まだ「モーツァルト!」感想の途中ですが、今日観た日本オリジナルミュージカルがとても素晴らしかったので、先にこちらの感想を書かせていただきます。
 
「BRAVE HEART~真実の扉を開け~」
 
【キャスト】沼尾みゆき、後藤夕貴、井口大地、石井雅登、藤森裕美(イッツフォーリーズ)、石原慎一、安達星来、中村香織、柳瀬亮輔、秋山秀樹、森田浩平 他
【作・演出】田中広喜
 
映画にもなった「新聞記者」の著者、東京新聞の望月衣塑子記者をモデルにしたキャラクターを中心に官邸記者クラブを描く舞台。
最初に情報を知った時、プロパガンダに走ったり、偏った思想を声高に叫ぶようなミュージカルだったらあまり観たくないかな…と思いました。
そうでないとしても小難しくて暗い舞台に歌が混じっている程度の自称ミュージカルじゃないか?と先入観を持っていたのですが、これは一曲めで見事に覆されました。
 
幾つかの白い枠と扉だけの舞台装置は「真実の扉を開け」というテーマを象徴的に表してスタイリッシュ。
M1の記者たちが歌うナンバーから歌もステージングもカッコ良い。
登場人物の想いも主張も、全て歌で表現され、見応え聞きごたえあるミュージカル。
まさか、この題材がこんなに面白いエンターテイメントになるとは(まさに「ちょっぴりオツムにちょっぴりハートに」)!
次はどうなる?と、最後までその展開にワクワクしながら観ていました。
 
政府の補助金事業をめぐる疑惑を追及する秋月美沙子記者を演じるのは元劇団四季の沼尾みゆきさん。
沼尾さんと言えば代表的な役は「ウィキッド」のグリンダで、体制側につく楚々としたヒロインイメージだったのに、この舞台の美沙子はまるでエルファバ。強く、勇敢に、大胆に官房長官に迫っていきます。沼尾さんの美しい歌声が、その戦いに説得力を持たせていることは言うまでもありません。
美沙子が定例会見に乗り込んで矢継ぎ早に質問し官房長官(森田浩平さん)を追求~1つのミス(証拠のない疑惑を発言)で潮目が変わり官房長官に反撃され~の流れを歌とステージングで描くミュージカル表現がスリリング。まさか記者会見がこんなに見事に戦いを描くナンバーになるとは・・・。
 
他の登場人物も、
後輩記者、優秀なライバル社記者、政権におもねる男性上司、美沙子を励ます女性上司、セクハラ被害にあう若い女性記者、資料改ざんを指示され自殺する官僚、美沙子の友人の女性議員・・・全てのキャラクターに見せ場(ソロ)があり、皆、上手くてレベル高い(特に元四季の石井雅登さん、柳瀬亮輔さん・・・美声~)。
記者、官僚、議員、それぞれに理想があり正義があり、悪役の官房長官でさえも、彼には彼の論理がある・・・と思えるくらい一人一人のキャラクターに血が通って、人間が描かれていました。
 
セクハラの告発と補助金事業不正の証拠改ざんが明るみに出る会見を一気に、畳みかけるように見せていく攻防のクライマックスは見事にミュージカル的カタルシス。ある意味、理想論でうまくまとめたお伽噺的部分もあるけれど、それを照れずに声高に言えるのがミュージカルじゃないかな?
 
政権を告発しようとか、真実を明らかにしようとか、そういう意図ではなく、記者、官僚、政治家・・・さまざまな人たちがより良い社会を目指して戦う”志”や”覚悟”を描く舞台だったのではないかと思います。
 
”志”や”覚悟”を持っているのは役者さんたちも同じ。
ただでさえコロナ禍の舞台上演は稽古も本番も大きなリスクと緊張があるのに、このような題材の舞台に出演すること、プロパガンダと誤解されるリスクもあるのを承知で”覚悟”を持って参加したであろう方たち。
私が観たのは千秋楽公演だったのですが、見事にやり遂げた皆さまの顔は誇らしげに輝いていました。
 
なお、この舞台、まだ配信で視聴することができます。