ずいぶん日がたってしまいましたが先週の水曜日、東京芸術劇場中ホールでRカンパニーの「ホーム」を観てきました。


これは、16年前「音楽座」が上演したオリジナルミュージカルの再演です。


ちなみに、Rカンパニー=音楽座ではありません。


音楽座は1996年に経営者の脱税事件の煽りを受けて解散しました。


Rカンパニーは同じ経営者の下、2004年にあらたに結成された劇団で、音楽座が上演していたオリジナルミュージカル作品を継承し、上演することを目的としているようです(著作権に関しては、音楽座時代の作・演出家との訴訟もあったようです)。


私自身は、1996年に解散した音楽座の大ファンで、音楽座は私の青春でしたと言っても良いほど。

正直、経営者の不祥事のために愛する劇団を解散させられた傷は深く、今までRカンパニーの舞台を観たことはありませんでした。


演出家も去り、当時の看板だった土居裕子さん、石冨由美子さん、畠中洋さん、吉野圭吾さん等が去った劇団で同じ演目を観ても、同じ感動が得られるとは思えなかったので、とても好きな作品だけど、一生封印する覚悟をしていました。


でも、何人かは昔の音楽座のメンバーでRカンパニーに参加している方たちがいるので完全に縁を切ることもできず、今回はチケットのご案内を断れず足を運ぶことになりました。


結果、私の中にわだかまりはあるものの作品には罪はない・・・と言うか、日本人の心の琴線に触れる舞台であることには変わりなく、不覚にも泣かされました。


16年前と同じ伸さん(音楽座の主役級だった佐藤伸行さん)が主役の山本哲郎を演じていたことで、ギリギリ昔の音楽座の味わいが保たれ、観ているうちに、ああ~、音楽座ミュージカルって、こんな感覚だったなあとワクワクしてきて懐かしさで胸がいっぱいになりました。


ストーリーの始まりは昭和34年、山本哲郎という中年男がデパートの屋上で麻生めぐみという18歳の女性と出会って結婚。めぐみの母親・豊も同居し、すぐに女の子(広子)が生まれる。当時はまだ珍しいテレビも買い、幸せの絶頂と思っていた時にめぐみが失踪。一度は自暴自棄になった哲郎も、赤ん坊のぬくもりに父親の自覚を取り戻して懸命に娘を育てる。娘が小学生のとき血液型から実は哲郎と血がつながっていないことがわかるが、哲郎はそんなことは関係ないと娘を愛し続ける。やがて、豊とめぐみも血のつながりがないことがわかるが、哲郎は痴呆になった豊を老人ホームに入れることも拒み、最後まで面倒を見る。

クライマックスは、広子の結婚式での哲郎のスピーチ。失踪した妻は、自分に幸せを宝物をくれたと感謝する。


本当に骨格だけを書くと、メインストーリーはこんな感じ。これに、学生運動に参加し、挫折して別れた恋人たちのサブストーリーが絡み、テレビに映る昭和の歴史、人々の出会い、再会、宇宙を目指そうとする人類の夢など、様々な要素が詰め込まれています。


客観的に見れば血のつながりのない娘と母親をおしつけられた不幸な男性の物語ですが、宝物をもらったと感謝する幸せな男の話になっている。心の持ちようで不幸を幸せに変える"奇跡”も起きるのだと、伸さんならではの温かさと、深みのある演技で伝えてくれました。本当に懐かしかったです。


温かいオリジナルミュージカルを作っていた音楽座があのまま続いていてくれれば、どんなに良かったことか。


いまは音楽座の遺産で存続しているRカンパニーは、これから昔のように魅力的な新作を作れるか、主役級のスターを育成できるかに将来がかかっていると思います。昔のように感動できる「しゃぼん玉とんだ宇宙までとんだ」や「とってもゴースト」が上演され、私が喜んで劇場に足を運べる・・・そんな日が来ることを願っています。