仕事が忙しく、全然更新できていません。


もし、もし忘れないでいてくれる人がいたら嬉しいです。


もうしばらく忙しいのが続きそうですが、来週には目途が立ちそうです。


ようやくです。


では、また。


りんご。

外に出てタバコに火を付けた。


普段はタバコを吸う習慣はないのだけど、飲んだ時だけは欲しくなる。


白い息と寒さが混じり合って、冬が深くなることを知る。


痛いほど冷たい空気が、程良く酔いを醒まさせる。


「タバコ止めたんじゃなかったの?」


教えた張本人に言われると腹が立つ。


「飲んだ時だけですよ。」


最近、居酒屋以外はタバコはダメになった気がする。


接待は苦手じゃないけど、嫌い。


別れた相手と仕事をするのはもっと嫌い。


隣に並んで、彼もタバコに火を付ける。


綺麗な長い指につい見とれてしまう。


「疲れた?」


そういう彼も少し疲れているように見える。


「私はまだ大丈夫ですよ。」


「俺は年かな、さすがにきつい。」


そんなに年、変わらないくせに。


2人きりで話すのは何ヶ月ぶりだろう。


別れて2年経つけど、仕事の話しかしていないような気がする。


顔は毎日合わすのに、別れた時からちゃんと話をしていない。


「いいじゃないですか。うまく話もまとまったわけだし。」


心にもないことを言っている。


言いたいことも聞きたいことも山のようにあるのに。


彼は私じゃない人を選んだ。


そして結婚した。


消えてしまいたいくらい自分が嫌になった。


立ち直れたのは、彼の行く先が見たかったから。


だから私は会社に残った。


「そうは言うけど、こうも飲まされるとなぁ。」


本当に疲れた横顔だった。

最近子供が生まれたからだろう。


「子供のためならがんばれるでしょ?」


別に嫌みを込めたつもりはなかった。


素直にそう思ったから。


だけど彼は眉間に皺を寄せ私をにらんだ。


「まだ恨んでるのか?」


『まだ』とは心外だった。


「そもそも恨んでなんかいませんよ。」


小さくて、可愛くて。


守りたくなるような存在。


「男ならあの人を選んで当然だと思っていますから。」


あの出来事のおかげでかなり勉強できたと思う。


結局男の人はあの手のタイプに弱いのだ。


同じ社内、彼が婚約して結婚して。


子供が生まれたことまで全て知っていた。


お祝いもみんなと一緒にしたはず。


「そんな言い方しないでくれ。」


溜息と共に吐き出した煙は高く消えていく。


「あなたが幸せならいいと思っていますよ。」


これは本当。


だって本当に好きだったから。


不幸を願ったこともあったけど、結局は彼には幸せでいて欲しい。


だから今回の仕事も無理をして頑張ったんだから。


気付かれないように、私は小さく好きでいる。


そう決めてから、楽になれた。


「そんないい男じゃないよ、俺は。」


目を伏せる彼。


「知っています。」


とっくに終わってしまったタバコ。


もう一本吸う気にはなれなかった。


「先に入っていますね。」


そう言って歩き始めた私に、彼は振り向かず手を振った。


これでいいと決めたはずなのに、涙がこぼれる。


私は一つ深呼吸をして、涙をぬぐった。


私には彼のために出来ることがまだあるから。

『自分がいいなって思っていた相手に迫られました。でも彼はかなり酔っぱらってます。もしかしたら記憶がないかもしれません。それでもあなたは彼の誘いを受けますか?』


それは仲のいい後輩に聞かれた質問だった。


心理テストでもない限り、きっと彼女の実体験だろう。


「うーん。多分悩むだろうけど、寝ちゃうかなぁ。」


相手に合わせた答えを返してみた。


後輩はぱっと嬉しそうな顔をして、頷いた。


「そうですよね。やっちゃいますよね?」


予想は確信に変わった。


多分その彼は覚えてないと言ったのだろう。


自分のやったことに多少罪悪感を感じているのかもしれない。


「で、誰とやっちゃったの?」


彼女は気まずそうな顔して、そのうち重い口を開いた。


「この前知り合ったばかりの人なんですけど、いつもはこんなことしないんですよ?」


どうも、彼女が今はまっているサークルの人のようだ。


「その人すごく人気があって、私なんか相手にしてもらえないって思っていたのに、彼の方から迫ってきて、つい

いっちゃったんですよね。」


まぁその気持ちは分からないわけではない。


「酔ってると出来ないっていうのに、すっごく良くって。余計にはまちゃって・・・。」


まぁかなりいい思いは出来たようだ。


「でも彼は覚えてないみたいで。それから怖くて連絡できないんです。」


「彼、全く覚えてないって?」


そんなはずはないだろう。内容は覚えていなくてもしたことは覚えてないとおかしい。


「全然らしくて・・・。」


悲しそうに目を伏せる彼女。


彼の策略にはまったようだ。


覚えてないで通すつもりなのだろう。


「それなら忘れた方がいいよ。それに、酔っぱらって覚えてない男なんて嫌でしょ?」


顔を上げずに頷いている。


「今日は一緒にご飯でも行こうか。楽しいことすれば気が紛れるよ。」


少し笑顔が戻ったようだ。




仕事が終わり、携帯を見るとメールが1通。


『明後日行くけど会える?』


携帯を閉じて考える。


酔った振りしてやる男も最低だが、素面でそれをやれる男の方が最低だと思う。


まさにこの男がそう。


私が好きなのを知っていて、何も言わずに私を抱く。


最低なのに、嫌いになれない。


「分かった。また着いたら教えて。」


それだけ送ると、急いで後輩との待ち合わせに向かった。