ぺロの喉の異常発見から7日目になっていた。
今から当時のことを思い出すと、この頃が一番のパニック状態にあった。
多くの飼い主がそうなるであろうように、私も情報収集に血眼になり、
そして重病の愛犬に対してどこまでの治療をしてやるかという問題に直面した。
友人知人に電話し相談した。ヒトの甲状腺専門医や外科医、果ては面識のない
製薬会社や核医学の研究者にも当たった。夜を徹してネット情報や
文献検索に没頭した。
絶大な効果のある同位元素131ヨードの内服治療は、ヒトでは一般的で
あり、海外では小動物にも使用されているが、日本の厳しい核物質に
関する法律はイヌへの使用を許していない。無念だった。
大学病院で渡されたCTフィルムを持参し、翌日いつもの病院を受診した。
ペロの甲状腺癌に立ち向かえる性能のある放射線装置は、
日本に3台あることが知れた。1台は近くの三重県に、2台は関東にあった。
残念なことに、三重県の装置は行政手続き上の許認可待ちの状態にあり、
装置はあるが一月以上稼動できない予定だった。
あとの2台は東京の獣医科大学と神奈川県にあった。
院長の出身母校であった、その獣医科大学は診療予約がたいへん
混み合っていた。このため院長は治療開始までの待機期間を考慮して
神奈川県の動物病院に診療引き受けを打診してくれた。
もし可能であれば、放射線でこの大きな癌を萎縮させておいて、
外科的に切除する道が開けないか、私は一縷の望みを繋いだ。
急な遠方への移動に備えて、早速ペロのキャリーカートを買い求めた。
この期に及んでも脳天気なペロは相変わらずオヤツ売り場に直行した。
【それでも食いしん坊のぺロ】
はたしてぺロはこの小さい体で過酷な治療に耐えられるのだろうか?
甲状腺癌が取れても肺と肝臓の転移した部分が進行すれば、結果的に
余命は無治療の場合と同じかもしれない。
勝算のない進行癌に対して際限ない延命治療を施すことは飼い主のエゴ
であって、ぺロは治療を望まないかもしれない。
いろんな考えが堂々巡りした。
いやぺロは一日でも長く大好きな家族と一緒に生きたいに違いない。
結果の良し悪しに拘わらず、ぺロも私たちも後悔しないよう、今の私たちに
出来るだけのことはしてやろう。
「3日後の午前に神奈川まで診察に来ていただきたい」
その病院から受諾電話を受けたのは、その日の夜9時を過ぎた頃だった。
ぺロは神奈川へ向かうことになった。
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