5週間の日本滞在はあっという間に終わってしまった。
雲の下に日本列島が見え、きれいな成田の空港に降り立ち、キンモクセイの香りをかぎながらゆっくりと実家に向かう道…
“日本”の味をひとつひとつを確かめながらどっていった日は過ぎ去り、再びダッカへの道をたぐり寄せていく日が来てしまったのだ。
夜のダッカの街が眼下に見え、薄暗い空港をスーツケースを引きずりながら、日本のフィルターを拭いきれていない私は、かつて旅行者としてやってきたときのような感覚を覚えていた。
外国人パスポート用のイミグレーションの列に並んでいる時、数匹の蚊がふらふらと飛んでいるのを見て、すっかり無防備になっていた自分に気づいた。
空港の外のクラクションの音、暗い道、我が家の隣に新しい会社の看板ができていた以外は何も変わっていなかった。
家の鍵を開けると、リビングのファンがビュンビュンと音を立てていた。
コックのナシールはイード休暇のため田舎に帰っていて翌日からの出勤。
私と夫の大きなスーツケース2つと小さいキャビン用バックの計4つを開けて、手早く荷物をほどいていく。
二人分の荷物でも、運びきれずに日本に置いてきたものがまだまだたくさんあった。
洗濯物やお土産などを振り分けて、服や下着を所定の場所にしまおうとタンスの引き出しを開けたとたん…
ギャーッ!!!!
私は反射的に手に持っていた下着を降り投げて退いていた。
なんと、大量の蟻が引き出しの中で私の下着と靴下をむさぼっていたのだ。
またしても蟻。
初日から蟻。
そうだ、これがダッカだったのだ。
こうして私のダッカ生活は再び始まったのだった。