はじめに
私がこのレポートを書いたのは、日本が長い低迷から脱するどころから、益々、国際ランキングを落とし続け、さらに好調そうな米国でさえトランプ旋風が吹き荒れ混乱しているからです。さらに私が危機感を強めているのは、これら状況の悪化の本質に手を付けることなく、多くの国が右派ポピュリズムの勢いだけで解決出来るようなムードになってしまっているからです。
先ず、私は米国の現状分析を行い、なぜ米国で経済格差が拡大し、そして分断が起きたかを明らかにします。次いで日本も扱い、日本独自の弱点がさらなる悪化をもたらしていることを示します。一方で米国や日本と異なる選択をして、幸福を手に入れた国々を紹介します。この両グループの違いから、日米英はどこで間違った選択をしてしまったかを明示します。第一部でこれらを扱います。
その後、米国の暴走の危険性と共に、世界に蔓延しつつある独裁制復活の危険性を取り上げます。プーチンとウクライナ戦争、そして中国に纏わりつく戦争について考察します。第二部でこれらを扱います。
最後に、堕ちてしまった現状の苦境から脱出する希望の道を探ります。一つは、人類がこれまでに成し遂げて来た叡智や様々な勇気、そして現実の成功事例を紹介します。一方で、未来予測や現状分析、そして警鐘を受け入れることの困難さに触れます。だが幸いなことに、一筋だが確固たる光明が射し始めた。それはノーベル経済学者が著わした「技術革新と不平等の1000年史」です。ここには、私が求めていたすべての解答が書かれているといっても良いでしょう。この要約を掲げておきます。第三部でこれらを扱います。
各章を簡単に紹介をします。
第Ⅰ部 疲弊し暴走する国家
第1~4章で、米国の惨状の分析を行います。そこにはエスタブリッシュメントに好都合な新自由主義政策と戦争中毒、結果としての金権政治と経済格差の関連を明らかにします。
第5~7章で、日本の惨状の分析を行います。これにより日本の長期衰退の原因を理解出来るでしょう。特に19世紀に始まる欧米の労働運動のうねりと、日本の労働運動の悲惨な結果をみます。最後に、新自由主義が如何に煽情されて、国民に受け入れられたかもみます。
第8~10章で、我々に新自由主義以外の選択肢があることを紹介します。それも豊かな幸福を手に入れた国々があることを。
第Ⅱ部 独裁と戦争
第11~12章で、トランプの危険性、独裁者の側面に焦点をあてます。
第13~17章で、ヒトラーを例に独裁とは何かを知った後に、独裁者プーチンと習近平を考察します。またウクライナ戦争の背景を知って、対処を考えます。
第18~19章で、ベトナム戦争と日本の戦争を振り返り、戦争がつまらない誤解や思い込み、そして国のトップ連中の都合で国民が振り回された様子をみます。
第Ⅲ部 未来を切り開く
第20~23章で、現実に幸福を手に入れた国々、また人類が長い年月を掛けて民主主義や人権(男女平等)を如何に手入れたかを紹介します。
第24章で、如何に現状分析と未来予測が困難だと言うことを、多数の経済書を例にみます。一方で有効な警告の書もありました。
第25章で、アセモグル著「技術革新と不平等の1000年史」の要約を挙げ、彼が唱える「民主的な力で、技術の進歩をコントロールしてこそ、国民全体が豊かになった、これからもそうあるべきだ」を、著書の流れに沿って説明します。皆さんがこの著書を自分で読んでいただければ、私のレポートの1/3は不要になります。
おわりにで、レポートのまとめと、皆さんへの最後のお願いを書きました。
このレポートは、多岐にわたる問題を網羅した結果、注意点が分散してしまった感があります。もっとも手短に読むのなら、第1~5章で現状を知って、第25章の著名な学者の分析と解決策を理解していただければ良いでしょう。あとは、関心のある項目だけ読んでいただければと思います。
--- 目 次 ---
第Ⅰ部 疲弊し暴走する国家
はじめに
第1章 米国で起きている事: 分断の要点と主因
なぜこのような事に成ったのか?
新自由主義、放埓なグローバル化、IT産業革命、難民と移民の増大、対決を選んだ政治
第2章 米国で起きている事 : 様々な要因と複雑な絡み
米国特有の問題に焦点をあてます
金権政治、政争に巻き込まれる最高裁、エリートを推奨した民主党、破壊工作と軍事侵攻、
グローバル化の惨劇、金融経済の暴走、様変わりした経営者、州の独自性が災いを生む、
共和党を支える福音派
第3章 この半世紀で米国政治はどう変わったのか
米国は、戦争中毒(世界の警察)と新自由主義への転換により、亡国の芽を育ててしまった。
戦争中毒
超富裕層に操られる国民
第4章 この半世紀で米国はどれほど劣化したのか
定量的に劣化度合いを見ます
経済格差、犯罪率、貧困、世界幸福度ランキング、自殺率、政府の債務残高、
対外債務、政府の信頼性
第5章 日本は新自由主義をどう受容し、社会・経済はどう変わったのか
第1節 主要内閣の実績と、その後の日本経済の低迷を確認します
第2節 日本経済が落ち目になった主因
賃金、可処分所得、労働分配率、非正規雇用
第3節 他の重要な経済社会指標から日本の劣化を見ます
国際競争力ランキング、幸福度ランキング、所得格差、企業の内部留保、
国内設備投資、海外投資、英国病
第4節 日本の政治が如何に低次元から抜けられないかを見ます
似非保守政治に日本の限界が見える、安倍が推進した円安とは
第6章 2世紀に亘る労働者の栄光と没落
第1節 19世紀から始まる欧米と日本の労働権獲得の歴史
第2節 世界のストライキ
第3節 日本の労働運動; 明治から大戦までの日本の悲しい労働運動を見ます
第4節 国鉄民営化にみる日本の改革パターン
第5節 国鉄民営化の問題点
国鉄の膨大な赤字、巨額債務の始末、民営化の被害者、何が国鉄をダメにしたのか、
国鉄労組の問題、最大の問題、日勤教育の根深さ、
第6節 日本の労働問題
日本の自殺、非正規雇用、仕事上のストレス、日本の公務員数、
第7節 日本の労働環境が際立って悪い理由
御用組合の欠点
第7章 なぜこのような国民に不幸をもたらす逆転現象が起きたのか
1970年代から、なぜ新自由主義がもてはやされてたのか?
