彼はフロスになりたかった。

歯茎と歯茎の間に潜り込みたかった。

だから彼はフロスになった。

フロスになって使い捨てられた。

でも仕方ないよな。

夢がかなうのは一瞬で残された人生はその夢の残滓を噛みしめるだけの退屈な毎日になる。

だから彼は自分の生に満足した。

次は歯ブラシに埋めれ変わりたいなと。

経口液はごめんだなと。

歯磨き粉はもっとごめんだなと。

彼は膣でもアナルでもなく歯の間に潜り込もんで粘膜と粘膜の接触を保ちたかった。

けど彼はしがないフロスでしかなく繊維の固まりだ。

粘膜にはなりえない。

次は細いペニスに生まれかわるのも良いかもしれない。

歯の隙間でフェラチオをしてもらえるかもなと思いながら彼は捨てられていく。

ああ、個々のフロスという個体ではなくフロスという概念に進化できればもっと歯茎に入り込めるのにと。

けれど無理だ。

人間はフロスになれても概念には生まれかわれない。

もう次の来世にはキシリトールガムに生まれかわることが決まっているからだ。