本を読みながら、お酒を少し。


ベッドに入って小さな明かりで読むこの時間が大好き。


グラスを覗き込むと、小さな泡がはじけていて。


上から見ていると、花火のようで見入ってしまう。


去年の夏見た花火は、もう今年は見ることができないだろう。


あなたがいたから、きっとあんな風に美しく今も心の中ではじけているのだろう。


去年までは、この隣に彼がいて、本を読んでいるのか、寝顔を見ているのか分からなかった。


幸せだった。


今でもそう思う。


今日は早く寝よう。


明かりを消して、もぐりこむ。


そして今日もつぶやく。


「おやすみなさい。」

今日はいつもより気合を入れた格好にした。


あまり普段は着ないフェミニンな雰囲気に、彼も少し驚いたようだ。


二人きりの階段で、「そんな服も着るんだね」と。


「驚きました?」


「うん。でもそういうの好きだなぁ。」


知ってるよ。


あなたがこういう服装が好きなの。


でもあなたの前では見せなかったでしょ。


それはね、私の中を見て欲しいから。


男受けする格好であなたの気を引いても嬉しくないから。


だんだんあなたの気持ちが近づいて。


今日こそ私はあなたに気持ちを伝えるの。


だから、今日は自分に自信をつけるために。


私の小さな勇気になってもらえるように。


ふわりと膝をなでる柔らかい生地が気持ちいい。


こんな春の日にはぴったりだと、そう思う。

不倫カップルのデート場所は9割がラブホテルだそうだ。


まぁそうだろう。


二人とも隠したいと思ってるから、隠れられる場所に引きこもるのだろう。


ましてすることができる場所なわけで。


今更こういうところに入るのが恥ずかしいとか言うわけじゃないけど、もう少し明るいところであなたの顔が見たい。


そう思っているのは私だけかもしれない。


彼は早速ネクタイを外している。


薄暗い部屋の中。


何となく周りをじっくり見るのを避けてしまう。


だから帰った時に思い出そうとしても、内装が全く思い出せない。



ベッドに腰掛けた彼が隣を叩いて私を呼ぶ。


意地悪したくなって、聞こえないふりしてみた。


名前を呼んで欲しくて。


仕方ないというように立ち上がって私の手をとり、ベッドに倒れこむ。


彼の肩で少し鼻を打ってしまった。


「痛い。」と鼻を押さえると、彼が小さく音を立ててそこにキスをする。


最初の頃は、お互い指輪を外していたけど、今は二人ともそのままにしてある。


正面から手を合わせると、両方の手に感じられる細い罪悪感。


罪悪感を持つことさえ許されないことのような気がする。


誰も傷つけてないって言うのはただの言い訳でしかない。


私が手を伸ばして照明を落とそうとすると、彼がそっと邪魔をする。


「今日はこのままで。」


いつからだろう、彼の前で裸になるのが恥ずかしくなったのは。


初めて彼と寝てから8年。


きっと私の体も変わってきただろう。


もちろん悪いほうに。


それでも大切なもののように私の体を開いていく彼の手は変わらない。


声が漏れて、思わず身を硬くする。


こうして薄暗い中で見る彼の顔は、誰より男らしい。


彼の頬に手を寄せて、そっと唇を押し付ける。


当たる髭の感触が、首筋からの彼の匂いがひどく私を高ぶらせる。


結局不倫なんて体だけって言うけど、あながち間違ってはいないのだろう。


見られたくないからホテルにこもる。


ホテルにいればすることは一つ。


短い時間にできるだけ近づいていたい思うのは本能だろう。


自分の中に彼がいるというのは不思議な感覚だった。


外に出れば、街中であってもきっと声もかけない関係なのに。


今だけは私だけのもの。


そう思って目を閉じた。