スマッシュヒットは、「『アリス・ミラー城』殺人事件」と「修羅の家」でした。

 

 

 

 

2023年10月の読書メーター

読んだ本の数:16冊

読んだページ数:4870ページ

 

 

■百舌鳥魔先生のアトリエ

10月1日 著者:小林 泰三

 

 

■ラスト・ワルツ

10月3日 著者:柳 広司

 

 

■見晴らしのいい密室

10月5日 著者:小林 泰三

およそ普通ではないSF七篇。時間旅行、仮想現実、宇宙漂流。高尚なのか難解なのか斬新なのか荒唐無稽なのか、もはやよく分からない感じですが、このよく分からなさが中々どうしてクセになります。こんな特異な設定は他に誰も思い付かないだろうし、思い付いたとしたってまず書かないだろうと思うのですが、それをちゃんと小説の形にして面白く読ませるのだから、その発想と技術力たるや端倪すべからざるものがあります。ところどころ従いていけない部分も少なからずですが、寧ろ従いていけない事を楽しむのが正着なんじゃないかって気がしました。

 

 

見晴らしのいい密室

 

 

 

 

 

■ジキル博士とハイド氏

10月7日 著者:ロバート・ルイス スティーブンスン

これぞ名作の貫録。人格高潔な聖人君子と悪辣非道の無頼者。正反対の性向をもつ二人の男が実は同じ人物なのであった、という今更言うのも無粋なほどの歴史的名作です。もっとも、誰もが知っているであろう有名タイトルとはいえ、実際に小説を読んだことがあるという人は意外と多くないかもしれません。邪心と野心の誘惑。善悪の狭間での相剋。多重人格というガジェットだけでなく、小説としてのストーリー展開も群を抜いた面白さ。久しぶりに読み直しましたが今読んでも鮮烈ですし、時代を超えたこの普遍的面白さが名作たる所以なのかもしれません。

 

 

ジキル博士とハイド氏

 

 

 

 

 

 

■仕掛人・藤枝梅安(六) 梅安影法師

10月9日 著者:池波 正太郎

 

 

■あとかた

10月11日 著者:千早 茜

ある者は何かを遺したいと願い、ある者は何も遺らなくていいと弁え、またある者は何も遺したくないと居直る。それぞれの想いを抱いた男女の六篇が、孤独を感じる語り口と静やかな筆致で綴られていました。短篇集ではありますが独立したストーリーではなく、語り手がリレー形式で変わっていくスタイル。どれだけ近しい者であっても他人の胸裡は分からず、事実それぞれの胸中には別々の想いが去来していたことが分かります。最後になにか光明の残る話が多かったと思いますが、翻って孤独や諦めが残る顛末もあり、どちらかと言えばそちらが好みでした。

 

 

あとかた

 

 

 

 

 

■『アリス・ミラー城』殺人事件

10月13日 著者:北山 猛邦

盤上から駒が取り除かれるように、探偵たちがひとりずつ駆逐されてゆく。酔狂な館のクローズドサークルで起こる連続殺人。仕掛けについてはそれほど意外の感はなかったものの、残ったひとりについては好きな趣向であり、ウィキッドな顛末も素敵でした。明らかに死亡フラグが立っている人物は当然として、重要そうな人物や曰くがありそうな人物も、何の衒いもなくあっさり死んじゃったりするので、トリックより寧ろそっちのほうが驚きがありました。クローズドサークル特有の焦燥感や恐怖感はあまり感じなかったものの、珍しい読み味が楽しめました。

 

 

アリスミラー城殺人事件

 

 

 

 

 

 

■西巷説百物語

10月15日 著者:京極 夏彦

 

 

■修羅の家
10月17日 著者:我孫子 武丸

おぞましく阿鼻叫喚な一篇でした。悪鬼羅刹のその家では、魔障の女が家族を統べる。そして恐悸に支配された家族は、逃げ出すことも逆らうことも叶わない。暴力、凌辱、恫喝、制裁。その鬼畜の家に取り込まれていく者と、そこから救い出そうとする者のふたつの視点でストーリーが展開していきます。最初から最後まで八大地獄の一番下みたいな様態であり、読み進めるだに小胸の悪くなるは必定。まあ、あの名作『殺戮にいたる病』級の衝撃を期待すると、ちょっと違うってなるかもしれませんが、これはこれですこぶる猟奇的です。最後がまたイヤミス的。

