「いっていいよ。」


彼の言葉にハッと我に返った。


ついつい明日の予定を考えていて、いった振りするのを忘れていた。


男の人はいった振りをすると喜ぶ。


激しくすればいいと思っている人も多い。


別にそれでいいと、私は思っている。


適当に喘いで、気持ちよさそうな振りをして。


適当なところで締め付けていった振りをする。


簡単なことだ。


彼は乱暴に私をうつぶせにした。


多分腕が疲れてきたんだろう。


彼とはもう4年付き合っている。


私から好きになって、付き合い始めた。


最近、私に好きな人が出来た。


それからうまくいかなくなった。


彼も薄々感じているのか、態度がどうも冷たい。


私はと言えば、彼に対して後ろめたいのか、いつもより優しい気がする。


何もなかったかのように付き合って、もう半年になる。


彼は相変わらず私の腰に手を添えて、乱暴に動く。


そろそろ声を大きめにして、彼を煽らないと。


長い時間は正直きつい。


私はこれが終わったら、彼と別れると決めていた。


もう彼への思いが戻ることはないし、新しい好きな人と一緒にいたい。


二股はさすがにしたくないし。


彼の手がタバコを探している。


今しかない。そう思った。


その手を握り、目を閉じた。


嘘がばれないように。


「別れようか。」


彼の動きが止まった。


彼から少しでも顔を隠せるように両手で彼の手を握る。


黙った彼の顔を見たかったけど、今目が合えばきっと気付かれる。


しばらくの沈黙の後、彼はかすれる声で言った。


「それでいいのか?」


いいも悪いもない。自分だって気持ちが離れているくせに。


「うん。」


目を閉じたまま答えた。


きっと彼は承諾するだろう。


いつだってそうだ。


決断するのは私。


「分かった、別れよう。」


分かっていた答えだけど、ホッとした。


それから彼は愛おしそうに私の髪をなで離れた。


それからキスをして。



別れた今、彼に触れられても嫌悪感しか残らなかった。

いつの間にか彼女が心の中からいなくなったことは否定しない。


一緒にいても、小さな事で気持ちが冷めていくのを感じていた。


それでも彼女は無邪気に甘えてくる。


それが自分の特権かのように。


付き合って4年。


付き合い始めたきっかけは彼女からだった。


初めてちゃんと付き合った子だった。


その時は、彼女の身体がメインだった事は認める。


友達もうらやむスタイルだった。


顔は十人並みでも、その頃は身体が一番だった。


4年経って、少し年齢を重ねた彼女を抱く。


あの頃と変わらない身体。


会えば、必ずやっていたような気がする。


彼女が気持ちよさそうに声を出す。


いつからか冷めた気持ちに気付いてから、あまり行為に没頭出来なくなった。


考えていることと言えば、仕事の事だったり、夕飯のことだったり。


時折、彼女の顔を見て「こういう時って間抜けな顔をしているんだ」としみじみと感じたり。


決して彼女に対して気持ちがなかったわけではない。


徐々に彼女に対して愛情も持つようになってきたし、大切にも思っていた。


彼女がいないとどうなるか、真剣に考えたこともあった。


なのに、急に氷水を掛けられたように冷めてしまったのだ。



少し腕が痛くなってきた。


彼女を無理矢理うつぶせにして、思い切り突き上げた。


枕に顔を埋めて喘ぐ彼女を見ても、気持ちは盛り上がらない。


他に気になる子がいるわけでもないのに。


理由が分からないから、別れることも出来ない。


もしかしたら、いつか戻るかもしれない。


言えないままもう数ヶ月経っていた。



義務のような時間を終え、ベッドの縁に腰掛けた。


タバコを探す手を彼女が握る。


「何?」


声は苛ついていた。


「別れようか。」


彼女は両手で僕の手を包み、目を閉じていた。


祈るようにも見える彼女は、いつもより白く見えた。


彼女は別れたいと思っているんだろうか。


それとも僕の態度で何かを感じ取って、本当は別れたくないけど試すつもりで言ったのか。


どちらにしても、僕は何と答えればいいんだろう。


今になって彼女のとの4年間が頭を回る。