第8章 実は、世界には米国が拡散した新自由主義とは異なった道を選んだ国々があります
第1節 新自由主義と袂を分かった国々
第2節 新自由主義の誘惑に乗らずに経済発展を掴んだ国々
第3節 中国は経済成長を成し遂げている稀有な共産主義国です
第9章 1960年代、世界はなぜ幸福で、高度経済成長を成し遂げたのだろうか
第10章 新自由主義の流れを食い止める!
第1節 反対運動の流れ
第2節 新自由主義の弊害から逃れる幾つかの案
スティグリッツ、ダニ・ロドリック
第Ⅱ部 独裁と戦争
第11章 トランプ政権の危険性とは何か
トランプについて
トランプ支持の保守派とトランプがほぼ一致している政策とは何か
第12章 トランプが独裁者になる可能性
第1節 最も恐れるもの
第2節 ヒトラーとトランプの共通点
第3節 ヒトラーとトランプの違い
第4節 トランプの独裁過程を検証
第13章 独裁とは何か
第1節 日本の掴みどころのない状況は、独裁制か? 民主制か?
第2節 独裁を知る事で、理想の民主主義が見えてくる
第14章 独裁者ヒトラー
第1節 ヒトラーの歩み
第2節 ヒトラー、ナチスの残虐行為
第3節 ヒトラーの心の闇
ヒトラーとトランプの比較
まとめ
第15章 独裁者プーチン
第1節 プーチンはどのようにして大統領になったのか?
第2節 プーチンによるロシアの経済と社会状況
まとめ
第16章 ウクライナ侵攻の真実―諜報戦の勝者は
第1節 ウクライナ侵攻の理由
第2節 著書「ウクライナ戦争における中国の対ロシア戦略」による
第3節 著書「プーチン ロシアを乗っ取ったKGBたち 下」による
第4節 著書「プーチンの世界 『皇帝』になった工作員」による
第5節 元ウクライナ特命全権大使のウクライナ評
まとめ
第17章 中国とロシア、日本の選択は
はじめに
第1節 中国とロシアを簡単に比較します
経済発展、少数民族と紛争、人々の暮らし、産業・経済力、
ロシアと中国の違いを社会指標から見る
経済の発展と軍事力の比較を見る、ウクライナ侵攻の帰趨、中国の台湾侵攻
まとめ
第2節 日本人が陥りやすい偏見
第18章 ベトナム戦争の顛末、悲惨な戦争を防ぐ為に
ベトナム戦争の思い出
第1節 ベトナム戦争の概要
ベトナム戦争の引き金になった事件から、終結まで
第2節 当時の指導者が戦争を振返った
いくつかの注目すべき事、ベトナム戦争からの米軍撤退はなぜ出来たのか?
ベトナム戦争からの教訓
第19章 日本の戦争
明治維新から太平洋戦争への道 年表
日本の聖戦論
日本はなぜ太平洋戦争に至ったのか?
軍部が独走した背景
天皇の存在
なぜ国内での解決ではなく海外侵攻に向かったのか
まとめ
第Ⅲ部 未来を切り開く
第20章 植民地支配や独裁から脱した国々
南アフリカ、リベリア、フィリピン、チリ、アルゼンチン、韓国、バルト三国
第21章 幸福と豊かさを手に入れた国々 北欧にみる
第1節 北欧の概要
私が肌で感じた北欧の良さ!、北欧の気になるところ、
第2節 北欧の素晴らしさを客観的に確認します
幸福度、一人当たりGDP、所得格差、世界競争ランキング、ベンチャー投資
第3節 なぜ北欧は、これだけのことを成し遂げることが出来たのか?
有機的な連携、合理性を重んじる、試行錯誤、北欧理事会、教育の重視
第4節 スウェーデンの具体的な施策
第5節 日本は北欧型になることは出来ないのか?
第6節 それではなぜ北欧はこんな素晴らしい国になったのだろうか?
