オカルトとロジックが相和した新感覚ミステリーだと信じ切っていましたが、最終話において予想だにしない真相が語られるにいたり、盛大にやられた感がありました。

見目麗しい霊媒師とミステリー作家による異色の探偵譚。霊視で得られたヒントをもとに万人が認める普遍の推理を構築していくというスタイルは、最終話で見事に引っ繰り返されたにせよ、面白い趣向だなと思って読んでいました。

その最終話のインパクトが強かったわけですが、そこまでの三話もどれも業が深い事件ばかりであり、これがまた好きな趣向。インサニティ感溢れる第三話が特に好きでした。

 

 

 

 

[内容]

プロローグ

第一話 泣き女の殺人

インタールードⅠ

第二話 水鏡荘の殺人

インタールードⅡ

第三話 女子高生連続絞殺事件

インタールードⅢ

最終話 VSエリミネーター

エピローグ

 

 

[導入]

ミステリー作家・香月史郎は、大学の後輩・倉持結花の付き添いとして霊媒師のもとを訪れる。

泣いている女の霊に悩まされているという倉持。そのことを占い師に相談したところ、彼女はある霊媒師を紹介されたのである。

訪問の日、高層ビルの一室で二人を迎えたのは、翡翠色の瞳を湛えた美しい女性。彼女こそが霊媒師・城塚翡翠なのである。この世ならぬものの存在を視認して、その匂いを感じ取ることができるという。

倉持の話を聞いてそこに不穏の気配を感じた翡翠は、実際に倉持の部屋を訪れその霊障を肌身で感じることを提案する。

 

 

この導入から、ほぼ全編通して香月の視点でストーリーが進行していきます。

そこからこの泣き女の怪をはじめ、ベテラン作家が別荘で殺害される事件、女子高生が次々と絞殺される事件、そして若い女性を狙った死体遺棄事件。これらの猟奇事件に対し、翡翠はその霊感をもって、香月は観察眼と推理力をもって、ふたり協力しながら真相を導出していきます。

翡翠が視るのは正体不明の夢であったり、犯行当時の記憶の残滓であったり、あるいは犯人そのものをずばり言い当てたり。それが何を意味するか皆目分からないときもあれば、推理や捜査というプロセスを完全にオミットして真相に到達しているときもあります。しかし、どれほどその霊視が的を射ていようと、霊視なんかに証拠能力があるわけはない。それは犬でも分かる道理。それゆえ、香月がその霊視の内容をベースにして推理を構築し証拠を掴んでいく、というストーリーの流れになっています。

オカルトと本格ミステリーの融合ともいえる、なかなか珍しい趣向。「霊媒探偵」という現実にいたらこの上なく胡散臭い生業であっても、フィクションならありだと云うことすんなりと読み進められます。

 

 

結論が分かった上でそこに至るまでの推理を重ねていくというスタイルは、かなり特徴的であったし実に新鮮でした。そのうえで、真相に至るまでの道筋がひとつではない、という

第二話は斬新でなかなか楽しい推理劇であったと思います。

そしてその果て、白黒が反転する最終話。謎解きパートはちょっとくどい感が無きにしもですが、それでもおよそ予想だにしない、見事なリバーサルでした。

 

 

シリーズとしては続編が出ているようですが、今回の語り手はいなくなるのだろうし、「霊媒師とミステリー作家の探偵譚」という構図も無くなったその上で、続きがどう展開していくのかは中々予想の付かないところ。

もっともそれが気になる反面、「オカルトと本格ミステリー」というガジェットが無い以上、ストーリーとしての魅力が削がれてしまうんじゃないかって気もするのですが、その辺どうなんだろうとは思います。「城塚翡翠」というヒロインに魅力を感じたのであれば、続きを追っていくのもありなのかもしれませんが。

いずれにせよ、この『medium』自体はかなり衝撃のミステリーであることは間違いないし、かなり鮮烈な読書体験ができました。ミステリー小説の各種ランキングを総なめにするのも納得の一冊。

 

 

読了:2024年1月11日