異形の短篇集。ホラー、SF、ミステリー。どこを取っても小林泰三小説のフィネスが味わえる四篇であり、魔的で人外で実に素敵です。それぞれ畸形の世界観に魅せられながら読み進めていくと、底にはおよそ予想だにしない顛末が待っており、それを悟った刹那はぞくりと来ます。なかでもラストの『獣の記憶』は変則的な多重人格ミステリーであり、これが実にスマッシュヒット。
小林泰三の初期作品が収録された短篇集。
[内容]
肉食屋敷
ジャンク
妻への三通の告白
獣の記憶
[肉食屋敷]
異里外れの研究所。村役場に勤める「わたし」は、村民からの苦情を受けてその研究所に赴いた。建物の内部は異様な雰囲気を湛えており、「わたし」はその異様さに呑まれそうになる。そして「わたし」は研究所の所有者である小戸と対峙することになるが、小戸いわく、そこでは絶滅した古生物の復元が研究されていたという。そしてその研究は成功したというのである。
『ジュラシックパーク』を彷彿とさせる部分があり、実際作中で『ジュラシックパーク』について言及されているのですが、ストーリー自体はだいぶ趣が異なります。異形の地球外生物が成長を重ね、挙げ句建物の内外までをも取り込んでしまうという、たいそう愉快な内容。最後の一行には戦慄が走ります。
[ジャンク]
「わたし」は、乾いた砂埃が立ち込めるその村に立ち寄った。人造馬を修理してもらうため、そしてわずか二時間前に死んだばかりの男の死体を買い取ってもらうため、「わたし」はジャンク屋を訪れる。
読み始めはどうゆう世界観なんだろうかと訝しむわけですが、すぐにその異様さが顕かになってきます。愛する者をその身体に移植した者。その真相はおよそ想像しなかった展開であり、おぉってなりました。小林泰三流の西部劇。
[妻への三通の告白]
寝たきりになった妻への恋文。長年連れ添った妻への手紙には、喧嘩別れした旧友との三角関係が綴られていた。
倒錯的で物狂い染みていてる一篇。最後に彼は己だけの「幸せ」を見つけたのです。「幸せ」に対して示唆的というか、「幸せ」とは蓋しそうゆうものなのでしょう。何だか酷く、男が羨ましくなってしまった。
[獣の記憶]
「僕」の中には「あいつ」がいる。「あいつ」は、部屋を汚物塗れにしたり動物の死骸を放置したりして、狼藉を働き「僕」のことを追い詰める。強度の人格障害に苛まれる「僕」は病院でカウンセリングを受けるが、そこで悍ましい事件が発生していることを知るのであった。
いわゆる多重人格ホラーだと思って読んでいたのですが、これがまた予想の斜め上の展開。仕掛けとしては一番好みでした。多重人格系のミステリーやホラーは手垢の付きまくった感があるのですが、こうゆうやり方もありなんだなと思ってすこぶる衝撃的。
それぞれ趣向の異なる四篇。四篇だけなので腹八分感はあるかもしれませんが、ここで何か気に入ったストーリーがあれば、『脳髄工場』や『臓物大展覧会』、あるいは『百舌鳥魔先生のアトリエ』などの他の短篇集、そして長編を読んでみるのもアリだと思います。
短いながらもSF・ホラー・サイコミステリーなど、バラエティに富んだ戦慄の短篇集。背筋に走る怖気とミステリー的な快感がクセになるは必定です。
読了:2024年1月23日