おぞましく阿鼻叫喚な一篇でした。

悪鬼羅刹のその家では、魔障の女が家族を統べる。そして恐悸に支配された家族は、逃げ出すことも逆らうことも叶わない。暴力、凌辱、恫喝。その鬼畜の家に取り込まれていく者と、そこから救い出そうとする者のふたつの視点によってストーリーが展開していきます。最初から最後まで八大地獄の一番下みたいな惨状であり、読み進めるだに小胸の悪くなるは必定。

まあ、あの名作『殺戮にいたる病』級の衝撃を期待すると、ちょっと違うってなるかもしれませんが、これはこれですこぶる猟奇的です。最後がまたイヤミス的。


 

 

 

[内容]

第一章 暴力措置

第二章 再会

第三章 家族会議

第四章 煩悶

第五章 陥穽

第六章 決壊

第七章 変貌

第八章 呪縛

 

 

[導入]

真夜中、公園で女を凌辱していた野崎晴男は、その現場を中年女性・神谷優子に目撃されてしまう。口封じにかかる晴男であったが、優子はやけに肝が据わっており、その得体の知れなさに晴男は逆にたじろぐことになる。のみならず、優子はなぜか晴男を気に入って自分の家に来るよう提案する。言い知れぬ不安を感じながらも優子に従いていく晴男であったが、連れていかれた先は、世田谷の庭付き二階建ての一軒家。そしてその家には、優子を含め十人ほどの男女が居座っていたのだが、みな一様に様子が怪訝しい。晴男はこの修羅の家に「家族」として迎え入れられる。

 

 

この導入から後は、ストーリーとしては二つの視点で進んでいきます。ひとつはこの晴男の視点、そしてもうひとつは区役所の職員・北島隆伸。北島の勤務先に、中学時代の同級生であり初恋の相手である西村愛香がやって来るわけですが、彼女はこの「修羅の家」の「家族」であり、北島は彼女の口からその暴虐無人な様態を聞くことになります。北島は、彼女をその家から救い出すために何とか手を尽くそうとするのだが…、という展開。

 

 

暴力を振るい、弱みを握り、骨の髄まで徹底的に人間を支配していく。支配された者は極限状態の果てに、常識も善悪も人倫も、あらゆる基準を見失っていく。そんな身の毛のよだつ所業が日常となっている修羅の家。

こんな事が本当にあるんだろうかと思いつつも、いざこうゆう状況に陥ったなら、誰しも恐怖に慄くだけになってしまうのだろうかと考えると、読んでいて背筋の凍る思いをしたものでした。

そして、こんな悪魔の家が生まれるに至った仕儀。何の罪もない善良な一家が、狡猾な手段によって全てを簒奪されていくのですが、そのさまがまた怖気走るものがあります。

 

 

また、『殺戮にいたる病』は仕込まれている仕掛けが強烈なインパクトを誇っていたわけですが、本作もあれ程ではなかったにせよ、ミステリーとしての仕掛けが施されているのが嬉しいところ。また、その果て最後に明らかになる秘密のひとつは、これぞイヤミス!と快哉を叫びたくたる顛末でありました。

 

「家族」という言葉がひらすらに禍々しい一篇。『殺戮にいたる病』しか知らないという方は、この邪悪な長編ミステリーも手に取ってみてはいかがでしょうか。『殺戮にいたる病』とはまた違う業の深さが味わえることでしょう。

 

 

読了:2023年10月17日