世の中には料理が下手な奴というのがいるが、それは俺のパートナー、桜木岬も該当していた。
今俺の目の前には、桜木が「うまくできたか自信ないけど……」などと食べる気を無くす発言をしながら並べた料理が三品ほどあり、それは全て一般的に料理と呼ばれるものではある。
しかし一つずつ見て行くと、おかゆかと思うぐらい柔らかそうな白ご飯に、見るからに味噌の量を間違えている具のない味噌汁。そして最後に焼いただけの味付けもしてないような野菜炒めという病院の食事みたいなものがそこにはあった。
これだけ見ても、素人以下の料理だということがハッキリわかる。俺はどちらかと言うと食わず嫌いというやつで、見たまんまのイメージが味として認識されるので、今からこれを全部食えるかどうか心配で仕方ない。
俺が食べる事に躊躇しているのを、食べたくないのかと勘違いしたのか桜木が泣きそうな顔になってきたので、安全そうな白ご飯から手を伸ばしてみた。茶碗を持ち、箸で米を掴もうとすると、けれどおかゆ状態の米はぬるっと箸から落ちてしまう。
その様子を見ていた桜木が「あ、ああ! ごめんスプーン持ってくるっ」と言って、慌てて厨房の方へと向かっていき、パタパタと駆け戻ってきてスプーンを手渡される。
「ああ……いや、悪いけど塩も頼む」
「え? し、塩……? ご飯にかけるの?」
頷くと、また取りに行って、帰ってきて塩を渡される。パッパっと白ご飯に振りかけてから、スプーンでおかゆみたいなもを口の中に運ぶと、ほどよい塩の加減とぐちゅっとした感触のする温かい白米が舌でとろけた。
「ど、どうかな……?」と心配そうな顔で見つめてくるその顔に、
しかし、感想といっても『おかゆ』としか言えない。もちろんおかゆなんて風邪のときに食べるものであって、うまいかどうかと言われたら普通と答える。つまり美味しいとは言えないのだ。
しかし、感想といっても『おかゆ』としか言えない。もちろんおかゆなんて風邪のときに食べるものであって、うまいかどうかと言われたら普通と答える。つまり美味しいとは言えないのだ。
「ま……」俺がその一文字を口に出そうとしたところで、それを桜木が同じように疑問形で復唱する。
そこで、俺は思い直す。
そこで、俺は思い直す。
いや、こういう時は感想を言うよりも、同じように食べさせるのが吉だ。料理が下手なやつが味見をしない理由は、結局のところ誰かのために始めた突発的な料理だからだ。
スプーンを差し出して、桜木に食べるように催促すると、少し戸惑ってから、目をつぶって口をあーんと開けた。口の中に入れてやると、モグモグとして飲みこんでから、
「…………ごめん」と一言謝られてしまう。俺はふっと笑い、桜木の頭を優しく撫でてから、また手を動かして食べることに専念しようとすると、
「あ、あの! 不味かったら食べなくていいからね………」
俺は半分、ため息交じりに、言ってやった。
「お前は作った側なんだから、黙って見てればいいんだ。わかったか?」
しぶしぶと頷くのを見送ってから、次の標的を味噌汁に決めた。おわんを左手で持ち、口の前まで近づけると、強烈な味噌の匂いがした。
(………大丈夫かこれ)
喉の奥がもはや拒絶の叫びをあげているのを無視してズズっと少しだけすすると、
「―――ッ!!」
瞬間、舌と喉にスタンガンを食らったかのような痺れが襲い掛かってきて、俺は横にあった水にバッと手を伸ばし、いっきにそれを飲み干した。
「ゲホッ………! ゴホ……ッ」
(辛すぎる―――!)
涙目になりながら咳き込む俺を見た桜木が、絶望的な顔をしていたのが片目で見えるが、それどころではない。
「あ、あぁぁ………浅井くぅん……」
ごめんね。と繰り返しながら背中を優しくさすってくれた。なんだか自分が非常に情けなく思えて来る。
「いや、大丈夫だ………!」
俺は意地になって桜木にもう一度チャンスをもらってから、味噌汁を口元に持ってきて、目をつぶって覚悟を決めると、それをグイっと一気に飲みこんだ。
涙目になりながらも、早くも口直しがしたかった俺は、野菜炒めに手を出す。そしてほとんど口の中に放り込むようにしてガツガツと食べた。
結果的に味のない野菜炒めは、辛すぎる味噌汁の緩和となり、最後にもう一度おかゆを食べることで俺は、間一髪普通の食事のアンバランス差を保てたのでこの場は結果オーライという事にしておく。
次料理させるときは、俺も一緒に手伝おう。
――今日も、月篠学園、桜木、浅井ペアの部屋は平和であった。
「あ、あの! 不味かったら食べなくていいからね………」
俺は半分、ため息交じりに、言ってやった。
「お前は作った側なんだから、黙って見てればいいんだ。わかったか?」
しぶしぶと頷くのを見送ってから、次の標的を味噌汁に決めた。おわんを左手で持ち、口の前まで近づけると、強烈な味噌の匂いがした。
(………大丈夫かこれ)
喉の奥がもはや拒絶の叫びをあげているのを無視してズズっと少しだけすすると、
「―――ッ!!」
瞬間、舌と喉にスタンガンを食らったかのような痺れが襲い掛かってきて、俺は横にあった水にバッと手を伸ばし、いっきにそれを飲み干した。
「ゲホッ………! ゴホ……ッ」
(辛すぎる―――!)
涙目になりながら咳き込む俺を見た桜木が、絶望的な顔をしていたのが片目で見えるが、それどころではない。
「あ、あぁぁ………浅井くぅん……」
ごめんね。と繰り返しながら背中を優しくさすってくれた。なんだか自分が非常に情けなく思えて来る。
「いや、大丈夫だ………!」
俺は意地になって桜木にもう一度チャンスをもらってから、味噌汁を口元に持ってきて、目をつぶって覚悟を決めると、それをグイっと一気に飲みこんだ。
涙目になりながらも、早くも口直しがしたかった俺は、野菜炒めに手を出す。そしてほとんど口の中に放り込むようにしてガツガツと食べた。
結果的に味のない野菜炒めは、辛すぎる味噌汁の緩和となり、最後にもう一度おかゆを食べることで俺は、間一髪普通の食事のアンバランス差を保てたのでこの場は結果オーライという事にしておく。
次料理させるときは、俺も一緒に手伝おう。
――今日も、月篠学園、桜木、浅井ペアの部屋は平和であった。