拓郎も、勇気を持って批判を続けていた。彼の 「年収300万円時代を生き抜く経済学」2003年、光文社は鮮烈でした。最も、早く日本の衰退を予見し、公表してくれた。当時、私は半信半疑でした。また小野善康経済学者も、「資本主義の方程式-経済停滞と格差拡大の謎を解く」 (中公新書, 2679)、2022年、中央公論新社で、日本の経済政策を批判している。
ここで将来を好転させられる可能性を探ります。
第8章 実は、世界には米国が拡散した新自由主義とは異なった道を選んだ国々がある
第1節 新自由主義と袂を分かった国々
多くの日本人は、漠然と日本が最高と思っているようです。最新の世界幸福度ランキングで日本が55位だが、1位から7位までがフィンランド、デンマーク、アイスランド、スウェーデン、オランダ、ノルウェーです。またメキシコ、オーストラリア、ニュージーランドは12位までに入っています。ちなみに英米は23と24位です。これらの順位は大きく変化しませんが、日本の低下傾向だけは目立ちます。但し、幸福度の指数は他にもあり、順位は若干異なります。世界には日本より暮らしやすい国は多いのです。北欧は優等生だが日英米は先進国では劣等生なのです。不思議なことにに米国と同様に移民が多いオランダ、オーストラリア、ニュージーランド、カナダですら幸福度は高いのです。つまり違いは政治の良し悪しなのです。
北欧諸国は大戦前後から一斉に福祉国家に舵を切りました。北欧は中立を保っていたが大戦時ドイツに侵攻された。しかし戦争当事国では無かったので大きな破壊を免れた。当時、共産主義や社会主義を目指した国は多かったのですが、北欧は資本主義を継続しながら福祉を充実させる政策を推し進め、現在、世界の模範国と言えます(注1)。高負担なのですが、驚くべき事に一人当たりのGDPランキングは、アイスランド、ノルウェー、デンマークまではベスト10に入り、スウェーデンで16位です。北欧諸国は米英に比べて経済格差が少ないので、経済的な不満は少ない。そして北欧の高負担は、現在なら日本の負担割合とほぼ同率です。
北欧は、介護、医療、教育等の福祉がほとんど無料です。また労働者の育児休暇、失業・転職の支援制度は最高水準です。移民や難民が入国し就職するまでの支援も優れています。グローバル経済の熾烈な競争に晒されながらも、なぜ労働者の賃金を高水準に維持できるのでしょうか。様々な抜本的な対策がなされています。先ず、産業界と労働界が協議し、高付加価値産業への転換を計画し、労働者の転職を支援します。さらに伝統的な強みがあります。元来、北欧は極寒の地であり、農作物に恵まれませんでしたので、交易を重視し、近代に入ってからは知的産業の育成を図って来た。スカンジナビア半島の人々は、今でも千年前のバイキングの精神が生き続けており、若者は海外に出ることを厭わず、小学校で母国語以外に二ヵ国の外国語を学んでいる。これに加えて、バイキングの直接民主主義(アイスランド)の社会意識が浸透しており、社会参加や政治意識が非常に高い。この事が、議員の汚職皆無、高い投票率に繋がっている。スウェーデンは、20世紀初頭は非常に貧しく、米国への移民が多い時もあったが、これらが奏功し豊かな国になったのです。また北欧諸国は互いに協力し、競うように豊かな国造りを行って来た。
実は、現在、北欧の中で、スウェーデンだけが苦しんでいる。この国は、1990年代の経済危機を契機に新自由主義的な転換を図った。それが災いしたのか、経済成長低下、経済格差拡大、移民による治安悪化で苦しみ、排外主義政党が勢力を増している(エピ1)。