第22章 我々が生み出して来た社会システム; グローバリズムと民主主義
第1節 グローバリズム
グローバリズムの2百年の歴史、グローバリズムのメリット、
グローバリズムのメリット・デメリット、移民問題、壮大な移民の歴史、まとめ
第2節 民主主義
私の民主主義への想い、民主主義の起源、その後の民主制の歴史、民主主義の定義
民主主義の長所と短所、上記表の民主主義の長所と短所の補足、
自由主義、資本主義と民主主義の関係、自由主義の長所と短所、
資本主義と自由民主主義との関係、
資本主義と自由民主主義が共に行われることの長所と短所、まとめ
第23章 我々人類は何を変革して来たのか
人権の大まかな歴史
第1節 男と女の間にあるもの
1.古代における女性の立場
先ずはオリエントから、古代アジアでは、古代ギリシャでは
2.中世以降の女性の立場
12世紀頃のヨーロッパでは、10~12世紀の中国では、12世紀頃の日本では
3.少数民族、先住民族
4.現代
厳格主義のイスラムでは、欧米の1960年代以降、各国の男女差を比較、スウェーデンでは
5.男女差別の背景にあるもの
第2節 堕胎について
1. 各聖典において
2. 中世から現代まで
第3節 宗教について
第24章 かつて未来を予言した人々がいた
はじめに
第1節 著書「大丈夫か日本経済」の予測
本書の目次毎に要点を整理します
著書から見えて来るもの
第2節 著書「超大国日本の挑戦」の予測
予測の根拠と外れた理由の対比
第3節 日本の識者の予測
経済学者竹内宏、経済評論家長谷川慶太朗、経済学者野口悠紀雄、経済学者金子勝、
経済アナリスト森永卓郎、経済学者高橋洋一、岩田規久男
第4節 外国識者の予測
米国未来学者 アルビン・トフラー、米国経済学者 レスター・C・サロー
米国リサーチ機関社長ジョン・ネイスビッツ、米国経済学者ジョセフ・E・スティグリッツ
米国の環境学者 D・H・メドウズ、D・L・メドウズ、J・ランダース
医師・教育者 ハンス・ロスリング
まとめ
第25章 技術革新は何をもたらし、我々は如何に対処すべきか
はじめに
「技術革新と不平等の1000年史 上下」の要約
まとめ
おわりに
第Ⅰ部 疲弊し暴走する国家
第1章 米国で起きている事: 分断の要点と主因
トランプ現象は驚天動地の事件に見えるが、米国社会の矛盾が遂に噴き出した結果です。米国はここ半世紀の間に、徐々に社会と経済が蝕まれて来た。ITと金融業界は絶好調ですが、大半の人々にとって暮らしは苦しくなるばかり、社会に不満、将来に不安が募るようになっていった。そんな中、邪悪な敵を剛腕をもって完膚なきまでに叩きのめすことで、米国は完全に復活すると言明する強力なポピュリストが出て来た。国民は、明示された敵に目を奪われ、社会経済を疲弊させている根本原因から目を逸らしてしまった。これが「社会の分断」がもたらす落とし穴です。さらに米国が主導・拡散して来た数々の戦争と経済システムが、世界に米国同様の不満と不安、そして社会の分断を広めるようになった。
大半の米国民は、経済問題(賃金停滞、高インフレ、福祉政策カット、産業空洞化とIT革命による失業増)と社会問題(著しい所得格差、固定化する惨めな非エリート、様々な移民に纏わるトラブル)で、ここ40年ほど疲弊し続け、まったく回復の兆しが見えない。実際に、米国の若者の薬物中毒と自殺が増え、絶望死が顕著で、国民の平均寿命低下まで起きている。一方で、テック企業家イーロン・マスクや投資家バフェット等、超金持ちが栄華を誇り、今後も資産を増やし続ける事は疑いない。
なぜこのような事に成ったのか?
直近の理由は五つ、80年代からの新自由主義政策、放埓なグローバル化、IT産業革命、紛争多発による難民と移民の増大、対決を選んだ政治家達です。
新自由主義はレーガン、サッチャー、中曽根により始められた。この主要政策は、政府の縮小、規制撤廃、金融政策重視です。政府の縮小は、公営の民営化と福祉や教育等の公的支出カットがメインですが、並行して法人減税、累進課税撤廃と労働組合潰し(注1)が行われた。これらは大半の国民にとって、それまでの成長と豊かな暮らしからの逆転の始まりになった(注2)。国民にとっては、それまでの企業利益を労働者にも分配する社会から、企業利益優先社会への転換を意味した。国民にとって最良の社会は、19世紀後半から20世紀初頭にかけて欧米の国民が勝ち取り、繁栄に導いた1960年代までした。残念ながら帝国主義がもたらした二度の大戦が口惜しい。
規制撤廃は、航空運賃の値下げ等でメリットはありましたが、一方で国民生活の安全を脅かし(農薬、環境破壊等)、企業や資産家の弱肉強食や横暴さを野放しにした事で大きな禍根を残すことになった。さらに野放図にされたグローバル化と金融投機の自由化が相俟って、世界的に金融危機が繰り返すようになり、さらに富の集中が高まった(注3)。こうして超資産家や大企業は、金にものを言わせ米国政府・両政党を操るようになった。さらにマスコミの公正・公平な報道の規制撤廃が報道の偏りを招き(注4)、加えてSNSによる扇動が常態化するようになった。
