「今年はまだ雨が降らない…」
6月に入ってもなかなか訪れない雨季を待ちわびる声を耳にしていたが、
先週あたりからようやくモンスーンらしい雨が降り始めた。
遠出するには少し心許ない天気の中、先週の土曜日、私はダッカから200キロほど北上したマイメンシン県に行ってきた。
日本にいるときからの親しいバングラの友人シャゴールさんが営む農園に、「パイナップル狩り」の名目で日帰りツアー。
10年前から何度かバングラへ訪れている日本からの友人と共に、シャゴールさんの車で出発。

途中寄ったローカルレストランでの朝食
マイメンシン県の都市マイメンシン市からさらに30キロほど行ったところに、彼の農園がある。
雨で道が悪かったせいもあり思った以上に時間がかかり、朝7時半に出発して到着したのは11時すぎ。
シャゴールさんの農園を管理しているのは、少数民族ガロのファミリーだった。
ガロは私たち日本人同様モンゴロイド系の顔立ちをし、元々彼ら独自の言葉や文化を持っていて、その多くがインドに近いバングラデシュの北部に住んでいる。
チッタゴンの少数民族チャクマには仏教徒が多いのに対して、ガロはキリスト教徒が多いそうだ。
農園管理人は8歳年上の奥さんと、クリスチャンなのに“ブッダ”という名の3歳の息子と一緒にくらしている。
両親は元々違う名前を授けたのだけれど、生まれた日が仏陀生誕の日だということで親戚が“ブッダ”の名を与え、今ではすっかり“ブッダ”になってしまったのだそうだ。
ブッダの母は穏やかだけれど芯がしっかりしていて、ブッダの父は控え目な声でゆっくりと話すやや大柄の男性だった。

天上天下唯我独尊…ブッダ
農園への道は、炎天下に放置したチョコレートのように泥がゆるゆるに溶け出していたため、途中で車を降りてサイクルバンで向かう。
普段は収穫した果物や荷物を乗せるこのバン、実は前から一度乗ってみたかったのだ。


頭にタオルを巻いたバン漕ぎのおにいちゃん。
道の両脇にはパイナップル、パパイヤ、バナナの木が続き、その下にはジンジャーやターメリックの葉が木漏れ日を拾える間隔で植えられている。
雨に濡れた田んぼの苗の緑の中に、水墨でにじませたような水牛が二頭たたずみ、周りから切り取られたような田園風景があった。
デコボコ道の大小様々なボコには雨水がたまり、そこを通る度にバンが傾き、車輪から泥が跳ね上がる。
バンをこぐ青年は自転車をこいだり、降りて引いたりしながら、うまいことバランスをとって進んでいく。

パイナップル園。食べるにはまだ少し若すぎる。

パパイヤ。まだ小さい木だけど果実は充分に甘かった。
農園につくと、シャゴールさんは各作物の成長具合を確認しながら、私たちのために食べ頃の果実を収穫してくれた。
ジャックフルーツ、パイナップル、パパイヤ…
ジャックフルーツ(ベンガル名カタール)は、木から垂れ下がる表面のボコボコしたカーキ色の果物で、まるで木にできたイボのように不格好な見てくれが、その個性的で強烈な味を象徴しているかのようだ。
切った時にしみ出してくる粘着性の白い汁は、手につくとなかなか落ちないため、手に油を塗ってから切るのだという。(農園の人々はそのまま素手で扱っているが)


ジャックフルーツの木。

バンの運ちゃんはフルーツ狩りもしてくれる。

幹から二手に分かれた枝の間に合わせて成長し
ピッタリとはまっているジャックフルーツ。
バングラデシュでは、ジャックフルーツの実や種をトルカリ(カレー)にしても食べる。
私はこのトルカリは食べたことがあるのだが、この日、農園のスタッフの家ではじめてフルーツとしてのジャックフルーツを食べた。
強烈なニオイと味で好き嫌いが分かれるとの前評判に身構えていたのだけれど、これが意外とイケた。
確かに個性的な味だけれど、“おいしい”と思った。
どこかで食べたことがあるような、何かの味に似ていると思いつつ、結局それが何だったのかは思い出せないままだ。

大きなジャックフルーツの果実の中には、
6~7センチ四方の黄色の身がいくつも詰まっている。
雨は降ったりやんだりを繰り返していて、私たちはぬかるんだ畦道を傘をさしながら歩いた。
靴とズボンはドロドロになったけれど、雨が埃を洗い流してくれた空気は体にやさしく、私は久しぶりに空気を味わおうと深呼吸をしたいた。

こんな風にバンでフルーツを運ぶ。


ブッダの家の近くにはイノシシが泥水の中につながれて飼われている。
暑い時は意外と泥水の中は冷たくて気持ちいいのかもしれない。
午後3時過ぎにブッダの家に戻り、ブッダのお母さんが作ってくれたランチをいただいた。
ライス、ダールスープ、オクラの炒め物、緑の葉っぱの炒め物、チキントルカリ…
香辛料のマイルドなベンガル料理という感じだった。
夜の渋滞にはまらないようにと思っていたのだけれど、結局その村を出発したのは夕方5時過ぎになってしまった。
帰路は少し遠回りだけれども、道が整備されているタンガイル方面から戻ることに。
長旅でぐったりと疲れていたせいか、みんな車の揺れに身を任せてコックリと眠りこんでいた。
家に着いたのは夜9時過ぎで、私は採れたての大きなジャックフルーツ2つと、パイナップル、そしてブッダの家で採れたレモンを抱えて帰宅したのだった。