「こんにちは、××という会社の◯◯と申しますー」



雨の中を突然見たことのないスーツ姿の若者がやって来た。



「この地区を回っています…」



最初は反射的に冷たく返事をした。



「別に用はないよ」



でも、なんとなく話を続けた。



うちの次女と同じ年齢で、茨城県の出身らしい。



「ありがとうございますー」



しっかり頑張ってねと言うと



笑顔で帰って行った。





遥か昔、私も大学を出て最初に勤めた会社で



まったく知らない家を営業で回っていた。




ある家で初対面のおばさんが、



「兄ちゃん、これを持って帰り」



と、お菓子と果物をくれた。



そこのお婆さんの法事の翌日だったようで



残っていたお供えだった。



何度か立ち寄ると、いつもお茶とお菓子を出してくれた。



そこの娘さんが私と同い年らしく



なんとなく快く迎えてくれた。



1年ほどで私の配属が変わり疎遠になってしまった。





今になってわかった気がする。



しっかり頑張れという、



ちょっと応援してあげたい気持ち。