僕は何て言えばいいんだろう。


彼女の手を振り払うことが僕に出来るか、僕にも分からなかった。




※明けましておめでとうございます。


 今年もぼちぼちのろのろやっていきたいと思います。


 読んでくれている人には感謝感謝です。


 今年も一年よろしくお願いします。

世間はもう休みだというのに、私はまだ仕事をしていた。


業種上、なかなか連休が取れないこの仕事。


別に不満があるわけじゃない。その分お給料をもらっているわけで。


でもこうも周りが年末一色になるとやっぱり嫌になる。


どこも休みなのだろう、電話も少ない。


特に忙しいわけでもない私は、パソコンの前で空を眺めていた。


ようやく電話が鳴る。


余りに暇だったから、思わず張り切って取ってしまう。


「やっぱりまだ仕事だったんだ。」


聞き慣れた声がする。


「伊沢さんこそまだやってたんですね。」


「同じ業種なんだから、一緒でしょ?」


確かにそうだ。


伊沢さんとはそういう関係になって2年が経つ。


最初は彼女になりたいと思ってがんばったりもしていたが、今は定期的に会ってお互い束縛無しという都合のい

い関係になった。


2人でいる時は恋人のように接するけど、それ以外の時はただの仕事上のお付き合い。


「いつから休み?」


どうも彼の所も暇みたい。


「31日からですよ。」


「じゃあさ、一緒に初詣行こうか。」


突然の誘いにかなり驚いた。


そんなデートらしいことしたのは最初の数回だったから。


「何かあるんですか?」


ちょっと疑り深くなる私。


「たまにはいいかなって思ったから言っただけだよ。」


「分かりました。じゃあ細かいことはメール下さい。」


それだけ言って電話は切れた。


多分用件はそれだけだったんだろう。


そう思うと顔がゆるんだ。


当日は、彼の家でご飯を食べてそれから初詣に行こうという予定だった。


でも結局、日付が変わったことにも気付かず、ベッドの中にいた。


ご飯も食べず、テレビを見ることもなく。


かすれた声で彼が私を呼ぶ。


私は声フェチじゃないけど、そんな風に呼ばれたら何でもしてしまいそうになる。


彼の見つめる目が恥ずかしくて、私は目をそらした。


それでも分かる。彼が見ていること。


隠すようにたぐり寄せた毛布を乱暴にはぎ取られ、彼の動きは一層激しくなる。


2年もこんな関係を続けいていれば、お互いのこともだいぶ分かるようになってきた。


苦しそうな息の彼を見て、私も声をあげた。


「今から行こうか、初詣。」


彼は私が寒くないように毛布くるみ、その上から抱きしめてくれる。


「今から?」


正直面倒だった。このまま眠ってしまいたい。


「うん。それがそもそもの約束だし。」


そういうと、ベッドを抜けて私の服を投げてよこす。


私は諦めて着替え始めた。


言い出したらきかないのはよく分かっていたから。

初詣はすごい人だった。


はぐれると行けないからと、彼は私の手を取り自分のコートのポケットへ。


背の高さが違うから、少し歩きにくい。


でも離す気にはなれなかった。


やっとお参りをすまして、一息ついた。


「あ、おみくじ。」


隣に見える木にはたくさんの結ばれたおみくじが。


「何?引きたいの?」


「うん。初詣と言ったらおみくじでしょ?」


引く気満々の私に彼はひらひら手を振った。


「俺は待っててあげるから行っておいで。」


確かに少し並んでいる。


私は彼のポケットから渋々手を抜いた。


おみくじは『中吉』。


内容を読んでいると、いつの間にか隣に来ていた。


「『取らぬ狸の皮算用』だって!お前にぴったり。」


彼は白い息で笑っている。


私は出来るだけ高いところに結ぼうと背を伸ばす。


今年はどんな一年になるだろう。


いい一年になるといい。



「はい。」


彼から突然差し出された小さな白い袋。


開けてみると『健康祈願』のお守りだった。


「今年、もう去年か。何回か風邪引いてただろ?今年は健康でいられますようにって。」


小さなお守りの中には彼の気持ちが詰まっている気がしてそっと手に取った。


とりあえず今は家に帰って彼と眠ろう。


まだ私は彼と一緒にいたいから。