子どもを勇気づけることば | 「衣食住育学」石川幸夫のブログ

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教育畑40数年、猫好き、子ども好き、音楽好き!幼児、小学生の算数指導用に、水道方式のタイルを独自開発。教育評論家・教育研究家・子育て評論家としても活躍中です。

「こどもが望むことば」
 
 私は野球が好きで、少年野球チームに我が子を入れていた。三男は、幼児の時から硬球を握っていた。少年野球のチームは、お父さんがコーチや監督をすることが多い。自分の子どもを贔屓してしまうコーチもいる。人間的に信頼出来るコーチや監督に出会う機会は少ないと聞いていた。息子は恵まれていたのかも知れない。小学生チームのとき素晴らしいコーチと監督に出会った。
 ある試合の時、息子は5回までのピッチングを託された。華奢な体つきで体力が無い、ただ、コントロールが良いので起用された。息子は5回までパーフェクトに押さえた。しかし、ダッグアウトでは、「まだいけるんじゃないか」「続投させよう」という声が数多く聞こえてきた。監督は悩んだ。後で「欲が出てしまった」と保護者である私の所まできて謝罪までして頂いた。次の6回、息子は連続安打を浴びた。監督からピッチャー交代の声が審判に届いた。途中降板だった。息子は目に涙を溜めていた。申し訳ない気持ちがそうさせたのだろう。次の瞬間、監督から拍手と、帽子を取り、息子に「申し訳ない、ここまでよく投げてくれた。約束を破った私の責任だ。本当に申し訳ない!」と監督は息子に対し深々と頭を下げた。その監督の姿を見たコーチや保護者から、そしてチームメイトから大きな拍手と「よくやった!」の声がかかった。「胸を張ってマウンドから降りてこい!」と言い放った監督のことばは感動的だった。相手チームもこの光景を見守っていた。グランドに心地よい風が吹いた。しかし、息子の気持ちは複雑だった。というより、予期せぬ監督のことばに戸惑ったのだろう。「何をやってるんだ!!」と罵声が飛ぶと思ったのかも知れない。時間が経つにつれ、息子の顔からいつもの笑顔が出てきた。監督と笑顔でことばを交わし、率先してチームの応援に回った。一回り大きく成長した息子の姿をみた。チームは勝利した。
 
 子どもはまだまだ未完成だ。だから沢山失敗もする。しかし、その失敗は時折大人が招いてしまうものがある。子ども自身の力を普段から見ていればわかることだ。ところが欲を出し失敗する。過度な期待が子どものこころを踏みにじる。努力が大切だ!学力は積み重ねだ!結果より過程が大切だ!と鞭を振るう。こうしたことばとは裏腹に、内容を見ないでテストの得点のみで判断し、不必要なことばを子どもに向けてしまう。学校と違い、塾や学習教室には様々な子ども達が通ってくる。学力に悩む子ども達は、学年が上がれば一様に学力コンプレックスを抱えている。最近のことばを使えば「病んでいる」ということになるのだろうか。だから、精神的ケアから入らなければならない場合が多い。そして、基礎学力を身につけさせる。親は短期決戦を要求してくる。こういう場合、こどもは自身が望むことばを掛けられていない。「何をやってるんだ!」ということばや、首を横に振り「ダメだな!」の表情をする親の顔を見ているのだろう。
 
 ことばには不思議な力があると思う。勇気を与える力、笑顔を引き出す力、やるきを引き出す力、そして、厳しいことば。
 野球では声を出しているチームが強い。互いに声を掛け合うチームが強い。先の監督の一声はチーム全体の意識を変えるほどの力を持っていた。それは、監督自ら行動で示していたからだろう。チームを率いる責任者として、子ども達から絶大な信頼を得ていた。厳しさは半端ではない。それでも子ども達は慕っていた。子どもは、親から、教師から、大人から、厳しいことばを望んでいるように感じることがある。子ども達が望んでいることばがあるとすれば、それは、厳しさに裏打ちされた、信頼出来る大人からの生の声なのだろう。