奇妙な事があります。日本人はあまり北欧のことを知らず、せいぜいオーロラかフィヨルドぐらいでしょうか。さらに良い印象が少なく高負担のイメージが強いようです。北欧三ヵ国旅した印象では、現地の人は日本人に好意的でした。おそらくこれは単に遠いだけでなく、保守系メデイアが北欧を良いイメージで報道していないからでしょう。北欧が成功している事は、米国の新自由主義を否定することになるからです。これはルーズベルト大統領のニューディール政策を批判する姿勢と同じです。どうか、騙せれないようにして下さい。
第2節 新自由主義の誘惑に負けずに経済発展を掴んだ国々
IMF(世界通貨基金)や世界銀行は、発展途上国の発展を支援する役目なのですが、既に述べたように、結果的に彼らは債権者(米欧の金融機関)を守る事を優先し、融資を受けた国の多くは苦しみます。債務国が独裁者の国なら、融資資金は途中で掠め取られ、さらに国民は苦しみますが、独裁的な国の方が多いのが現状です。既に見たようにアジア通貨危機におけるタイや韓国は非常に苦しみました。これを知って、IMFに頼らず、自力再生を行った国があります。
マレーシアは、アジア通貨危機の際、自国通貨も暴落した。IMF(注2)は、融資と引き換えに緊縮財政や高金利政策を求めてきましたが、マハティール首相は、IMFの緊縮政策が経済を悪化させ、投機家を利すると批判し、提案を拒否しました。彼は、資本規制の導入、為替レートの固定、緊縮とは真逆の景気刺激策として公共事業への投資を行い、急速な景気回復を成し遂げました。これは、必ずしもIMFの処方箋が唯一の正解ではないことを示す事例として知られることになるが、稀有な例です。残念ながら韓国上層部は、IMFの誘惑に負けてしまった。
インド洋に、珊瑚礁のダイビングで有名なモーリシャスが有ります。この国は直径40kmほどのモーリシャス島を中心とする島国で、1968年に英国から独立し、インドからの移民が70%を占めます。経済成長率5%、一人当たり名目GDPはアフリカ内で2位で、福祉もゆきとどき、治安も良好です。かつてのサトウキビ・繊維・観光業に依存した経済からの脱却し、金融・IT・サービス業への産業多角化に成功したのです。これまでIMFの手を借りずに、経済発展を成し遂げて来た(エピ2)。
こうして見ると、世界は資本主義経済に取り囲まれていても、新自由主義に毒されず、国民の幸福を勝ち取っている国はあるのです。
第3節 中国は経済成長を成し遂げている稀有な共産主義国です
1970年以降の鄧小平による改革・開放政策は経済的に大成功でした。共産主義に資本主義的な要素(財産の私有、余剰作物の自由販売等)を取り入れ労働意欲を刺激させることに成功しました。共産主義制でも舵取りが良ければ、経済が発展する例となりました。中国の奥地の小都市まで豊かさが広がっています(エピ3)。後半の不動産バブル崩壊は、大きな痛手になっているはずですが、不思議に、まだ大問題に至っていないようです。
一方で、大きな不安材料があります。それは農村部と都市部の経済格差と一党独裁が、今後も発展を可能にし、中国国民の幸福度を上げて行けるかです。中国政府は開発独裁で、電気自動車やAI、全国新幹線網の整備等、これと言った戦略的な分野に巨額な投資を行い。また滴滴出行等の配車サービス、アリペイ等のスマホ決済への規制緩和は既存業界の権益を無視して強行されています。これらは中国らしい良さと言えますが、悪い面もありました。コロナ発生時のロックダウンは観念に走り、経済に大打撃を与えた。またワクチンの開発は欧米に完全に遅れた。これらは独裁制、計画経済、官僚主導の悪い面が出ています。この点、やはり欧米の自由民主主義の方が勝る。
