孫娘と祖父による、胸がぬくまる安楽椅子探偵六篇。

認知症を患った祖父が、小学校教員の孫娘が遭遇した事件に対し、卓越した慧眼をもって真相を導出していく。

そんな安楽椅子探偵スタイルのミステリーであり、推理については、都合がよすぎると云うか突飛な部分が少なからずであり、真相も意想外ではあったもののそこまで驚天ではなかったのが正直なところ。もっとも、テキストは読みやすかったですし、ストーリー展開もたいそう面白いです。事件としては密室殺人やストーカー騒動などの大ごともありましたが、どちらかと云うと『33人いる!』のような日常的なストーリーのほうが面白かったし、そっちのほうが雰囲気に合っているかなって気がしました。


 

 

 

[内容]

第一章 緋色の脳細胞

第二章 居酒屋の“密室”

第三章 プールの“人間消失”

第四章 33人いる!

第五章 まぼろしの女

終 章 ストーカーの謎

 

 

[梗概]

小学校の校長を務めていた祖父。かつては「まどふき先生」の愛称で親しまれていた名物教師であったが、71歳を迎えた現在はレビー小体型認知症を患い、幻視や記憶障害などの症状に苛まれながら床に伏せていた。孫娘である楓は、祖父と同じように小学校で教師を務めており、その傍ら足繫く祖父のもとに通い介護に勤しんでいた。

そんな祖父は、若い頃にはミステリー小説を愛読していたという。楓は自分の身近で起こった不可解な事件を語って聞かせるが、それらの謎に対峙したとき、祖父の知性は輝きを帯び始める。そこには認知症を患い気弱になっている老人の姿は無く、打って変わって怜悧な安楽椅子探偵が表れ、悠然と推理を語り始めるのであった。

 

 

持ち込まれる事件は、密室殺人やストーカーや誤認逮捕など結構、と云うかかなり深刻な内容。それらのシリアスな事件において楓のみならず、同僚の教師・岩田や、その後輩であり劇団員の四季も巻き込みながら話が進んでいきます。一方で第一話や第四話など何てことのない日常的なエピソードも差し挟まれており、どちらかと云えばそちらのテイストのほうが楽しめたと思います。

 

それぞれの事件の推理については、これだけの情報から結論を導き出すのはちょっと無理だろうというか、飛躍過ぎて推理というよりももはや机上の空論感が少なからずありました。推理にあたって、こうも都合よく必要なヒントだけが出揃っているのも、いかにも過ぎて興醒めしてしまったのが正直なところ。まぁその辺のリアリティについてあまり論うのは無粋だろうとは承知してはいるのですが、それでもここまで来るとちょっと萎えてしまったものでした。

 

続編も上梓されているようですが、自分は本作で割と辟易してしまったので、そっちは読まなくてもいいなって思っているのが率直な感想です。もっとも、読書メーターを見ていると結構好意的な感想が多いので、苦手に思う人が一定数いるだろうとは思うものの、それでもたくさんの人が楽しめる一冊ではあるのでしょう。実際テキストに関しては、良くも悪くもライトな部分があってそこが多少気になりはしますが、総じて読みやすくはあるし、ストーリーを追っていくドライブ感も愉悦であり、その辺りは中々どうして拾い物でした。また、慈しみや労りなど、孫と祖父の間に窺える情愛の深さが、じんわり胸に沁みるものがあります。

祖父が認知症という身の上であっても、そこまで深刻になり過ぎる事のない書きぶりであったのも良かったと思います。

 

読了:2024年5月4日