スケッチブック盗難事件、奪った現金を焼き尽くす謎の悪党、生首を運ぶ女の怪。今回は大小合わせて三つの事件を収録です。

『姑獲鳥の夏』から遡ること4年。高校の臨時講師を務める古本屋開業前の中禅寺と、心霊探偵の二つ名を拝命した女生徒・日下部栞奈。偏屈教師と快活女学生の二人が綾なす青春怪異ミステリー。シリーズ七巻目になります。

小ネタも含め、いつもどおり京極小説への愛を感じる三篇でした。

 

 

 

 

[内容]

妖精が隠したかったもの

始まりの火

浄火党の目的とは

浄火党の正体

火の元はどこから?

運ばれる生首

おまけマンガ 関口くん粘菌を語る

 

 

[妖精が隠したかったもの]

美術の授業で集めたスケッチブックが、数冊抜き取られていた。栞奈は級友たちと校内を探し回るが、無くなったスケッチブックは一向に見つからない。取り敢えずその日は解散したのだが、スケッチブックは放課後になって全て元に戻されていたという。妖精ブラウニーの仕業ではないかと訝しんだ栞奈は、中禅寺にこの事件を相談してみる。

妖精絡みであるからか、ちょっと可愛らしいエピソードであったと思います。盗難の犯人は割とすぐに分かりますが、最後はそっちかっていうちょっと捻りの効いたオチでした。

 

 

[穢れ封じ・浄火党]

現金を強奪しては焼き尽くす浄火党。火を以て世の穢れを浄めるという題目のもと、現金の簒奪と焼滅を繰り返している。その浄火党の動向を気にしていた木場刑事のもとに、池袋の商工会館で事件が起こるというタレコミが届く。実際に木場が会館に赴くと、まさにその眼前で、浄火党が現金を奪って逃げ去ってしまったのである。

この巻のメインストーリー。得体の知れない悪党たちを、京極堂と木場とコケシが窮明していきます。愚拙な欲が浅ましい詐欺事件ではありますが、最後はこのシリーズらしく微笑ましく、そして痛快な勧善懲悪ストーリーだったと思います。

なにげに「お賽銭」に関する蘊蓄が面白かったです。

 

 

[運ばれる生首]

白装束を纏い生首を盆に載せた女。その目撃談が栞奈の周囲で囁かれている。栞奈の級友・城山恵理子も、放課後にその怪女を目撃してしまい、恐怖のあまり逃げ帰って寝込んでしまう。恵理子の身を案じた栞奈は、中禅寺宅で敦子にその話を聞かせる。

首を運ぶ女というシチュエーションは、どことなく『狂骨の夢』を彷彿とさせますが、ここではむしろ『サロメ』でした。ひとコマだけですが川新っぽいキャラが登場しているのも地味ツボ。

 

 

[関口くん粘菌を語る]

そして巻末は、関口が粘菌について語るという酔狂なおまけマンガ。粘菌やその種類と特徴に関するレクチャーは、普通に面白いなって思って読んでいました。最後はいつもの失語症と多汗症と赤面症であり、そしてニヤニヤなオチであったと思います。

 

 

 

今回のハイライトのひとつはコケシ刑事の参戦と言わざるを得ないでしょう。安定のコケシフェイスは久しぶりに見ましたが、やはり実家のような安心感。

そんなコケシが、キレたあまり東北弁が口を突いて出たひとコマがありますが、それはやはり東北出身設定を活かしたがゆえでしょうか。いつぞやの憑き物落としの現場で、「自分は東北の生まれであります」と宣言して緊張しながら座敷わらしを説明していた一幕を思い出したものでした。そして最後はバナナ。

どの話もストーリー自体も面白かったですし、それだけでなく小説のほうの色んなネタをアレンジして入れ込んでくれているのは、京極ファンとしてはやはりニヤッとするところ。

 

 

さて、8巻は秋ごろに発売予定とのこと。行方知れずになった婚約者の捜索。相談者は群馬の養蚕業者とのことで、「群馬」「養蚕」というワードから何となく『今昔続百鬼』所以の『手の目』を思い出したものでした。今回はお休みだった榎木津も、次こそ参戦するのではないでしょうか。

 

6巻 → https://ameblo.jp/apirutemperance/entry-12764707649.html

8巻 → https://ameblo.jp/apirutemperance/entry-12825631957.html

 

読了:2023年4月20日