注釈1 北欧は西欧と隣合っているのに、なぜ異なる道である福祉国家で中立を目指したかは、日本にとって参考になる。明確には分からないが、北欧は西欧とバルト海を挟み、かつ北の端にあり、かつ小国であった事が大きいようです。ただデンマークの一部は大陸と陸続きなのですが。またフィンランドはロシアと国境を接し、侵略を受けており、西欧(ドイツ)とロシアに挟まれた形になっていた。こうした事が関係しているようだ。
注釈2 IMFや世界銀行といったワシントンに本部を置く機関が、1989年前後から開発途上国に対し推奨した一連の新自由主義的な経済政策パッケージ、これをワシントンコンセンサスと呼びます。これは「財政規律」「税制改革」「自由化(貿易・金融・価格など)」「規制緩和」「民営化」などを柱とし、市場原理主義的・新自由主義的な政策を推進するものでした。実際は財政規律の面で、緊縮財政を呑ませ、多くは悪化させた。その一つの例が、ソ連崩壊時のエリツィン大統領の下で、米国の学者達が主導したIMFの経済改革でした。これはロシア経済に壊滅的な打撃を与えた。
エピソード1 私はデンマークとスウェーデンを1990年頃に視察で訪問し、デンマークとスウェーデン、ノルウェーを2018年に一人旅で再度訪問し、2023年のワールドクルーズでスウェーデンとノルウェーの人に意見を聞く機会を得た。私は70ヵ国ほど見て来たが、このスカンジナビア三国が最も優れた国だと確信している。自然と人々が素晴らしいだけでなく社会・政治が優れ、歴史も魅力がある。欠点が見当たらない。驚くべきは、家族・友人との暮らしを優先しながら経済の繁栄を手に入れている事です。ホームレスを見たことが無い。気になる事もある。30年ほどの間に3度、スウェーデンを知る事になるが、やはり新自由主義と移民問題はこの国を急速に蝕んでいる。回を重ねる度に、東アジア人や移民対して排他的になっていた。デンマークやノルウェーは、まだ穏やかだった。デンマークのコペンハーゲンで、結婚し住んでいる日本女性と話す機会があった。彼女は強い口調で「日本の政治家(自民党)は汚職に明け暮れ、時代遅れだが、この国では、汚職が無いのが当たり前。」また「この国では日本女性が人気ですが、結婚してから失望することになる。それは日本女性がまったく政治の話を出来ないから。」と言った。私は恥ずかしくなった。
エピソード2 ワールドクルーズでモーリシャスを訪れ、珊瑚礁で泳ぐ為にバスで島を縦断した。広大なサトウキビ畑の中を走ると、道の両側には、大きな庭を持ったしっかりした造りの家屋が続く。庭は小さなバナナ等の果樹園等になっており、南太平洋やインド洋の他の島々に比べ豊かさを感じた。バスガイドは教育費と医療費が無料と言っていた(確認済み)。残念ながら、辿り着いた珊瑚礁の海に魚は少なく、珊瑚の死滅が進んでいた。これは世界的な傾向ですが。
エピソード3 私は中国を40年ほどの間に幾度も訪れ、2019年、妻と中国の奥地や外縁部を一周し、7都市を尋ねた。山間奥地でも至る所で大規模開発が進み、暮らしぶりは古いままの場合もあったが、豊かさを感じた。町や公園で見る少数民族の人々は自信に溢れているようだった(1億を越える少数民族保護政策は良いようだ)。至る所が観光地となり、人々は盛んに観光を楽しむようになっていた。25年前には無かった光景です。2000kmにわたり新幹線の車窓から見た分には、貧しい家はかなり減っていた。当然、沿岸部の都市部は高層ビルや高層マンションが立ち並び、昔の面影はなく、人々は明らかに農村部とは異なる豊かさを満喫し、のんびりと暮らしている。間違いなく中国は発展しており、不満が爆発するなどの波乱要因があるように思えなかった。ただし、カメラ等による国民の監視は浸透しているようだ。旅行中、不動産バブル崩壊を予想できなかったのが悔しい。
