ソウルハウス2階宿屋の一室、アーサーはポツンと一人、暗い部屋のソファでうなだれ、目を閉じていた。
ー消えていい命なんて無いんだよ!
アーサーの頭の中で何度も何度も同じ言葉がリピートされる。
その言葉に呼び寄せられるように、アーサーの記憶が徐々に鮮明に蘇ってくる。
今から少し前の話だ、俺はあるギルドに所属していた。そのギルドはじめはただ自由を求める人の集まりだったがいつの間にか大移動型ギルド《アベリア》になるまで発展していた。アベリアとは、次々と楽しい事が実現するようにと願いを込め、植える植物のことだ。
その植物のように俺たちは次々にと楽しいことが起こるようにと願い、旅をしていた。そんなある日、俺はギルドの荷物が入った馬車の中で前に住んでいた村をゆっくりと眺めながら思い出に浸っていた。
突然、首筋に冷たい物を押し付けられ、思わず身をびくりと縮こませた。すぐさま振り向くと、両手によく冷えてそうなジュース瓶を二つ手にした、ポニーテールにするには、まだ短い黒い髪を後頭部でくくる茶色の少し垂れ目なメガネをかけた少女がこちらを見てニッコリ笑っていた。
「また思い出に浸ってたのかな?」
少女は左手に持っていたジュース瓶を手渡し、俺の隣に座り込んだ。シズだ。彼女もまた、俺と同じように自由を求めてアベリアに入団した1人だ。
「別にいいだろ、俺の自由だ、俺は」
「俺は自由を求めてこのギルドに入ったんだ、でしょ?」
「まぁ、そうだが…」
俺が言おうとしたことを先に言われ、少々調子を狂わせながらジュース瓶の栓を開けた。
「次の目的地、ドルマン村だってさ。」
シズがジュース瓶の栓を開けるのに手こずっているのを俺は一瞥し、無言でシズのジュース瓶の栓を開けてあげた。
シズは小さくありがと、と言うとジュースをくいっと煽った。
「また聞いたことのない村だな、ほんと、団長はそういうのよく知ってるよな。」
団長とは、アベリアのギルドマスターのことだ。団長は飄々とした性格の持ち主で思いついたらすぐに行動に出る人だ。そのためかギルドメンバーは皆、団長に振り回されっぱなしだ。それでも俺たちは団長について行く、彼の行く先々にはとても面白いものが待ち受けているからだ。
見たことのない怪鳥、村の雰囲気は貧しいのに村の住人は皆大金持ちだったりと、俺は団長と旅をすることでいつも面白いものを沢山観てきた。
「次は何があるんだろうな。」俺は視線を左にやり、華を見た。
「きっと何かあるよね。」
華をそれに応じるようにこちらを見た。
だが、俺たちは知らなかった。あの村に行くことで絶望を味わうことになるだなんて…
ドルマン村に着いて3日が経ち、俺達は村の近くにある森を探索することにした。
ドルマン村の周りはほとんどが砂漠だが唯一森がある、村長の話だとその森が村の生命線だが最近盗賊が訪れ独占されていて村に来る食料が不足しているとの事だ。
俺たちは全員で向かい、盗賊を撃退しようとした。
俺たちは索敵を始めた。メンバーは全員で12人程で、一人一人の実力は中の上程だろう。
その中で俺の実力は頭一個分上だと言われたので単独で、森の中を索敵した。
……俺があの時助けを求めていなければ俺以外の全員の命は救われたはずだった。
俺は単独で行動し、盗賊に遭遇した。
すぐに戦闘に入ったが、敵の多さにすぐに気付いた。
5人、10人、いや、それ以上だったはずだ。
俺は1人でさばきき切れないと確信し、全員を招集した。皆はすぐに駆けつけてくれたが、全員が招集された時…
突然、俺以外は特殊捕獲魔法で拘束されてしまった。何が起こったのか俺には理解できないまま、拘束された仲間を守るのに必死だった。
「あひゃひゃひゃ!無様だねぇ!」
突然、耳障りな笑い声が俺の脳内に侵入し、俺は声がする方に目を向けた。そこには1人の少女が立っていた。真紅に染まる髪を腰まで垂らし、肌は透き通るほど白く、蒼い瞳は細く切れ長い。髪の毛より強い赤のドレスを身に纏う少女は盗賊の群れの中から現れた。その瞬間、盗賊達は次々と倒れていき、血の気が引いて行った。
俺は少女に剣を向けたが、気が付いた時には俺は地に横たわっていた。
何が起こったのか全く理解できないまま俺は目の前で一人、また一人と解体される仲間を目にした。
必死に手を伸ばしたが手は届かない。声を絞り出そうとしても声が出ない。俺はただひたすら目の前の惨状を眺めることしかできなかった。そして、真紅に染まった少女は俺を見て三日月のように口を歪め俺にこう言った。
「人の命はあまりにも儚く脆いんだよ。
それなのにこんなにたくさんの命があるんだ、命の一つや二つ世界から消えたってこの世は変わらないんだよ。だから、そんな顔しないで」
この時、俺は命の一つや二つなんて考え方はある意味正しいのではないのかと思ってしまった。俺がシズ達を助けられなかった罪から逃げるために、自ら誤った道に進み、罪から逃れようとしてた。
その後少女は姿を消し、俺はようやく動けるようになった体を起こし、村へは帰らず、当てもなく歩き、さまよった。
アーサーはふと目を開いた。体のだるさが自分が先ほどまで寝ていたことを教えてくれた。
アーサーはうなだれた姿勢から起き上がる時に、頬に冷たいものを感じた。
いつの間にか涙を流していた。