人体をバラバラにスライスしては、それらをひとつずつパッケージしてレイアウトする。

『魍魎の匣』を彷彿とさせるような猟奇事件であり、『PSYCHO-PASS』らしい厄々しさが遺憾なく発揮されています。

かつて監視官・狡噛慎也が犯人を挙げて解決したと思しき連続殺人事件。それに酷似したバラバラ殺人が再び発生し、執行官に堕した狡噛が容疑者を追っていくという展開です。過去から現在へ年月を経て、シェパードからハウンドへと立場を変えて、狡噛慎也が真相に迫っていく。インサニティ溢れるストーリーであり、『PSYCHO-PASS』は小説でもダークでクールでした。
 

 

 

 

[梗概]

世田谷の図書館で奇妙な死体が発見された。人体がゼリー状に加工され、数十個の引き出しにみっしりと詰め込まれているのである。被害者はアスリートの候補であり、専門のスポーツジムに通っていた。この異様な猟奇事件において、監視官・常守朱のもとで捜査にあたる執行官・狡噛慎也の胸中には、八年前に起こったある事件の記憶が去来する。それはアスリートばかりを狙った連続殺人。しかしそれは、当時監視官であった狡噛の手によって解決したはずなのであった。

 

 

現在と過去が交錯しながら、狡噛の視点でストーリーが進んでいきます。「現在」は時系列的にはアニメ1期の途中にあたり、常守はもちろん、縢もいれば六合塚も唐ノ杜もいるので、だいたいいつもの人たちが揃っている格好です。一方の八年前には宜野座ととっつぁんの古参を除いては、和久や昏田といったオリジナルと思しきキャラクターが登場しておりちょっと新鮮。

そんな彼らを当惑させる奇妙な猟奇殺人事件。殺害するだけでなく、何のために死体をバラバラに切断するのか。また、この監視社会において、どうやって「シビュラ」の眼を躱しながら犯行を繰り返せるのか。さらに、この猟奇性の裏に窺える知性の正体は一体何なのか。

いくつかの謎を孕みながらストーリーが進んでいきます。真相としてはなかなか面白いガジェットであり、SFミステリー的な趣も感じられたものでした。

 

 

『劇場版』のノベライズでも思ったことですが、格闘シーンに関してはいまいちイメージの湧かない書きぶりである印象。こうゆうアクションシーンの類を文章で書くというのは、うまい人はそれはもう上手に書けるのかもしれませんが、まあ得てして難しいものなんだろうなと読んでいて思ったものでした。

そして陰惨な事件の後は『PSYCHO-PASS』らしからぬ微笑ましい大団円が拝めます。こうゆう日常シーンは『ASYLUM』の縢パートや『名前のない怪物』のオマケでもあったような気がしますが、箸休め的というか、アニメ本編ではなかなか描かれないので小説ならではなのかなと思います。いつものダークでクールな『PSYCHO-PASS』とは違う表情。

ちなみに巻末には『ボーナストラック』が一篇収録されています。1期終了直後行方知れずになった狡噛の、アニメでは語られなかったその足取りが描かれています。1期のあのラストから再開を果たす劇場版までの空白が、全てではないにせよ埋められていく一篇。

 

 

総じて文体がややライトな感じであり、そこが気にならない事もないのですが、これ以上描写を詳細にしたり登場人物の内面を深堀りしたりすると、読み辛くなるというか、今度はテンポが悪くなるのかなって気がしました。全体的にはアニメを観ているときのようなテンポ感で読み進めれたと思います。

とはいえ、アニメのインパクトと格好良さには小説だと敵わない部分があるなって感じたのも正直なところ。あの世界観を小説で表現して、なお且つ小説ならではの面白さを盛り込むというのは、それなりのスキルとセンスが必要なんだろうなと読んでいて思ったものでした。

まあ内容的にはシリアスではありますがボリューム的にもライトなので、あまり肩肘張らずに読めると思いますし、『劇場版』のノベライズやアニメ本編と合わせて読んでみるのも、ひとつ楽しみ方としてあるのではないでしょうか。

 

 

読了:2024年3月11日