我々国民は、新自由主義以外の道を望むことは出来ないのだろうか。
かつて私の青春時代は、希望に溢れる時代でした。
日本の1960年代、高度経済成長の時代、労働者は夢を持って働き、経済成長が著しかった時代です。
第9章 1960年代、世界はなぜ幸福で、高度経済成長を成し遂げたのだろうか
新自由主義を行おうとしたエスタブリッシュメント(支配層)は、70年代を徹底的に貶め、新自由主義的な改革こそが絶対必要と大合唱していたが、真実はどうだったのだろうか。
第二次世界大戦後の四半世紀余りは、世界の工業国の連続的な成長としては、歴史上最も長く、最も高い成長率を経験した。この間、工業諸国の一人当たりの経済成長率は年4.5%に達し、日本は7.3%と最高であった。この成長は奇跡では無く、理由があった。農業人口の減少、移民の増で、豊富な労働力が得られた国々で急成長が起きた。さらに米国の援助(マーシャル・プラン)が復興の口火を切った。これで高水準の貯蓄と投資が好循環を始め、消費支出と投資支出が競合し、インフレが起きたが破滅的では無く、投資は順調に工業生産の拡大を呼び込んだ。これに大きな要因となる政府の役割が加わった。政府は、これまでになく大規模に、経済と生活に直接・間接に関与し、幾つかの基幹産業を国有化し、経済計画を立て、広範な社会サービスを提供するようになった。西欧では、国民所得の1/4~1/3が政府部門の提供になっていた。戦後の西欧は、福祉政策を重視しながら、かつ民間企業に多くの財の生産とサービス提供を任す体制になっていた。さらに米国は、国際レベルで大いに貢献した。米国が督促し、各国が高水準の政府間協調を成し遂げ、経済活動の効率を大いに向上させた。今のトランプと真逆だった。日本は、明治以来の官僚制で、開発主導国家になっていた事が特徴でした。
しかし、やがてマイナス面が現れた。上記の成功は、国政担当者や労働界に過信を生み、様々な歪を生んだ。一つに、労働組合は労働者に有利な利潤を求め、ストライキが頻発するようになった事。当時、工業諸国はドルに対する自国の通貨安によって、自国の製品が米国の製品と競争出来た。しかし米国はベトナム戦争で経済的に弱体化し、ニクソンは1971年、ドルの一方的な下げを行い、西欧も日本も、通貨高で苦悩することになった。また後々まで引きずる問題が起きてしまった。マーシャル・プラン(大戦後の復興援助)の成功によって、当局が金融資本を発展途上国に与えれば発展するものと勘違いするようになったことです。この事が、後に、多くの発展途上国で破綻を引き起こすことになった。西欧で成功したのは、教育と技術等が充分に育っていた下地があったからでした。(注1)
こうして見ると、大戦後からの一時期、ドイツ、英国、日本などの国々は焼け跡からの復活に留まらず、政府が革新性をもってリードし、国民が一丸となって再興を成し遂げた様子が伺える。後の、行き過ぎや歪は、けっして重大な問題ではなかった。いまだに、米国の保守は、ルーズベルト大統領のニューディール政策を、研究機関を使って、必死に否定する徒労を続けている。日本の保守も、これを借用している。さらには、北欧の成果すら、否定することに熱心です。私達が自ら世界に目を向けていないと、見誤ることになります。
注釈1 この章の説明は主に、「概説 世界経済史 Ⅱ」ロンド・キャメロン共著、2013年、東洋経済新報社刊、の「高度成長の時代」p262-265による。
これまで、混迷する現代世界の惨憺たる状況を確認しました。
また現在迷い込んいる道と異なる道があることも紹介しました。
ここで世界中の人々が、危機を感じ、声を上げ始めた状況を見てみましょう。
第10章 新自由主義の流れを食い止める!