野放図なグローバル化とは、主として欧米の大国が国内製造業の海外移転や多国籍企業を支援し、往々にして海外進出企業の保護の為なら弱小国を犠牲にし、帝国主義的な振る舞いを行って来た。現地の公害汚染、森林破壊だけでなく、農産物(コヒー等)の世界市場価格の支配による発展途上国の弱小農家を没落させて来た。さらには、ある国が共産化し米国企業の国有化を図ろうとすると、CIAがクーデターを画策し政府転覆を行って来たのは一つや二つではない。また発展途上国に巨額の資金を高金利で融資し、失敗すると、国際通貨基金IMFが乗り出し、緊縮財政を強い、その国民はさらに生活困窮に喘ぐようになる。一方、融資資金はニューヨーク等の金融界に莫大な利息を付けて戻って来ることになる(注5)。これが、ここ40年ほど続いている。だがグローバル化自体は自由民主主義と並んで、今後も世界にとって不可欠であり、秩序あるものにすべきなのです。
IT産業革命が進行中です。この事は、米国において高度技術者と未熟練者の待遇に大きな差を生んだ。ITと金融業界は大卒、一方、サービス・販売業は高卒が担うようになり、さらに事務処理等は低開発国にインターネットで仕事を出すようになり、国内の仕事が減った。いつしか高給取りは有名私立大学(IBリーグ)の博士号取得者が常識になってしまった(エピ1)。この結果、かつてアメリカンドリームと讃えられた「社会の流動性」(貧しい環境に縛られず階層を駆け上がれる社会)が西欧などよりも低下している(注6)。これは米国の教育制度や転職支援制度の不備も災いしている。今後、これにAIやヒューマノイドロボットの普及が追い打ちを掛けることになる。
移民問題は複雑です。先進国は出生率低下による人口減少を補う為に、一定の移住労働者は必要で、米欧豪はこれにより明らかに恩恵を受けて来た。しかし、多くの国で、治安悪化と人種対立が増加している。経済学者の分析では、移民労働者は経済成長に貢献し、右派が糾弾する福祉のタダ乗りのような事は起こっていない(注7、エピ2)。また移民が犯罪の主因であるより、その地域の格差拡大に相関しているとの指摘がある。米国で過剰な反応が起きている理由の一つが、非白人系人口が全人口の50%に近づき、将来、逆転が予想されるので、保守的な白人層や福音派が危機感を持ち、それをポピュリストが煽っているからです(エピ3)。
対決を選んだ政治は、おそらく共和党のギングリッチ議員から始まります。彼の活躍はレーガン政権時代と軌を一にします。約250年前に生まれた米国憲法は現在も機能している世界最古の成文憲法ですが、古いが為に基本しか規定していなかった。そこで民主党と共和党は、規定の無い部分を憲法修正と協調で議会を運営し、国政を担って来た。しかし、突如、ギングリッチ議員は民主党に徹底抗戦を仕掛け、人気を博していった。これが今のトランプの言動に繋がっており、ゲリマンダー(自党に都合の良い選挙区割り操作)から最高裁判事人事等、様々な場面で党利党略が罷り通り、政治分断が徐々に深まって来た。この背景に新自由主義と同じ目論みがあった。
上記五つの要因の内「対決を選んだ政治」だけが米国に強く生じているが、この五つの要因は概ね世界中、特に西欧の社会状況に共通している。つまり新自由主義経済が浸透している国では同様の事が起こっている。
注釈1 「組合潰しが狙いだった」と、当時の英国首脳や中曽根が後に、著書やインタビューで語っており、それも自慢げに。米国の共和党は自民党よりもっと露骨です。
注釈2 ピケティが「21世紀の資本」で克明に分析している。
注釈3 例えばバブル期、金融投機が活発になり、大金を動かせる者ほどさらに富み、バブル崩壊時、政府は大手金融機関ほど巨額の資金供与を行い助けます。一方、庶民は景気後退による、失業、賃金低下をもろに受けます。経済格差のデーターを見ると、金融危機の度に格差が広がっているのが明白です。
注釈4 レーガン政権が1949年施行の「報道の公平・公正の規制」を撤廃した。
注釈5 IMFのトップ層は、ほとんどウオール街の金融家で占められているので、当然の成り行きです。
注釈6 エリート大学の博士号取得までには、幼少期からの家庭教師に始まり、既に入学までに高額の教育費が必要で、大学入学時には、さらに莫大な寄付を必要とする。この出費を安定的に出来る家庭は、かなり裕福でなければならず、所得階層が固定化されるようになった。
注釈7 米国の労働学者の分析では、移民は若年で入国し、経済に貢献し、一方福祉の利用は遠慮気味で、さらに退職後は帰国することも多いので、福祉のタダ乗りはデマと言うことになる。
エピソード1 私はワールドクルーズで米国ネバダ州の会計士と親しくなった。彼と妻はクルーズの常連客になるほどの高収入を得ている。彼は地元の州立大学卒業後、他に二つの大学を卒業した。そして彼らの一人息子は、全米でトップクラスの医科大学を卒業後、現在、別の大学で数理科学を学んでいる。会計士の父親は、スイスからの移民で、米国でパン屋を営み、二人の子を育てた。この家庭は典型的なアメリカンドリームの体現者であり、時流のエリート家庭でもある。
エピソード2 私はワールドクルーズでフィリピン出身の中国系の男性と知り合った。彼は、10代後半、兄弟を頼って、サンフランシコに移民としてやって来た。その後、彼は建築作業員として働き続けた。そして退職を機に、ワールドクルーズに乗り、今後は故郷のマニラに住むと言っていた。どうやら独身のようだ。クルーズ船で知り合ったほとんどのアジアや南米の女性は、移民先の欧米の白人と結婚し、夫婦でこの旅に来ていた。
エピソード3 一人旅の加米縦断で、米国南部の大都市アトランタの中心部を公共交通機関で観光していると、毎回、車内の乗客は100%黒人でした。西部・中部の都市では、車内に移民らしい非白人が多いとは言え、全部ではなかった。米国ではホームレスが都市の通りや公共の建物にたむろしている事があるのですが、意外に白人が多かった。日中、ホームレスが虐げられているとか、拒絶されている光景を見ることはなかった。教会の日曜ミサでは、隣室での食料提供があり、ホームレスへの対応は丁寧でした。必要以上に近づかなかった事もあるが、ホームレスによる危険や不安を感じる事は無かった。
