根本です!

事業をやっていると、自分の思いや始めた理由を、もっと分かりやすく伝えたくなる時があります。数字だけでは伝わらないし、理屈だけでも人の心は動きにくい。僕も、気持ちが伝わる言葉を大切にしたいと思っています。

ただ、伝わりやすくすることと、実際に起きていないことを起きたように話すことは分けたい。eBayの有名な創業物語には、その境目を考えさせられる話があります。

きれいな物語が、史実とは限らない

「妻のPEZディスペンサー収集を助けるためにeBayを作った」という話は広まりました。しかし、eBay自身の公式沿革では、この話は作られたものだったと説明されています。感動的な創業理由として、そのまま事実扱いすることはできません。eBay公式沿革(創業から初期機能の変遷)

一方、1996年2月26日付の創業者書簡には、ネット上の開かれた市場で、知らない相手とも誠実に取引できるようにしたいという考えが残っています。後から整えられた逸話とは別に、当時の本人の言葉を確かめる入口があるんです。1996年2月26日付・Pierre Omidyarの創業者書簡

僕は、事業の本当の始まりが、一言で説明できなくてもいいと思っています。いくつかの疑問があったり、試したことが偶然つながったり、途中で大切にしたい目的が変わったりする。人が何かを始める理由は、そもそも少し複雑なものですよね。

その複雑さを全部書く必要はありません。でも、短くする時に、存在しない出来事を足してしまうと、読んだ人はそれを判断の材料にします。面白い話のはずが、相手の選択に関わる話へ変わってしまうんです。

だから僕は、歴史を紹介する記事でも、誰かの成功例でも、「聞いたことがある」と「確かめたことがある」の間を飛ばしたくありません。有名な話ほど、何度も聞いた安心感が、確認したつもりに変わりやすいと思うので。

実績と、目指していることを混ぜない

発信で特に気をつけたいのは、実際の結果とこれからの目標が、同じ文章の中で混ざることです。「こういう支援ができるようにしたい」という思いは、強く伝えていい。でも「もうできています」に変われば、別の約束になります。

例えば、ある支援サービスが「自分で判断できる人を増やしたい」と発信するのは方針です。「利用した全員が自立した」と書くなら、その全員が誰で、何をもって自立と判断したのかが必要になる。強い言葉を使うほど、裏付けも強く求められます。

仮定の例も同じです。こんな商品を扱ったら、こんな困りごとが起こりそうだ、と説明する例は役に立ちます。でも、それを自分の体験や会員さんの成果のように見せたら、読み手が受け取る意味が変わります。

僕の経営への覚悟は、言葉を大きく見せるためのものではありません。言ったことに近づく行動を、自分たちに求め続けるためのものです。今できていない部分があるなら、その場所を見た方が、次に何をするかも具体的になると思います。

利益が必要なのはもちろんです。ただ、今日の反応を増やすために誤解を作ると、明日の説明が苦しくなる。お客様が受け取る価値を大切にしたいなら、入口で渡す情報にも同じ責任を持ちたいんです。

公開前に、三つの色で文章を見直してみる

今日できる見直しとして、書いた文章の中に三種類の印を付けてみてください。確認できる事実、自分の考察、これからの目標。色でも記号でも構いません。一文がどこに入るのか迷ったら、読み手も迷う可能性があります。

事実の部分では、元の資料、対象の時点、数字の範囲を確認します。「売上が伸びた」なら、いつといつを比べて、誰の売上を指しているのか。企業全体の数字と、一人の販売者の結果を同じにしないだけでも、誤解は減らせます。

考察の部分には、「僕はこう考えています」と主語を置くと伝わりやすくなります。資料がそう断言しているのか、資料を読んで自分がそう感じたのか。この違いが見えると、読み手も自分の意見を持てると思います。

目標の部分では、達成済みのような語尾になっていないかを確かめます。「目指したい」「今、仕組みを考えている」「これから確かめたい」。そう書いても、覚悟が弱くなるわけではありません。むしろ、進んだ距離をあとから正直に伝えられます。

出典を付ける時も、リンクがあるだけで安心しないでほしいです。そこに書かれている内容が、自分の文章のどこを支えているかを見ます。創業年を確認した資料から、今の商品が必ず売れるという話まで飛ばすことはできません。資料の権威を、自分の予想の裏付けに借りないことです。

読み手が元の情報へ戻れるようにしておけば、違う解釈にも出会えます。僕の文章に納得してもらうことだけでなく、相手が自分で考える余地も残したいと思っています。

もし公開した内容に間違いが見つかったら、消して何もなかったことにするより、どこを直したかが分かる形で訂正したいです。判断に使った人がいる可能性を考えると、正しい情報に戻すことも発信の一部だと思うからです。

もちろん、僕らも間違えることはあります。だからこそ、間違えないふりをする仕組みではなく、気づいて直せる仕組みを持ちたい。自分に都合の良い話だけを守ると、大切にしたい相手との関係を守れなくなるかもしれません。

伝わる文章は作りたいです。でも、その文章を読んで関わってくれた人に、あとからも同じ顔で説明できることを大切にしたい。eBayの創業物語を知って、僕は改めてそう思いました。

参考資料

  1. eBay公式沿革(創業から初期機能の変遷)
    一次資料 ・ Web確認日 2026-10-04
  2. 1996年2月26日付・Pierre Omidyarの創業者書簡
    一次資料 ・ Web確認日 2026-10-04