第1節 反対運動の流れ
日本では新自由主義とグローバリズムに異議を唱える動きは目立ちませんが、世界では活発化しています。欧米と日本のいくつかの動きを紹介します。
・ウォール街占拠運動(反格差社会デモ); 米国。2011年、ニューヨークのウォール街で若者がデモを行いました。 彼らは「私達は99%」というスローガンを掲げました。 これはアメリカでは、人口の1%が富の99%を独占している状況を訴えています。
・反グローバリズム運動; 欧米が中心。経済のグローバル化が貧富の差拡大や環境破壊などを引き起こしているという考えに基づき、国際会議や国際的なイベントなどに反対する運動です。集会やデモといった平和的なものから、一部には暴動や破壊行為に及ぶ過激なグループも存在しています。トランプも反グローバリズムを謳っています。
・イギリスのEU離脱(Brexit);2016年、「主権を取り戻す」というスローガンは、EUという超国家的統合への反発を象徴していた。移民問題でEUに干渉されることに反感を持った事などが主因でした。新自由主義ではなくグローバリズムへの抵抗と言えるかもしれません。
・世界社会フォーラム; 世界的な運動。2001年、新自由主義によらない自由民主主義(真に国民)の為のグローバル化を模索するサミットが初めて開催され、現在まで続いている。これは新自由主義を標榜する最大の祭典(年次総会)である「世界経済フォーラム」(ダボス会議)に対抗するため作られたサミットです。
・ 黄色いベスト運動; 2018年以降、フランスで継続して起きている。抗議者が黄色いベストを着てデモを行う。抗議の内容は、「燃料税の削減」「富裕層に対する連帯税の再導入」「最低賃金の引き上げ」など多岐に渡っています。
・ 「NO KINGS 王様はいらない」デモ; 2025年、第二期トランプ政権の初年度、米国で継続して起きている。専制的色彩を強めるトランプ政権に対し、「民主主義を守れ」「独裁者は出ていけと抗議している。全国2700ヵ所以上でデモが行われ、約700万人が参加。
・ 財務省解体デモ; 日本。2025年、「財務省は、予算を人質に取って政府を操る黒幕」として解体を訴えるデモが行われた。「国民の減税要望を阻止するな!」等の具体的な要求はあったが、概ね「ディープステート」の粉砕に重きが置かれているように感じた。日本人がデモを行う事が少ないので、盛り上がりを期待したのですが、息切れしてしまった。意識の高まりは素晴らしいと思うのですが、本質を突いた主柱になる思想(解決手順)が無い為に苦戦を強いられたように思う。
残念ながら、対抗の動きは散発で、狙いは定まらず、大きな塊となって変革を押し進めるまでにはなっていないようです。しかしポピュリズムだけではない、政府に正攻法の変革を望む人々が増えているようです。
第2節 新自由主義の弊害から逃れる幾つかの案
様々な分野の識者が提言していますが、3人の米国の経済学者の案を紹介します。
最初に、米国のクルーグマンの指摘を紹介します。
「総ての問題の根源は、アメリカの人種差別問題にある。今でも残る奴隷制度の悪しき遺産、それはアメリカの原罪であり、それこそが先進国の中でアメリカだけが国民に対して医療保険制度を提供しない理由である。先進諸国の中でその国の大政党が福祉制度を逆行させようとしているのは、アメリカだけであり、その理由とは、黒人解放運動に対する白人の反発があるからなのだ」
これは彼の著作「格差はつくられた 保守派がアメリカを支配し続けるための呆れた戦略」(2008年)からの引用です。大政党とは共和党を指す。上記の指摘で注意が必要なのは、企業と富裕層を減税する為に、福祉予算を削減するのは、新自由主義諸国に共通している事なので、米国が異常であって、もっとも格差が酷くなったことを指している。
米国のスティグリッツの著作「世界を不幸にしたグローバルリズムの正体」(2002年)から提言を紹介します。この本は最も早く新自由主義下のグローバリズムに警鐘を鳴らし、ベストセラーとなった。彼は、世界金融危機の勃発を予言した数少ない経済学者の一人で、 クリントン政権では、米国大統領経済諮問委員会委員長(1995年-1997年)を務め、その後は世界銀行で上級副総裁、主席経済学者(1997年-2000年)を務めた。彼は、世界の金融システムの危険な実情を知り、以下のように訴えた。
・資本市場(特に短期資本)の自由化には問題があるので、政府が介入・規制すべし。
