小林泰三小説多めの二月でした。

 

2023年2月の読書メーター

読んだ本の数:14冊

読んだページ数:4767ページ

 

 

 

 

■緋色の囁き

2月1日 著者:綾辻 行人

血の色と匂いが忌まわしい一篇。『囁き』シリーズは三冊上梓されていますが、その中でもインパクト強い一篇だと思います。舞台は全寮制の名門女学園。同室の少女の焼死事件から始まる連続殺人。そして隠秘たる魔女の遊戯。全編通して閉塞的であり、闇深さとインサニティを湛えています。久しぶりに読んでみましたが、事件の真相などいい感じに忘れていましたし、ストーリーもやっぱり面白いなって思います。読みようによってはゴシックホラーっぽくも読めてそれまた楽しい。馥郁な血の匂い。ブラッディで忌まわしく、デメント感の溢れる一篇でした。

 

 

緋色の囁き

 

 

 

 

 

■ヒトでなし

2月3日 著者:京極 夏彦

 

 

■アリス殺し

2月5日 著者:小林 泰三

 

 

■巷説百物語 1

2月7日 著者:日高 建男、京極 夏彦

京極夏彦先生の名著『巷説百物語』シリーズのコミカライズ。この巻では『巷説』『続巷説』から二篇ずつ、時系列に沿った流れで四篇収録されています。「小豆洗い」「野鉄砲」「白蔵主」「狐者異」。基本的には原作のプロットに忠実ですが、随所にアレンジが加えられています。特に「白蔵主」は、原作より悲惨さが増した印象。『巷説』はアニメやドラマでの映像化が制作されていますが、いずれも色々変更を加えられているので、ここまでストーリーそのままのビジュアライズは中々どうして新鮮でした。そして「狐者異」の田所が独特の面相で妙に好き。

 

 

 

巷説百物語

 

 

 

 

 

 

■怪談徒然草

2月9日 著者:加門 七海

名代の怪談作家が、自身の体験した怪異譚を四夜にわたって語り倒すという愉快な趣向。家鳴り、死神、幽霊屋敷。家に居ようと外に出ようと、起きていようと寝ていようと、この世ならぬものはそんな都合などお構いなしにやって来る。心霊体験なんて人生で一回だって多いと思っている身からすると、よくこんなに怪異に見舞われるものだと妙に感心します。もっとも、「霊がいる」とか「気配がする」とか言われても全くピンと来ない部分が多分にあったのも正直なところ。特に怖いとも感じませんし、読んで楽しめる人と楽しめない人が分かれるような印象。

 

 

怪談徒然草

 

 

 

 

 

 

■パラダイス・ロスト

2月11日 著者:柳 広司

 

 

■失われた過去と未来の犯罪

2月13日 著者:小林 泰三

記憶を巡る数奇なストーリー。奇想のSFミステリだったと思います。10分程度の記憶しか保持できなくなった人類は、外部記憶装置に依拠しながら日常生活を送っていた。そんなSF世界の一篇。二部構成であり、第一部ではこの記憶障害が発生した直後の混乱が、第二部では外部装置が普及した後のさまざまな物語が描かれています。自分のものだと思っている記憶が実は他人の記憶なのかもしれない。自分と他人、生と死、虚と実。個人のアイデンティティーに関する根源的命題がパラノイア的に膨らんでいく。そんな唯一無二のSFミステリだと思います。

 

 

失われた過去と未来の犯罪

 

 

 

 

 

 

■とける、とろける

2月15日 著者:唯川 恵

艶めかしく官能的な全九篇。花癲に耽る者たちの堕落と背徳と、そして底すら無い快楽が遺憾なく描かれています。その中でも『契り』や『みんな半分ずつ』など、話によってはゾクッと来る終わり方であり結構ホラー味も感じられました。一方で『浅間情話』のような感キワもあり、それがまた意外の感。情事のシーンがそれなりに多いのですが、それでも下品にならず不快感もなく、すらすら読み進められる心地よい筆致です。そして、しんがりは『夜の舌先』。目覚める事のない永遠の淫夢に堕ちてゆく。この倒錯的なラストで全体を締めるセンスが最高です。

 

 

とける

 

 

 

 

 

 

■覘き小平次

2月17日 著者:京極 夏彦

 

 

■人外サーカス
2月19日 著者:小林 泰三

弱小サーカス団vs異形の吸血鬼集団。アクロバティックなサバイバルホラーでした。スプラッタでグロテスクであるのも嬉しい。吸血鬼の奇襲を受けたサーカス団。クロスボウ、オートバイ、空中ブランコなどそれぞれの妙技を駆使して、凄絶なバトルの末に吸血鬼を駆逐していく。そのさまは痛快なアクションホラーの趣でしたし、予想だにしないタクティクスで返り討ちを果たしていく展開はミステリー的でもありました。そして読んでいて引っかかる部分が少しあったので、何か仕込まれているんだろうと想像していましたが、やはり仕掛けがあったのです。

 

 

人外サーカス

 

 

 

 

 

 

■ON 猟奇犯罪捜査班・藤堂比奈子

2月21日 著者:内藤 了

はじめましてのシリーズ。始終面白く読めました。のっけから猟奇的で凄惨な事件現場であり、それがかなり強烈なインパクトで、その異様さに一気に引き込まれたものでした。強姦魔、死刑囚、殺人犯。世間を騒がせた犯罪者たちが己の所業をなぞるようにして変死を遂げていく。自殺か、はたまた誰かの陰謀か。新人女性刑事を主人公に据えたストーリー展開は、テンポも良くてとても心地よいドライブ感であったと思います。真相についてはそんな事が本当に可能なんだろうかと思いつつも、全体とおして心悸高まる展開であり一心不乱に読み耽っていました。

 

 

ON

 

 

 

 

 

 

■ecriture 新人作家・杉浦李奈の推論 VII レッド・ヘリング
2月23日 著者:松岡 圭祐

 

 

■脳髄工場

2月25日 著者:小林 泰三

ホラー味の強いストーリーが多めの印象でした。全11篇。さらにどの話にもミステリー的な意外さがありそれまた楽しい。『友達』や『同窓会』はある程度想像の及ぶ部分もありましたが、『写真』は最後にゾクッと来ましたし、表題作に関しても真相が魔的で実にいい。どのストーリーも奇想天外であり、いい意味で架空無稽な全11篇だったと思います。もちろんホラーだけでなくSFテイストな話も収録。欲を言えばユーモラスに振り切ったエピソードも欲しかったところですが、とはいえ全体通して小林泰三小説のフィネスが感じられる一冊だと思います。

 

 

脳髄工場

 

 

 

 

 

 

■未来からの脱出

2月27日 著者:小林 泰三

記憶を消されながら繰り返すエクソダス。なかなか特異な脱出系SFストーリーであったと思います。得体の知れない施設から脱出を企てるも、そのたび連れ戻されては記憶を消される。元の木阿弥の無限ループ。幾つかの謎を孕みながらストーリーが進んでいきます。そして第二部で絡んでくるAI、ロボット三原則、シンギュラリティなどの近未来SF然としたガジェット。もっとも、よくあるAIによる人類への反逆劇かというとそうでもなくて、やや想像斜め上の真相であったとも思います。この先どうなっていくんだろうっていう終わり方でもありました。

 

 

未来からの脱出