「アヤカですー」
“えっ、あぁ・・・”
「小学生の頃テニスを教えてもらってたー」
“あー、”(なんとなく思い出した)
その子は十数年前に私のやっているジュニアテニスに隣町から来ていた子だった。
「あの頃は楽しかったー」
土手の草を刈ったらみんなが段ボールを持って来て坂を滑ったり
クリスマス会でウンチ型のスーパーボールをまいたり
マイクロバスを借りて私が運転してスケート場まで行ったり
ほかのスポ少の野球やサッカーに負けてたまるかと頑張っていた。
当時は野球もサッカーもバレーボールも少林寺拳法も活動が熱心で
数名の指導者で勝つために厳しく練習をしていた。
親も試合や大会があるとカンカンになり、土日はまるまるそこに時間を費やしていた。
その反面、そこに賛同できない人たちやそこまでやりたくないと思いながらも
子どもたちに何かスポーツをやらせてあげたいと思う人たちの期待に応えるために
そして子どもたちが大人の都合や感情に振り回されることがなく
子どもらしく自分たちが中心になってできるようにと始めたのが私のジュニアテニスだった。
『子どもたちのスポーツの底辺を支える』
それが私の大きな目的であり目標だった。
「遊んでばっかりやん」
「上手にならんなぁ」
「やる気あるんか?」
いろいろ感じる人もいたようだが、テニスコートには子どもたちの大きな笑い声が響いていた。
「あれからもテニスを続けてましたー」
アヤカは言った。
金曜日の夜はナイターでジュニアテニスをする。
“初心忘るべからず”
自分がなんのためにこれを続けるのか。
子どもたちの自主性に任せるというのは辛抱と根気が必要だ。
もう今年で辞めようか。
来年になったら辞めようか。
迷う気持ちは、子どもたちの笑顔で何度も思いとどまる。
「体調不良でも休まんとやってやー」
あんなにふざけてばかりでもやる気はあるらしい。
初心忘るべからず
是非の初心忘るべからず
時々の初心忘るべからず
老後の初心忘るべからず
忘れてはいけないこと、忘れなければいけないことが私にはある。