無から生まれた音が再び静寂へと戻っていくところまでたっぷり味わった、シフのリサイタル。
ベーゼンドルファーが歌っていた。
メンデルスゾーンとシューマン共に、ソナタと変奏曲で組まれたプログラム。
この2人の作曲家はとても仲が良かった。
メンデルスゾーンはシューマンの作品の多くを指揮者として初演しているし、
音楽批評を得意としていたシューマンは、メンデルスゾーンに関する素晴らしい言葉を残している。
ワーグナーはメンデルスゾーンがユダヤ人であり、“真のドイツ人”ではないことを指摘して、過小評価した。
そのワーグナーの判断が、残念なことにメンデルスゾーンの評価に大きく、今日に至るまで長期的な損害をもたらしてしまっている。
シフはある使命のようなものを胸に、この2人の作曲家の作品に向き合う。
作品への正当な評価、作曲家の擁護へいっそう励んでいく必要がある、と。
心を行動に託し、表明する。
それは、今回のリサイタルしかり、サントリーホールでの東北に捧げられたリサイタルしかり、一貫して彼の音楽に対する姿勢である。
苦しみはいつか報われる、とシフの音楽は祈り、語りかけてくる。
本編が終わって期待のアンコールは5曲。
プログラム同様、メンデルスゾーン2曲とシューマン2曲、で終わりかと思いきや、最後にバッハを弾いてくれた。
ファンタジーの終楽章で天国に連れていかれた後の、極めつけのバッハ。
魂を抜かれた。