・破産法を改正する。IMFの融資する債権者の保護の為に債務状態の引き延ばしを止める。
・ 破産の適用が増えれば、度々失敗している発展途上国等への救済措置は減る。
・先進国と途上国の銀行規制の改善。リスクの多い短期融資を抑制。
・リスク管理の改善。不安定な為替レートによるリスクを減らす工夫を先進国がリードするべき。
・セーフティ・ネットの改善。多くの途上国には、弱いセーフティ・ネット(失業保険など)しかないので、国際的な援助は不可欠である。
・ 危機対策の改善。金融危機で失敗している。
彼は新自由主義下のグローバルリズムによる弊害を取り除く方法を提言している。私は詳細を理解出来ないが、これらの実施は、けっして簡単ではない。先進国の協調した介入が不可欠ですが、いままでも米国は必ずと言っていいほど反対し、国際条約・協力の成立を阻止して来た(タックスヘイブン対策等)。
一部、米国抜きで行われているが、抜け穴が多く、目的を達することは困難でした。特に、彼はIMFや世界銀行に運営方針の転換を求めているが、これも米国のワシントン・コンセンス(ウオール街と支配層)の抵抗に遭うだろう。彼は、まだ米国の良心を信じている。
米国のダニ・ロドリックの著作「貿易戦争の政治経済学 資本主義を再構築する」(2019年)から提言の要点を紹介します。
・市場をガバナンスのシステムに深く組み込まなければならない。海外と国内の市場にも言える。
・民主的なガバナンスや政治コミュニティは主に国民国家の内側で形成されるものであり、近い将来もそうでありつづけるだろう。
・繁栄に通じる「唯一の道」はない。それぞれの国が自国に適した制度を発展させれば良い。
・ いずれの国も自国の規制や制度を保護する権利を有する。もし貿易によって、国内の広く認められた慣習が脅かされる場合は、自国の慣習を維持できる。TPP等はこれに反する事を強制する。
・いずれの国も他国に自分たちの制度を押し付ける権利を有しない。
・ 国際経済の取り決めの目的は、各国の制度の境界面を管理する交通規則を策定することでなければならない。あらゆる国際ルールを撤廃すべきという意味ではない。
・民主主義ではない国は、国際経済秩序において民主国家と同じ権利や特権を期待する事出来ない。彼は海外からの移民のに人権を多少制限して、移民の受け入れをスームズにする事も提案している。
彼の案は、トランプが現在、関税でやっているように、力を背景に他国を犠牲にして、米国の都合を押し付けるようになら、より小国の努力は無力化されてしまう。彼の提案は2011年が初出なのでトランプの1期目を知らない事になるが、この本は2018年刊なので、その後、修正しても良いように思うのだが。米国の高名な学者は往々にして、トランプの2期目を想定していなかった。あまりにも楽観的過ぎる。
スティグリッツの提案と彼の提案はかなり異なる、前者は世界が協調し先進国がリードし、後者は、各国が干渉されずに政策を実施すべしとしている。しかし共に規制・ガバナンス(管理)が必要という点で一致している。
経済学者の改善策は論理的に有効なのだろうが、我々庶民からすれば、これだけでは実行可能性がまったく見えない。既に新自由主義に深く冒されてしまった政府は、エスタブリッシュメントの言いなりになっている。これらの策は彼らにとって何のメリットもなく、デメリットだけです。新自由主義への転換は、当時のエスタブリッシュメントが経済学者フリードマンの理論を、都合よく利用した事に始まる。つまりエスタブリッシュメントに頼る事は出来ない。ここで解決可能な道は二つ、国民が目覚め、議会制民主主義の火が消えない内に、政府を国民に取り戻し、上記提言策を講じる事。今一つは、巨大な金融危機が起こり、荒廃の中から国民が一致して再興を目指す時ぐらいでしょう。まるで『ヨハネの黙示録』のアルマゲドンからの復活のようですが。このようになって欲しくはないが。
我々には、幸福と自由を取り戻す選択肢と時間があまり残っていない。
不運な事に、さらなる悲劇が私達を襲おうとしています。
続いて第Ⅱ部では、独裁と大戦勃発について考えます。
参考文献
この「取り戻せ豊かな暮らし! 危機に陥る前に」のレポートを書くにあたり、私の思索の礎になっている著書・著者を紹介します。
・ポール クルーグマンとジョセフ・E. スティグリッツの幾多の著作は、新自由主義による米国と世界経済と社会の問題を私に一早く気付かせてくれた。