第2章 米国で起きている事 : 様々な要因と複雑な絡み
米国特有の問題に焦点をあてます
米国政治は金権政治に陥っている。その理由は既に述べた超富裕層の存在が大きいのですが、ある判決が火に油を注いだのです。それは最高裁が「政治献金の1人当たりの上限規制を違憲」と判断し、大企業や超富裕層による献金や選挙支援、ロビー活動が益々巨額になってしまった事がある(注1)。議員は、選挙に勝つために彼らの金を頼り、多くの法案は資産家・企業の減税や優遇に繋がって行くようになった。元々は組合の寄付も多かったのですが、組合の弱体化が進んだ為、影響力は減少した。これは始め、共和党のお家芸だったが、民主党もカルフォニアのテック企業(GAFA)を引き入れる事に成功してから、両党は争うように資産家に寄り添うようになっていった。
最高裁は政争に巻き込まれている。現在、保守派判事6人、リベラル派3人になり判決が偏っていると思われる。実に露骨な分断で、このことが上記のような問題を招いた一因でもある。この判事人事の配分も既に見た両党の激しい争いが原因で、徹底的に妨害した共和党が利を得ている。本来、米国は憲法の不備や議会や大統領の独走を、強固で安定した司法制度で守っていたのですが、崩れ欠けているようです。まだ高裁は機能しているようですが。かつて米国の二大政党制はヨーロッパの多党化に比べて優れていると見られたが、悪化しているようです。
民主党は、なぜ労働者の味方として映らなくなったのか? 大戦以前も民主党は格差拡大を抑制し、労働者を守り続けていた。しかし、新自由主義が一斉風靡し始めると、富裕層減税や金融自由化には反対しながらも、民主党は共和党のグローバル化による経済活性化に加担していくようになった。進む産業空洞化対策として、民主党は社会主義的な政策(実業教育、転職支援、失業対策等)の強化を試みるが、労働者を甘やかすとして議会の強い抵抗を受け、民主党は高卒の未熟練者から大卒の高度技術者への転換を呼び掛け続けるようになったと推測される。つまり「エリートに成れ」と! しかし、例えば出世が約束されるスタンフォード大学の卒業にかかる費用は5千万円を下らず、中間層以下の家庭では不可能だった。実際には、大学入学時の高額な寄付、入学以前の個人授業等の教育費がさらに掛かる。民主党は奨学金や学費免除の強化に力を入れていたが、焼石に水だった。この高卒労働者に対して、明解な解決策を示したのはトランプ大統領だけだった。彼は関税と言う脅しによって製造業の国内回帰を約束した(新しい帝国主義の手段)。しかし実現は困難で、米国内のインフレ高騰、さらには協調よる外交や自由貿易を阻害する点で世界に大きな損害を与えることになるだろう。
米国の最も罪深い行為は、冷戦時代から続く、他国への破壊工作や軍事侵攻でした。例えば、イラン、グアテマラ、キューバ、チリではクーデターを支援し政府転覆を図り、中東戦争ではイスラエルを軍事支援し続け、狂犬国家イスラエルを造り、ベトナム、パナマ、イラク、アフガニスタン、リビアに軍事侵攻している。しかしこれは一部に過ぎない。初期には世界の警察として評価されたが、いつまにか自己中心的な軍事大国となった。この事と既に述べた金融資本の横暴とが相俟って、世界で米国から害を受けいていない国は西欧除けば僅かしかないだろう。例えば、インドネシアにおいて、米国は東南アジアへの共産主義の広がりを恐れ、共産主義に融和的なスカルノ政権の転覆を図り、軍人のスハルトを支援し、疑わしい共産主義者50万人の虐殺を促し、30年以上続く独裁政権の誕生を成功させた。死者300万人を出したベトナム戦争も、同じような理由から米国が深みにはまっていった結果でした。一方で、米国自身も痛手を負った。ベトナムとイラクの戦争だけで米国は約500兆円を費やしたと考えられ、米国内に、多くの傷病兵、心的外傷後ストレス障害者(PTSD)を生むことになった。
南米からの移民、中近東、アジア、アフリカ等の難民も、元を辿れば、ここ半世紀の米国(一部は英仏ソ)が主となって各地に紛争を持ち込み、国を瓦礫の山にし、既存の統治体制を完全に破壊した事が発端になったとも言える。欧米が侵攻した国々のほとんどが期待された民主国家になれず、独裁と経済疲弊で苦しんでいる。さらに米国主導の国際機関(IMF等)による発展途上国の国家破綻(デフォルト)の処理で、当該国民を生活困窮に至らせるケースがあまりにも多い。稀に復活を遂げる国もあるので、IMFと米国(ワシントン・コンセンサス)に総ての責任が有るわけではないが、あまりにも弱小国に短期的な債務返済を求め過ぎて来た。リーマンショック後、米政府が国内金融機関のトップらを米国民の血税で助けるのと、国家破綻後の発展途上国の国民を犠牲にする点は、まったく同根と言えるでしょう。
新自由主義が結びつくとグローバル化は惨劇を生む。 1997年、タイの通貨が突然暴落した。これはジョージ・ソロス率いるヘッジファンドらが、タイ経済の先行きの悪いことを見越し、一気に通貨売りに走ったからでした。タイ当局は通貨を買い支えようとしたが支えられなくなり、この通貨暴落はマレーシア、インドネシア、韓国に飛び火し、アジア通貨危機は深刻な被害をもたらした(各国の金融機関の放漫経営が根にあった)。ソロスは巨大な利益をあげ、「結局、誰かが始めるだろう。私はただ一番先に始めただけだ。むしろタイ政府に通貨管理の弱点を教えてあげた」と著書で述べている。彼は同じ手を英国通貨でも使い、ぼろ儲けしている。
