黒井 千次著「高く手を振る日」(新潮社 刊)を読みました。


誰にも避けられない老齢化、

その現実の中で、残り火を掻きたてるような恋情。


78歳の著者による、老齢の実感が迫る哀切な一編です。

キャッチコピーには、老人の純愛とありましたが、純愛という

一語では片付けられない複雑な感情が綴られています。


恋情の相手である大学同窓生が老人ホームへの入居を

余儀なくされ、別れを決意することになるのが最後のシーン

ですが、老人ホームでも入居者の恋愛は当然見られる

ようです。



「インビクタス 負けざる者たち」(ジョン・カーリン著 八坂ありさ訳)

(日本放送出版協会刊)を読みました。


複雑に絡み合った社会構造、救い難いと思われたアパルトヘイト

の現実、これらがマンデラ元大統領の人間的魅力で徐々に救済

されていく過程が、関係者へのインタビューに基づいて綿密に描かれて

います。


終盤に近くなって、ラグビー世界大会の南ア開催、南アチームの活躍が

人種間の対立を溶かして行く。


社会構造、政治状況、国民意識の変化が、圧倒的な影響を社会の

隅々にまで影響を及ぼす。


個人生活では過酷な刑務所収監(27年!)、家庭内の不和など、

それだけでも押し潰される状況の中で、アパルトヘイト廃止に向かって

すべてを捧げる。


度量の大きさ、忍耐力、いずれを取っても尽きることのない魅力を

発散しています。


ワールドカップ・サッカー大会の南ア開催は間もなくです。

「税務署の言うことを何でも聞いていたら会社、大変なことになりますよ」(大村 大次郎著  あっぷる出版社)

読みました。


「・・・・・・・・・・大変なことになりますよ」は、たけし司会の家庭の医学における常套句で、言葉の割には

どこかユーモラスに響きますが、しかし納税には厳しい現実が避けられないのも事実です。


「マルサの女」も、金と欲を巡る悲喜劇でしたが、税の調査を受ける側も調査する側も、まことに人間的な

ドラマを演じる役者とも言えましょう。


それにしても、元は国税局職員であったという著者、経歴を逆手にとって原稿料を稼ぐとは、なかなか

したたかな税務職員もいたものです。それもまた、一遍のドラマかもしれません。