・ ダロン・アセモグルの一連の著作は、民主主義こそが経済の発展に有効だとの自信を私にくれた。この三人は総てノーベル経済学賞を受けている。社会科学における米国の学者の層の厚さと、論述のスケールの大きさにおいて、日本に比肩出来る人がいないと思います。
・ トム・ピッケティの著作は、経済格差が歴史的な流れの中で欧米全体に起こっている事を私に教えたくれた。
・エマニュエル・トッドの数々の著作は刺激的で、多角的に歴史を見る助けになっている。特に、彼の「新ヨーロッパ大全 Ⅰ、Ⅱ」(1992年、藤原書店)で知った家族人類学は目から鱗でした。
著書以外に、ウィキペディア(Wikipedia)、AIのChatGPT、Gemini、Copilot(Deep Research)をほぼ毎日利用しました。これら無しでは執筆は不可能だったでしょう。
このレポートをを書くために参考にし、または一部引用した翻訳本のリストです。
・「新自由主義 その歴史的展開と現在」デヴィッド ハーヴェイ著、2007年、作品社
・ 「貿易戦争の政治経済学 資本主義を再構築する」ダニ・ロドリック著、2019年、白水社
・ 「大不平等――エレファントカーブが予測する未来 」ブランコ・ミラノヴィッチ 著、2017年、みすず書房
・ 「監視資本主義 人類の未来を賭けた闘い」ショシャナ・ズボフ著、2021年、東洋経済新報社
・「民主主義の死に方 二極化する政治が招く独裁への道」スティーブン・レビツキー著、2018年、新潮社
・ 「実力も運のうち 能力主義は正義か? 」マイケル・サンデル著、2021年、早川書房
・ 「概説 世界経済史 Ⅱ」ロンド・キャメロン著、2013年、東洋経済新報社
・ 「社会はなぜ左と右にわかれるのか 対立を超えるための道徳心理学」ジョナサン・ハイト著、2014年、紀伊国屋書店
・ 「オリバーストーンが語るもう一つのアメリカ史 1、2、3」オリバー・ ストーン, ピーター・ カズニック 共著、2013年、早川書房
・ 「民主主義の危機 AI・戦争・災害・パンデミック――世界の知性が語る 地球規模の未来予想」朝日新書、 イアン・ブレマー, フランシス・フクヤマ, ニーアル・ファーガソン, ジョセフ・ナイ他著、2024年、朝日新聞出版
・ 「格差はつくられた 保守派がアメリカを支配し続けるための呆れた戦略」ノーベル経済学者、ポール クルーグマン 著、2008年、早川書房刊
・ 「世界を不幸にしたグローバリズムの正体」ノーベル経済学者、ジョセフ・E. スティグリッツ 著、2002年、徳間書店
・ 「技術革新と不平等の1000年史 上、下」ノーベル経済学者、ダロン・アセモグル, サイモン・ジョンソン共著、2023年、早川書房
・「国家はなぜ衰退するのか 権力・繁栄・貧困の起源 上、下」ダロン・アセモグル著、2013年、早川書房
・ 「図説世界の歴史 7、8、9」J.M. ロバーツ 著、2003年、創元社
・ 「日米逆転 成功と衰退の軌跡」Jr. C.V.プレストウィッツ 著、1988年、ダイヤモンド社
・「経済政策で人は死ぬか?公衆衛生学から見た不況対策」デヴィッド スタックラー著、2014年、草思社
・ 「リベラリズムへの不満」フランシス・フクヤマ 著、2023年、新潮社
・ 「21世紀の資本」トム・ピケテイ著、2014年、みすず書房
・ 「西洋の敗北 日本と世界に何が起きるのか 」エマニュエル・トッド著、2024年、文藝春秋
・ 「サピエンス全史 上、下」ユヴァル・ノア・ハラリ著、2016年、河出書房
・ 「情報の人類史 人間のネットワーク上、下」ユヴァル・ノア・ハラリ著、2025年、河出書房
・ 「ゴールドマン・サックスに洗脳された私 金と差別のウォール街 」ジェイミー・フィオー著、2024年、光文社
・「自由の限界 世界の知性21人が問う国家と民主主義」(中公新書ラクレ)エマニュエル・トッド、ジャック・アタリ、マルクス・ガブリエル、マハティール・モハマド、ユヴァル・ハラリ他著、2021年、 中央公論新社
・「戦争中毒 アメリカが軍国主義を脱け出せない本当の理由 」ジョエル アンドレアス著、2002年、合同出版
・ 「大脱出――健康、お金、格差の起原」ノーベル経済学者、アンガス・ディートン著、2014年、みすず書房



















