被害は甚大でした。4ヵ国のGDP減少は、56~27%で、貧困率は倍以上に上昇、自殺率はタイで60%、韓国で45%上昇した。さらに、ここでもIMFが乗り出し、国民の収入が既に減っているにも関わらず、各国政府は福祉・医療予算の削減を義務付けられた。これによりタイでは、5年間で肺炎、結核、HIVによる死亡者数が5万人増加した。この時日本だけで3500億円もの資金援助をおこなった。残念ながら、この手の取引を取り締まる方法がない(欧米にその気がない)。
金融経済の暴走と闇は、今や米国だけでなく世界を覆い尽くしている。70年代、欧米はスタグフレーション(インフレと不景気)に見舞われたが、これを救ったのが中央銀行による通貨抑制策で、インフレは治まった。しかし、この後、景気対策として、それまでのケインズの需要喚起策(賃金を上げる等)に替えて、通貨供給での調整が多用されるようになった。この政策は、実需(商品製造)以外の金融商品(株等)での利益追求を可能にした。さらに1929年の大恐慌の反省から実施されて来た様々な金融規制が、新自由主義の旗の下、なし崩しにされて来た。例えば、銀行の投資業務自由化、投資の証拠金を数十倍まで拡大し続けている(レバレッジ)。これらにより世界的で巨大な金融危機が繰返し起こるようになった。
さらに様々な金融商品も創出されて来た。上記のアジア通貨危機でヘッジファウンドが使った手段は、先物取引だった。本来、航空会社等が価格乱高下による石油購入代金の損失を減らす目的で使われる先物取引なのですが、悪用されているのです(これは有用で江戸時代にも使われていた)。リーマンショックの前、CDS(クレジット・デフォルト・スワップ)と呼ばれる、会社や銀行が倒産した時に損金をカバーする保険が、ちょうど広まり始めていた。この保険は、投機家に安心感を与えていたが、実際には役に立たなかった(その後も広まった)。数行の小銀行の倒産なら救えたのだが、大規模では話にならない。
リーマンショック時、ブッシュ大統領は金融業界を死守するとして75兆円を注入した。これにより放漫経営で破綻するはずだった金融業界の幹部たちは、誰一人として法的な罰を受けていないだけでなく、数十億の退職金を手に引退していた。現在、世界中の金融取引額は実需の4倍あり、年々増加している。これが投機に廻り、通貨や商品相場等の乱高下を生んでいる。このような事が繰り返されるうちに、超資産家が誕生し、彼ら金融エリート(ゴールドマン・サックス等)は大統領共にホワイトハウスに入ることになり、金融で儲けやすいシステムと彼らの保護を強固にして来た。
ここでゴールドマン・サックスが使う濡れ手に粟の手を一つ紹介します。ある部門では、ヘッジファンド各社が空売りしたがるような株を銀行など様々な所から短期間借りて来て、これをヘッジファンドに貸し、株の市場価格に応じた手数料を受けとる。ヘッジファンドが空売りを始めると、状況を見て、ヘッジファンドの手数料(20~30%)の増減を調整する。こうしてゴールドマン・サックスは利益を積み重ね、担当者は上手くすれば、ボーナス1億円越となる(注2)。つまり、本来禁止されるべき株価操作が公然と行われている。この空売りを操った者達は、大金を操作するだけで確実に利益を上げ、知らずに巻き込まれた者は確実に損をする。下がった株価は元に戻り、持ち主に戻る。金の無い庶民には無縁の世界で、うかつに手を出せばやけどをすることになる。
こんな魑魅魍魎が跋扈するところがウォール街であって、エリートとは名ばかりです。
様変わりした企業経営
米国の経営者は、現在、ストック・オプションで巨額の所得を得ることが出来る。これはあらかじめ決められた価格で自社株を将来購入出来る報酬制度です。これが70年代以降、米国で普及した。これにより経営者の業績向上意欲が刺激され、また高額所得者が増えることになり、所得格差は拡大を始めた。これにより実力?のある有能な人材が経営するようになったが、一方で長期成長戦略が疎かになる可能性もある。もう一つ、顕著なのが、企業の大規模化・独占化です。以前、米国は消費者を守るとして、商品価格の低減を図るために、徹底して企業の競争を奨励し、独占禁止法の適用に厳格でしたが、最近は見る影もなく、むしろ国際競争力の為と称して統合を見逃す傾向にある。日本も追従している。
州の独自性が災いを生む
米国の各州は独自に様々な法や税制を施行出来るのですが、これが悪い方への競争になり、公共の福祉を悪化させ、社会を不安定にしているのです。概ね南部の諸州は共和党系で、法人税等を北部や西部の民主党系州よりもかなり低くしています。こうなると、企業が南部諸州に移転してしまい、民主党系諸州は税収不足に陥り、新しい政策を試みようとしても、予算不足になります。結局、米国全体が低税収、低福祉に陥ってしまうのです。正に「悪貨は良貨を駆逐する」です。この事は、グローバル化の中で、各国の法人税・所得税減税の競争に結びついています。この競争は公共サービスの効率化を生むとも指摘されているが、おそらくマイナス面の方が大きいでしょう。
共和党を支える福音派
