不気味であったり残酷であったりホラー色を帯びていたり、業の深いストーリーが多い印象でした。

虐待されている兄妹、身体を売る少女、何かを待ち続ける老婆。『白雪姫』や『シンデレラ』など西洋童話の名作たちを、舞台を現代日本に変えて換骨奪胎された全七篇。ストーリー自体も面白かったですし、それぞれ元となった童話のガジェットが随所に盛り込まれており、それらの使い方がまた面白いものがありました。

そしてネグレクトや苛めや性搾取など社会問題も包含されており、洋の東西を問わず、人間の邪心野心はいつの世も同じだろうかと思ったりもしました。おごめく憂き世の闇、全七篇。
 

 

 

 

[内容]

虐待を受け続ける兄妹『迷子のきまり ヘンゼルとグレーテル』

かつての級友と再会した男『鵺の森 みにくいアヒルの子』

女は笑みを絶やさない『カドミウム・レッド 白雪姫』

幼い頃に出会った少女を探し続ける『金の指輪 シンデレラ』

自由を得るため、その小さな身体を売る『凍りついた眼 マッチ売りの少女』

卑しい虫を払う鈴『白梅虫 ハーメルンの笛吹き男』

何かを待ちながら眠り続ける老婆『アマリリス いばら姫』

 

 

『迷子のきまり』や『鵺の森』等はいかにもイヤミス然としており、ほかにも『凍りついた眼』などを含め総じて闇深いストーリーが多めの印象ではあります。その一方で『金の指輪』や『アマリリス』なんかはどこか感キワ的な終わり方であり、単にイヤミス・ホラー短篇集というわけでもないようでした。

なかでも『カドミウム・レッド』と『白梅虫』が特に推し。どちらも登場する女性がなにか不気味であり倒錯的であり、そしてラストでは背筋にゾクッと走るものがあります。

 

 

そしてそれらのベースに据えられているのは、誰もが知っているであろう西洋童話たち。もともとそれらの童話は、教訓なり社会風刺なりを内包する部分があるのだろうと思いますが、これらの七篇も虐待、いじめ、貧困、性搾取など現代社会の暗部を抉っているような向きがありました。さらに、童話のようなフィクション感やファンタジー色はほぼ皆無であり、その代わりに纏っているのは現代社会っぽい生臭さや卑近さ。無垢な子どもたちが慣れ親しむであろう優しい童話たちは、悍ましく残酷な物語へと換骨されたのでした。

 

 

自分自身は特に西洋童話に対してさほど思い入れは無いほうで、この中だと「いばら姫」に関しては内容もかなりうろ覚えだったのですが、それでもこの短篇集は端正な筆致とストーリー自体の面白さにより、全編通して楽しめたと思います。西洋童話がどうこうという事は関係なく、シンプルにひとつの短篇集として楽しむのもアリででしょう。背徳と耽美が香る全七篇でした。

 

 

読了:2023年9月17日