 

 

修羅の家

 

 

 

 

 

 

■イヤミス短篇集

10月19日 著者:真梨 幸子

イヤミス短篇が六篇収録された愉快な一冊。作家を狙う狡猾な詐欺、毀誉褒貶のダイエット、メンヘラ彼女の赤児殺し。総じてイヤミスっていうよりも、どちらかといえばブラックユーモアやもしくはホラーのような印象がありました。特に個人的ハイライトは『シークレットロマンス』。このギャグみたいなBLは何回読んでも笑いがこみ上げてきます。それでいてBL以外のパートはグロテスクでありインサニティであり、それらが相和して他の追随を許さない絶妙な読み味になっていると思います。『初恋』や『ネイルアート』の狂気に憑かれた感も実にいい。

 

 

イヤミス短篇集

 

 

 

 

 

■鬼
10月21日 著者:今邑 彩

 

 

■中禅寺先生物怪講義録 先生が謎を解いてしまうから。(8)

10月23日 著者:志水 アキ

猫目洞、セッちゃん、マスカマ、里村、ときどき見る人たちが参戦のVol.8。今回は、酒場に残された金、行方知れずの婚約者、彷徨の箕借り婆、そして謎の時計入れ替え事件導入パートです。特に狐の婚礼事件と箕借り婆事件は、このシリーズらしく卑陋で浅ましい真相でしたが、それでいて最後はこのシリーズらしく微笑ましくて八方丸く収まった顛末。そして場末の酒場に気軽に出入りする女学生の図。字面だけ見ると将来ロクな大人にならなさそうな感じですが、まあ今回はほとんどここしか目立っていないし、次巻はもっと活躍の場が多いといいかと。

 

 

中禅寺先生物怪講義録

 

 

 

 

 

 

■チェス喫茶フィアンケットの迷局集

10月25日 著者:中村 あき

チェスと青春とミステリー。チェス喫茶でバイトする高校生が主人公の全五篇です。と言ってもチェスっぽい話は最初と最後だけであり、真ん中三篇はチェスと関係の無い話でした。完全に学園ミステリーの体。その中で一番好きだったのは一篇目。腑に落ちないエンドゲームの駒配置ですが、何を間違ったらこうなるのかと色々思惟を巡らしたものでした。他にも四話と五話は、話が終わったかと思ったら更にもうひとつ展開があり、意表を突かれた感がありました。溢れるラノベ感に辟易した部分はありますが、ライトミステリーとして面白く読めたと思います。

 

 

チェス喫茶フィアンケットの迷局集

 

 

 

 

 

 

■ボビー・フィッシャーのチェス入門

10月27日 著者:ボビー・フィッシャー

 

 

■愛に似たもの

10月29日 著者:唯川 恵

愛と欲とを秤に掛ければ欲が重たい全八篇。八人の女性を主人公に据えた短篇集であり、どの話も業が深いし欲も深い。過去の選択を後悔し続ける者、死者との約束に震える者、忌まわしい記憶が詰まった生家へと帰郷する者。そんな彼女たちの胸中に去来するは悋気と怨嗟と同情と悔恨、際限ない邪心野心であり、さらにその果ては悪因悪果、誰もが愚を犯す。自業自得と云うならそうなのかもしれないけれど、それでも多かれ少なかれ主人公たちに対して分かる部分もあるという。どの話もストーリー展開が絶妙であり、それを追っていくのがまた実に愉悦です。

 

 

愛に似たもの

 

 

 

 

 

 

■正しい女たち

10月31日 著者:千早 茜

美しいでもなく強いでもなく、「正しい」女、全六篇。不倫中の友人を案じる女性、田舎の安酒場の娘、離婚までの四カ月半を大切に過ごす夫婦。それぞれの正しさゆえの行状は、時にひどく歪んで見え、あるいは痛々しいほど真っ直ぐにも見えたものでした。一番好きだったのは、タレント活動を生業にする『桃のプライド』。拗らせたプライドと、その裏にべったり貼り付いた劣等感は、芸能界に身を置いた事はないけれど何となく分かる気がしました。そして最後に届いたメッセージが印象的。時に烈しく時に静やかに、哀歓苦楽が胸に去来する全六篇でした。

 

 

正しい女たち