何かの間違いだと信じて、わたしは電話をかようと携帯を手にしたところで気づく。
(そんなことをして、何になるんだろう……)
津波のように押し寄せていた不安が、急速に引いていくのが感じられた。
疑ってしまったことで、関係が崩れてしまったら……。何よりわたし自信、先輩の事を信じていたかった。
だから、わたしは黙って部屋の明かりを消し、いつも通り携帯を枕元に置く。
少しだけ心細くなった気持ちを包み込むように、布団の中に潜りこんだ。
次の日の朝、目覚めてからすぐに携帯を確認したけれど、着信は入ってはいなかった。何だから、もう来ないような気がして涙が出そうになったけど、それでもわたしは先輩を信じて、携帯を閉じた。
部屋の隅に移動してしまった、うさぎの人形が視界の隅に入る。近づいていき、手に取ると、窓から投げ捨てたくなる衝動にかられる。
(これは、わたしが先輩からもらったもの……。わたしがもらったもの……)
見るたびに誰かの顔と重なって見えるうさぎの人形。捨てようかと思ったけれど、結局そんな勇気さえわたしにはなかった。
先輩からもらったものを、捨てることなんて、できるはずがなかったんだ。
「……わたしがもらったもの……、わたしがもらったもの……」
繰り返しそう呟くわたしは涙も出すことができずに、ただ自分自身を自傷することと、先輩を信じることしかできなかった。