今誰と恋愛したいって聞かれたら、誰って答えるだろう。


結婚してだいぶ経つ。


結婚するが周りより少し早かった私。


結婚することが、『恋愛の終わり』と分かっていたけど、よく理解はしていなかったんだと思う。


付き合っていた時は、開き直る訳じゃないけど普通に浮気していた。


付き合っている間、浮気していなかったのは結婚前数ヶ月だけだったと思う。


『結婚』が縛りになると感じたのは結婚して半年後だった。


結婚相手に足りないものが目につき始めた。


それまでは浮気相手で補っていたものが露呈し始めた。


最初は我慢した。


でもそれは堪えても堪えても湧いてきた。


それが何の欲求かは分からない、ただ誰かと寝たかった。



そんな時に聞かれたこの質問。


私はその夜真剣に考えた。


今選ぶなら誰にするだろう。


最初は、自分が好感を持っている会社の人を思い浮かべた。


ただ、これは『不倫』なのだ。


そう思った時に思い浮かんだのが、私の最後の浮気相手だった。


彼は私の好みではなかったが、『浮気相手』にはぴったりの相手だった。


重くもないし、縛りもしない、何より相性が最高だった。


今私が求めているのは、恋愛じゃなくて刺激なのかも。


そう考え始めた。



次の日も、またその次の日もその考えに囚われて、いつも上の空で過ごした。


あの質問から5日後、私は浮気相手にメールした。


別れてからも近況程度は連絡し合っていた。


彼が結婚したことも私は知っていた。


遠回しな表現は止めて、私が思っていることをそのまま送った。


「久しぶりです。また会いませんか?」


彼からの返事は3時間後。


「久しぶり。うん。会おう。いつにする?」


彼の返事は最初から分かっていた。


別れる時も、会いたくなったら連絡しようって話していたくらいで。


そもそも彼が浮気をしないはずがなかったから。


すぐに約束が取り付けられた簡単さに私は少し怖くなった。


こんなに低いハードルだったとは。



彼に会って、部屋に入り、すぐにキスをした。


彼の柔らかくてサラッとした唇が好きだった。


お互い仕事帰りで、スーツのまま。


私は彼のネクタイを強引に抜き取った。


慣れた指の動きに、私は素直に反応した。


彼の背中に手を回す。


彼が好き。


何で別れたりしたんだろう。


恋愛をするなら彼がいい。そう思う。


そして彼は私が望むものを望むだけくれた。


終わった後、彼が言った。


「また始めようか?」


その言葉に私は黙って頷いた。



家に帰ると結婚相手が待っていた。


「お帰り、遅かったね。お疲れさま。」


とほほえむ彼に、私も笑顔で答えた。


「うん、疲れたよ。今日はクタクタ。」


やっとこれで私は満たされた。


結婚するなら彼がいい。そう思う。


貪欲かもしれないが、私はこうじゃないと駄目みたい。


その為なら私は笑顔で嘘を突き通せる。


女って怖いと、心底そう思う。

昨日から続く雨のせいで、私は帰るタイミングをなくしていた。


彼の部屋の中はとても温かくて、帰って掃除をしなきゃとか考えても身体は全く動かない。


ただウトウトまどろんでいるだけだった。


このまま1年が終わればいいのに。


明日からはまた仕事。それも数日で大晦日がやってくる。


彼もまた同じようで、うたた寝をしながら、時々私の髪をなでている。


付き合い始めて半年ちょっと。


お互い本気だと思う。


なかなか言葉には出来ないけど、私は彼しかいないと思っている。


初めて迎える年末。


クリスマスは2人で過ごした。


まぁこれは付き合っていたら当然だと思う。


でも大晦日は?


どうしても家族と過ごすことが多いけど、私は彼といたい。


クリスマスを一緒に過ごすより、大晦日から新年を私は一緒に過ごしたい。


新年を一緒に迎えるのは、すごく深い関係じゃないとしないと思うから。


でも、彼はどう思っているのだろう。


やっぱり家族と過ごすのかな?


結構仲がいいみたいだし。


クリスマス前から私はそんなことを考えていた。




そろそろ本当に帰らないと。


私は思い切って起きあがった。


彼は少し寝ていたのだろう。


「もう帰るの?」と言う声はかなり眠そうだった。


「うん。明日からまた仕事だしね。」


着替え始めるとだんだん目も覚めてきた。


頭の中は明日からの忙しい仕事のことでいっぱいになっていく。


「ねぇ、」


彼が呼びかける声にも私は適当に相づちを打った。


「ねぇ!」


大きな声で呼ばれて私は振り向いた。


彼は真っ直ぐ私を見ていた。


「ごめん、何?」


着替えも途中で私は彼の隣に腰掛けた。


「あのね、こんなこと言うの早いと思われるかもしれないけど。


大晦日何してる?」


彼は少し緊張した表情のまま続けた。


「もし良かったら一緒に過ごせたらって思って・・・。」


だんだん照れたような顔の彼。


彼も同じように思ってくれていたのかも。


私はそれだけで嬉しかった。


「私も一緒に入れたらなって思ってた。」


そう言って彼を抱きしめた。


愛おしいって思える事ってすごいことなんだ。


こんなに私を元気づけ、強くしてくれる。


「ずっと一緒に過ごせたらいいな。」


呟く彼を私はきつく抱きしめた。

出張っていう名目で、私たちはいつも色んな所に行っていた。


不倫という立場上、普段は人目を避けて会わなきゃいけないけど、離れてしまえば誰とも会わないから自由に振

る舞える。


例えば、手を繋ぐことも、キスすることも自由だから。


彼の下で働くようになって、もう3年になる。


彼の助手として、いつも一緒にいればこんな風になるのも当たり前かもしれない。


たまに顔を合わせる奥さんより、ずっと彼のことを知っていると思う。


私は彼に憧れていて、彼に誘われた時私に断るという選択肢はなかった。


彼は彼の出来る限りで私を大切にしてくれた。


それに疑われることのないよう、いつも注意を払っていた。


彼といる時は幸せだけど、離れる時は虚しさだけが胸に残った。


愛人という立場を認めたわけじゃないが、誰が見ても私は愛人で。


何も考えたくなくて、私は彼といる時いつもベッドにいることをねだった。


彼は年の割に元気だと、思う。


今までに比較の対象がいたわけじゃないが、年の差を考えるとすごいと思う。


今まで付き合った誰よりも、私を丁寧に愛してくれる。


私はただ彼に委ねて、溶けていくだけ。


この瞬間があるから、愛人という立場でも黙っていられるとさえ思う。


「私は愛人なのかな?」


ふと彼に問いかける。


「一般的にはそうなるのかな。」


彼は特に慌てるでもなく答える。


彼の肌はいつもひやりと冷たい。


そっとなでながら、また聞いた。


「何で私だったの?」


あなたの周りにはたくさん女の人がいたのに。


しばらく彼は考え込み、言葉を探すように答えた。


「一番冷めていそうだったからかな。」


意外な答えに、少し眉を動かした。


「ふーん。」


多分、彼は疲れない女を選びたかったんだろう。


修羅場になることもなく、今の彼の立場を傷つけることもない。


彼は体を起こし、私を正面から見つめた。


「あなたとは長くこうしていたいから。」


やっぱり彼は卑怯だ。


私が断れないのを分かっていて。


嫌なら断ればいいのだ。


選ぶ権利は私にある。


なのに、なぜこんなに縛られているように感じるのだろう。



私はもう彼から逃げられないのかもしれない。


そう思いながら、また私は彼に落ちていった。