ミュージカル座の新作「アワード」。

トニー賞の授賞式(と、ノミネート作品の制作過程)をミュージカルにするという壮大な意欲作で、実質、新作ミュージカルを4本作るくらいの労力がかかっているのではないかと思います。

出演者も、元四季の光枝明彦さん、伊東えりさん、沼尾みゆきさん、柳瀬大輔さん・・・他、本当に豪華で、たった5日、6回公演は本当にもったいなかった・・・。もっと皆に観てほしかった・・・と思います。

 

司会者 兼 主演男優賞候補を演じた菊地まさはるさん登場から、トニー賞の授賞式のオープニングショー・・・実在のミュージカルが多数紹介され(ちょっとパロディっぽかった?)、ミュージカルファンには堪らない幕開き。

 

ミュージカルが進む中で、少しずつ制作過程が紹介され、トニー賞内のスペシャル・パフォーマンスでクライマックスを見せたノミネート作品は次の4本。実在の人物、ミュージカルやエピソードのパロディを見つけるのが楽しかったです。

 

1)キング・ペンギン

大塚庸介くん演じる脚本・作詞家が企画をプロデューサーに持ってくるところが発端。「キャッツ」、「ライオン・キング」に続く、次の動物ミュージカルはペンギンだー。ペンギン夫婦、親子の愛情に環境問題も盛り込む・・・とプレゼンし、「タイトルは、『ペンギン・キング』か?」と訊かれたら、「いいえ、『キング・ペンギン』です。」と。ここに、ミュージカルに興味を持っていた有名なポップス歌手、マンディ・ブルース(伊東えりさん)が作曲家として加わるのだけれど、名前もパロディだし、見た目もシンディ・ローパーそっくり!伊東えりさんと言えば楚々としたヒロイン女優だったはずなのに、いつからこんなに弾けちゃったんだろう(原田優ちゃん演出の「KAKAI」あたりから?)?ちなみに、本物のシンディ・ローパーが作曲したミュージカルは動物ものではなく、「キンキー・ブーツ」のはず(あ、キンは被ってる!)。ペンギンのヒロイン役の田宮華苗ちゃん、かわいくて似合ってました。製作途中の場面、熱い歌と、ダンスナンバーが完成したところに届いたペンギン着ぐるみのような衣装。足も手もほとんど上げられず、ダンスを踊ると全員が倒れて立ち上がれず。衣装を変えようという提案を脚本家が拒否し、着ぐるみ衣装でできる振付に変更。歌も、ペンギンの鳴き声だけで作る・・・となり・・・最終的に出来上がった曲は「ライオンキング」の「サークル・オブ・ライフ」のような壮大な曲になりました。最優秀ミュージカル作品賞も、「キング・ペンギン」が受賞というのは意外だったけれど、環境問題というテーマもあったことを考えるとあり得るかな?

 

2)グッバイ・ドリー

昔、「ハロー・ドリー」主演を(スキャンダルのため)数日で降ろされた元大女優(亜久里夏代さん)が落ちぶれて掃除婦になっているところに脚本家(森田浩平さん)が訪ねてくるところが出発点。脚本家は40年前?駆け出しのころ女優に恋していて、自分が名のある脚本家になれたらあなたのための脚本を書かせてくださいと頼んでいた、その約束を果たすために元女優を迎えにきた。最初は断るけれど、引き受ける女優(この、迷って決心するところ、「ジキハイ」の「あんな人が」に似ていた気がしたけど、他にもっと似てる曲があるような?)。彼女のカムバックの場面は、まるで「サンセット大通り」。稽古に入ると、この舞台はラップ・ミュージカル(「ハミルトン」みたい?)で、往年の大女優は全くついていけず・・・。でも、最後は見事にものにして・・・この作品は最優秀脚本賞と、最優秀主演女優賞だったかな?脚本家の受賞スピーチが本当に素敵で、「脚本は、役者にあてたラブレターかもしれません・・・」という言葉にキュンキュンしました(笑)。

 

3)名作誕生

「風と共に去りぬ」の小説、映画が誕生した過程を、作家のマーガレット・ミッチェル、主演女優のヴィヴィアン・リー、映画監督のヴィクター・フレミングを中心に描く作品。ポップオペラ形式で壮大な大作の趣。マーガレット・ミッチェル役の女優を演じた沼尾みゆきさんの歌唱力が光ってました。最初、小説を書いても発表しないと言っていた彼女に親友が訴えかける歌・・・「ウィキッド」に似ていたような?

 

4)ミスター・プレジデント

オフ・ブロードウェイからオンに上がった舞台という設定。実際も演出家である藤倉梓さんが演出家役で、とってもリアル。最初、次々とスタッフが集まってくるところワクワクします。ストーリーは俳優が大統領候補になって、とんでもな公約をしていく・・・という、レーガン大統領とトランプ大統領をモデルにしたような風刺ミュージカル。最初は、側近(ロビースト?)に操られた(この大統領を操る男たちのコーラスナンバーがカッコよい)大統領が、核のボタンを押して世界を絶滅させる・・・というバッドエンドで、後味が悪いと批評も最悪。クローズを覚悟しなければいけないところで、ラストだけを変えようというアイディアが出て変更。最後の最後に大統領候補が、他者に操られるのではなく、自分自身の想いをスピーチにし、世界を愛で結ぼうと訴える・・・もう、この最後のスピーチの歌が素晴らしすぎて・・・こんな大統領候補がいたら、絶対に投票するー・・・と思いました。大統領候補役俳優を演じていたのは光枝明彦さんでしたが、とにかく凄い存在感で、光枝さんにしかできない役だったと思います。当然のように、この作品は最優秀主演男優賞でした。

 

観客としては、まるで4本のミュージカルを観たような楽しさでした。たった一度の上演ではもったいない。早い再演を望みます。