―――午前三時頃。
俺がパソコンでカチャカチャと音を立てながらキーボードに手を滑らす中、ゴンゴンと、部屋のガラス窓を叩く音が聞こえた。
「イカおった! イカおった!」
幻聴だろうと思い、その声を聞かなかったことにした俺だったのだが、二度目に名前を呼ばれて、そこでようやく椅子から腰を上げる。
何事かと思い外に出てみると、従弟のガキ共が二人。タイガとダイナ、ウルトラマン見たいな名前をした奴らが、俺の方を見て嬉しそうにニヤニヤと笑って手引きする。
こいつらは何かと面倒な事をして俺を巻き込む、前だって、飼っていた俺の愛らしいペットのハムスターの籠の中に、大量の餌を入れやがった。
今回もまた何かをやらかしたのだろう。
そして、連れて行かれた先にいたのは、一匹のでかいイカ。一緒にいた俺のばあさんによると、漂流していたところを運悪くも、ウルトラマン兄弟に拉致されてしまったのだそうだ。
子供は生き物が好きな反面、残酷だからその死にかけのイカをツンツンと指で刺したり、持ち上げたりしていた。
その光景を見ていた俺は、可愛そうと思いつつも別段何をするでもなく傍観を決め込んでいたのだが、
ふと、目を向けた先に、今度は一匹の黒猫が現れた。見た目の印象はとにかく酷い、瞼は落ち、瞳からは生きていると言う気力が伝わってこない。少しタイガー見たいな凶悪な動物にも見える気がした。俺の住んでいる土地は田舎なので、よくこう言った捨て猫がいる。やっかいなのが、窓を開けておくと、家の中に入ってきて、ジッと堪えて餌をくれるのを待つ図太い猫がいるのだ。
(こいつが昨日のドラ猫か………)
きっと、餌を求めて入ってきた所に、俺が偶然出くわして、餌を食い損ねたのだろう。正直言って俺はこういった猫には決して餌をやらない。理由はさっき言った通り家に住み着いてしまうからだ。
チラっと横を見ると、ガキ共はイカに夢中になっていたので、俺が猫の方を指さすと、
「猫がおる!」
とガキ一人が気づいて、一斉に二人がその猫を追いかけまわした。まあ、予想通りというかなんというか。
スタスタと姿勢だけはいい猫のその走りは、けれどその足は重く、俺が軽く走れば余裕で追いついてしまうほど。
きっと不自由な生活を送っていたに違いない。ヨタヨタと足を動かす猫の後ろ姿を見てそう思った。
子供たちに追いかけられて、走っていた黒猫はそこで何かを感じ取ったように足をピタリと止める。そして吸い寄せられるように、近づいて行ったのが水に濡れた肥料の袋。
次の瞬間、その黒猫は肥料の中身を貪り始めた。(おいおい……何食ってんだよ………)
その異様な光景を見て俺は驚いた。なおも子供がその猫に近づくと、早々に逃げてしまうが、また戻ってきてその肥料を食べる。俺はもはや先ほどのイカの事など、すっかりどうでもよくなってしまっていた。
ドロと砂が混じった肥料を、食べている猫を見つめながら、俺はその光景を文章にしてみようと、思い立ったのだった。
【実写真】