米国はプロテスタントの国ですが、さらに福音派と他派の二派に分かれ、福音派は米国人口の1/4を占める最大宗派です。この福音派がトランプを最も熱心に支援している。レーガンが大統領選で福音派を引き入れたのが始まりでした。福音派は、南部諸州の人口割合以上に共和党の得票数が増える熱烈な岩盤支持層です。彼らは、白人キリスト教徒(カソリックも加えて)の割合が50%を切る事で、マイノリティーとなり、抑圧される側になってしまうのではないかと恐れた。また彼らはリーマンショックの影響を大きく受けて困窮してしまった。そこで、トランプ氏のような反リベラルでマッチョなリーダーに希望を託した。実際、2024年の米大統領選挙では、福音派の白人の約82%がトランプ氏に投票した。トランプの反リベラル・保護主義的な言説は、グローバル化や移民によって雇用が奪われたと感じるラストベルト(衰退した工業地帯)に住む白人労働者の福音派の不満に共鳴した。また福音派はイスラエル建国を「聖書の予言成就」と捉え、その存続と強化を熱心に支持しており、これが歴代大統領のイスラエル支援に繋がっている。米国の共産嫌いと愛国主義(ナショナリズム)を引っ張るのも福音派です。
ここで、福音派の人々が、宗教に毒されてしまった偏狭な集団と即断する事は問題です。我々は左派と右派に別れ、互いに嫌悪しがちです。右派(保守)と左派(リベラル)の道徳観念(生得的、文化的共)に大きな差があり、互いに理解し難いのです。左派は弱者を守る、公正、自由だけを重視しますが、右派はそれに加え忠誠、権威、神聖も同様に重視するのです(注3)。だから自由と権利を振りかざし、聖書(神聖)に反する女性の堕胎行為を押し広める民主党に、福音派は敵意さえ抱くのです。左派は、忠誠、権威、神聖の感情を軽視し、集票の為にこれを煽る共和党に軽蔑すら感じ、対立は深まるばかりです。
奇しくも世界統一教会と長年協力関係にあったのが共和党で、ギングリッチ議員が関り、これも福音派の影響が大でした。一方、日本では、統一教会との関りは自民党の岸元首相に始まり、安倍元首相まで長期に亘った。互いに道徳感情を理解する必要はあるが、やはり無思慮に選挙の為にだけで宗教を利用する政治には問題がありそうです。
注釈1 米連邦最高裁は、2010年、企業の選挙資金拠出を制限した連邦法は言論の自由を保障した憲法に違反するとし、さらに2014年、政治献金の1人当たり上限規制を違憲とした。これにより金権政治が加速し、米国の2024年の政治広告は2兆円を越えた。
注釈2 ヘッジファンドが空売りで儲ける例。先ず、先物で、A株に1億円の「売り」注文を出し、また将来のある時点で7000万円で「買戻し」の約束をします。「次いで先物や信用取引でA株に売りを仕掛け、株価を下げます」(この仕手は違反で、適法との区別が困難)。そして「買戻し」時期に、7000万円になっていたら、差額3000万円が利益になります。この間、株の売買に現金は不要です。手数料や証拠金はいる。
注釈3 この部分の説明は、「社会はなぜ左と右にわかれるのか」(著者ジョナサン・ハイト、2014年、紀伊国屋書店刊)、により借用。著者は心理学者で、一般市民の左派と右派の思考傾向を分析し、単純な6つの道徳観念を見つけ、さらに遺伝の影響まで踏み込んでいる。これまでに無い研究ですが、道徳感情の生得的・文化的な取得に関して賛成出来ない部分もある。
第3章 この半世紀で米国政治はどう変わったのか
米国は、新たな帝国主義国家に踏み出したようだが、かつての大英帝国と同様に陰りをもみえ始めたようです。
20世紀初頭において、英国と並んで米国は世界で最も社会主義的な自由民主主義の先駆的国家として、国民・労働者にとって最高の国になっていた。その頂点は大恐慌で苦しんだ後のルーズベルト大統領によるニューディール政策以降でしょう。そして第二次世界大戦後、戦火を逃れた米国は、世界最大の経済大国の道を独走した。
米国が経済大国になり得たのは、初期に英国からの投資、技術導入、様々な移民を受け入れ、無償の広大な耕地があったからです(先住民インディアンを追いやり)。その後、二度の大戦で焼土にはならずに軍事特需で製造業に力を付けた。大戦中から大戦後にかけて、米国は、世界に範を垂れ、経済支援と技術支援を無償で行い、世界平和と経済復興を牽引した。しかし大戦後20年もすると、日独が経済的に猛追し、世界は高度経済成長期に突入した。米国は焦りを感じるようになっていた。
米国は、戦争中毒(世界の警察)と新自由主義への転換により、亡国の芽を育ててしまった。
それは二つに要約できる。
戦争中毒: 大戦後、米国の軍部と軍事産業は巨大化し、大統領は外交において、軍事行動を選択する事が多くなる(大戦以前もスペインやメキシコ、カナダと戦争は行っていたが)。
これには三つの要因が考えられます。最大の要因は、共産主義に対する極度の恐怖心で、端的な例が、大戦後の共和党議員マッカーシーによる「赤狩り」でした。この恐怖心は今も根強く、トランプは相手を罵る時に「共産主義者」を頻繁に使っている。大戦後から米ソの冷戦が終わる1989年までの約半世紀、米国の戦意は共産主義に集中していた。共和党の元レーガン大統領は俳優でありながら、俳優の赤狩りに積極的に協力していた(俳優組合擁護の為か)。この共産主義への嫌悪感は相手が非白人国となると、殲滅も厭わない所までエスカレートしました(ベトナム戦争)。
次は、異なる人種に対する冷酷さで、原爆が典型です。トルーマン大統領が最初に日本で使った。その後もホワイトハウスにおいて、あらゆる局面で幾度も原爆の使用が軍部やタカ派により大統領に強く進言されて来た。その都度、大統領が必至に拒否する場面が続いている。最も印象深いのは、キューバ危機時のケネディ大統領の毅然とした拒否でした。しかし米国の軍部やタカ派、保守系シンクタンクは、西欧人以外を目的の為であれば、平気で殺戮することを厭わない。イラク戦争を行った子ブッシュ大統領と彼を操ったチェイニー副大統領とネオコン(新保守主義者)が、最も分かり易い例でしょう。彼らは、強い軍事力と国益を重視し、米国の単独行動も辞さない強硬な外交政策を支持する政治思想を持つ人々でした。
