ついつい仕事をしている手を止めて想像してしまう。
彼はベッドの中ではどんな風だろうと。
あの長い指がどんな風に動くのか。
あの大きな背中に汗をかくのか。
どんな目で見つめるのか。
考えれば考えあるほど、それはとても気持ちのいいものに思えてくる。
私の席から見える彼の背中が動くたびに私の想像はかき立てられる。
毎日そんなことを考えているうちに、どうしても彼としてみたくなってきた。
私は彼氏もいないしフリーだったが、彼は結婚していた。
特に遊んでいるって噂も聞かないから、奥さんを大切にしているのかもしれない。
そう思っても、私の衝動は止められなかった。
でも、自分から誘う勇気はなかったし、それとなく誘い出せるほど恋愛上手でもなかった。
そして、寒い冬の日。
彼と2人で出張に出かけた。
行きの新幹線の中では仕事の話で終わった。
帰りの車内、お互い疲れてしまって無言になっていた。
私はウトウトし始めた所で、彼の肩が私の肩に触れた。
身体をずらして避けるべきだと思ったが、これが最後と思い、彼に軽くもたれかかるようにした。
もし、彼が身体をずらせば寝ぼけていたことにしようとあまり重みをかけずにもたれてみた。
驚いたのか、最初こちらを見たようだったが特にそれからは動かなかった。
私はそれをいいことに、また少し身体を寄せた。
それから30分くらい経った頃。
「起きてるんだろ?」
気付いていたようだ。
私は慌てて言い訳を考えた。
でも何一つ言葉は思いつかなかった。
「何でこんなことするの?」
少し叱られているような口調に、黙って彼を見つめていた。
「何?試しているとか?」
私は首を横に振った。
顔が真っ赤になっているのは自分でもよく分かっていた。
彼はじっと私の顔をのぞき込み黙ってしまった。
私はいたたまれず、目をそらす。
「結婚してるけどいいの?」
彼はまだ私を真っ直ぐ見つめていた。
私は黙って頷いた。
適当に降りた駅で適当なホテルに入った。
彼はベッドに腰掛け、ネクタイを緩めている。
私はと言えば、入り口のドアの前で動けなくなっていた。
「こっちに座れば?」
彼はポンと自分の横をたたく。
言われるまま彼の隣に座ったものの、どうしていいのか分からない。
「誘ってきたのあなたでしょ?」
彼は意地悪く笑った。
何も言わないでいると、強引にキスしてきた。
舌が入ってくる感覚が妙に生々しくて、彼の服をつかんだ。
別に初めてなわけじゃないのに恥ずかしくてたまらなかった。
ボタンを外そうとする彼の手を思わずつかんで止めようとする。
その手を彼はつかんで押さえつけてしまう。
「待って、お願い。」
キスの合間から洩れる自分の声が甘ったるく響く。
両手を頭の上で押さえ込まれ、もう抵抗できなくなった。
彼の目には全て見えているだろう。
「ずっと見てたの知ってるから。」
思わず彼を見上げると、また意地悪く笑う彼と目があった。
あんなに想像した彼の指や背中は想像以上で、頭の芯が溶けるようだった。
ずっと彼が見ている気がして、私は目を閉じたまま彼に任せた。
今までしたことのない格好も彼に言われると従ってしまう。
恥ずかしいのに、本当に恥ずかしいのに。
ただ彼の言葉が全てになった。
少し眠ってしまっていたようだ。
背骨に沿って尾てい骨までなめあげられ、はねるように目が覚めた。
「もう夜中だよ。」
そう言う彼は起きていたようだ。
「帰らなくていいの?」
結婚しているのに。
「大丈夫。そんなこと心配しなくても。」
彼は私の手首に軽くキスをした。
少し赤くなっていた。
「もう一回しよ?」
彼はそう言うとまた私の身体に顔を埋める。
これからどうなるかは分からない。
会社でどんな顔をして会えばいいかも分からなければ、彼との関係がどうなるのかも分からない。
私が想像していたことなんてもうどこかへ行ってしまった。
今は彼しか欲しくない。
そのまま私はまた目を閉じた。