暗い暗い部屋で、目を閉じて。


あなたに抱かれていると、そこが世界の全てになってしまう。


その腕にすっぽりと収まってしまうと、自分がとても小さい生き物になった気がする。


少しだけ痩せて小さくなった私の肩にあなたが吐息を漏らす。


そっと彼の背中に手を伸ばして、爪を立てないように抱き締める。


あなたの腕が少し緩んでキスをして。


またきつく抱き締められると今度は息も出来なくて。


そして私の小さな独占欲は少しだけ満たされる。

いつもは別れるときに私からキスをねだる。


あなたは言う。


「抱かれている時と最後のキスの時以外は別人みたい」


そうかもね。私が素直に甘えられるのはその時だけだから。


もう少し甘えさせてね。


一緒にいるときだけだから。


それだけでいいから。

あなたの嘘はすぐ分かる。


最後の詰めが甘いから。


だから分かっちゃうんだよ。


でもあなたの嘘はやさしくない。




余裕のないあなたは昔のあなたに戻っていて。


そしたら私も昔の私の戻るのかな。


好きで好きで。


ただそれだけの情けない私に。


それだけは絶対に嫌だから。




窓の外はまだ明るい。


あなたの声が遠くに聞こえる。


次の信号で止まったら、車降りてやろうとか嫌なことばかり思いつく。


大人になれない私と、戻ってしまったあなた。


最後まで顔を見なかったのはせめてもの抵抗。