最後は、国益の為なら何もかも許されるとの意識です。既に述べたが、米国の敵対国や石油資源等で経済損失を与える可能性のある国に対して、大統領の指示によりCIAや海兵隊を使って破壊工作を数知れずやって来た。真の目的は伏せて、侵攻の根拠を捏造したり、自国民を煽情して、いとも簡単にやって来た。トランプによるベネズエラ侵攻は、これまでと異なり、あまりにもあからさまであり、彼の本性が解き放たれ始めた言えるでしょう。
この帝国主義的な行動は、歴史上繰り返される大国の驕り、さらには新自由主義による内部矛盾への不満のガス抜きと言える(注1)。そして世界と米国を疲弊させて来た。
超富裕層に操られる国民: 80年代以降、新自由主義の浸透で人口1%の超富裕層が国の資産の30%を所有し、益々増加傾向にある。これにより米政府は、既に見たように超資産家や財界の思うがままに操られるようになった。マスコミも宗教界も公正であるより煽ることが増え、さらにSNSが加担している。こうして国民は溜まる不満の矛先を、都合の良いように操られ、一時だけ溜飲を下げる事が出来るようになった(特に米国では教会のテレビ説教師の影響力が非常に強い)。
一番愚かのは、労働者のモラルハザードを恐れて、福祉的な政策を採るべきで無いと言いながら、度重なる金融危機の後処理で、大損害を出した金融機関の放漫経営者らをリーマンショック時だけで、血税の約百兆円で救済しているのです(但し、潰すとさらに状況は悪化するが)。これは明らかに経営者のモラルハザード(注2)を助長している。まったく逆の論理が罷り通っているのに、国民は、一時不満を口にしても、また同じ手口に乗り、泣き寝入りするだけです。
左の図は、米国の所得格差を示すジニ係数(注3)のグラフで、ピンクの線は新自由主義が始まった年、赤枠はトランプ1期目を示す。新自由主義以降、格差は拡大し続けている。トランプの時期、下がっているのは、パンデミック期間中の現金給付などの政策的支援が、低所得層の生活を下支えしたためと考えられます。2016年から2022年の間だけでも、上位1%の最富裕層の資産は7倍以上に増加した。トランプ1期目は、法人税・個人税の減税、相続税控除大幅拡大、福祉削減が目立ち、次のバイデンで、限定的だが法人税の増税、コロナ給付金・失業保険拡大を行った。つまりどちらが大半の国民にとって良い政策かは明白だと思うのだが・・・。
格差拡大を抑えるなら、労働者の首切りを簡単に出来ないようにし、失業期間の給与補填、転職・教育支援を充分に行う方が良いはずです。これについて北欧は半世紀前から少し異なる方法で格差縮小に成功している。さらに米国は、金融危機の再発を防止する金融規制を行うべきなのですが、まったく手を着けないどころか、益々自由放任にしている。かつて日本は米国よりも少し良かったが、益々、米国並みになりつつある。
明らかに大半の国民にとって悪くなる政治が行われ続けているが、不満の矛先が、別のもの、「移民を遮る壁建設」とか、「ディープスティトを壊す」にすり替えられている。トランプが民衆相手に言っている事の多くは、デマ、リップサービス、実現根拠の薄い願望にしか見えないのですが・・・。しかし米国民は、これしかないとすがっている。
どうやら袋小路に入ってしまった
大戦後、経済と社会は順調だったが、レーガンの放漫経営とベトナム戦争で双子(貿易と財政)の赤字が累積し、産業の競争力にも陰りが見えて来た。ニクソン、レーガン政権の頃から、日本との自動車・繊維交渉のように米国優先に切り替え、企業を概ね守れたが、労働者擁護には向かなかった。これにより大半の国民の生活水準はインフレを考慮すると30年以上横這いに近い(日本だけは低下している)。また1970年代末からの米英主導の新自由主義の結果、先進国経済はそれまでの成長率3~2%から半分以下の1%に落として久しい。日本は0%になってしまった。
これは明らかに米国を中心とした資本主義世界が亡国のパターンに突入していることを示している。
それでは日本は新自由主義にどう向き合って来たのかを見ます。
注釈1 2001年誕生の子ブッシュ政権の時、ネオコン(新保守主義)が外交政策に強い影響力を持ち、大量破壊兵器を保有しているとのでっちあげで、イラク戦争へと暴走させた。このネオコンのようなナショナリズム、タカ派的な風潮が強まったのは、新自由主義経済で疲弊した米国社会への失望から抜け出したい願望が強くなったせいだと考える学者がおり、日本の安倍や西欧の右翼政党に通じると考えらえる。
注釈2 モラルハザードとは、セーフティネットがあることで、かえって注意や規律が薄れ、事故や危険な状況を招きやすくなることです。例えば、セーフティネットがあると、金融機関がリスクの高い投資をしたりするケースです。
注釈3 ジニ係数は、所得格差の度合いを示す指標で、0から1の間の値を取ります。値が0に近いほど格差が小さく、1に近いほど格差が大きいことを意味します。ジニ係数は発表機関や計算法で異なるのですが、オランダや北欧は世界で最も低いグループに属し0.26~0.28ぐらいです。日本は世界で平均より悪く0.33ぐらい、米国と英国は世界で悪い方から40位ぐらいで、先進国では最悪です。







