パンデミックからこっち、頻りに耳にする「DX(デジタルトランスフォーメーション)」。

その「DX」とは何ぞやという、概要的な説明が纏められた一冊です。「DX」の定義、関連するテクノロジー、それらを使ってのビジネスモデルの立案、そして組織における「DX」の定着など。一つひとつのトピックはそれほど深掘りされている訳ではなく、解説されているのは飽くまでさわりの部分です。

DX」に関しては、ツールだけ何となく導入しても不十分だろうし、それを推し進めていく風土と制度、何より組織として成し遂げたいビジョンが大切なのだろうと、読んでいて思ったものでした。

 

 

 

 

内容

Chapter 01 DXの基礎知識

Chapter 02 DXを支えるテクノロジー

Chapter 03 データ分析の基礎

Chapter 04 ビジネスモデルの立案・実行と組織の動き方

Chapter 05 組織にとってDXと定着法

Chapter 06 DXに取り組むに当たり考えておくべき社会との関係性

 

 

Chapter 01において、「DX」を定義しています。もともと「DX」自体には、グローバルスタンダードな確立した定義は無いらしいですが、本書においては以下のように定義しています。

「製品サービスのあり方や顧客への届け方、さらには、それらを実現するための仕事の進め方、働き方など、デジタルテクノロジーを活用して改革する中で、日々の業務改善と、新規事業やサービスを創造し、企業や社会の持続的な成長に貢献すること」

いかんせん一文が長いので一回読んだだけだとほとんど頭に入って来ないのですが、まぁこうゆうもんだくらいで押さえておけばいいのかなとは思います。また、AmazonUberNetflixなどの具体的な事例を紹介しつつ、「DX」のさわり的な部分が解説されています。

 

Chapter 02では、デジタルツイン、IoT、クラウド、5Gなど、「DX」を実現するにあたって肝となるテクノロジーが紹介されています。もちろん一個一個を詳細に説明しているわけではなく、それぞれこうゆうものであり、こうゆう使われ方をしています、的な内容が掻い摘んで説明されています。「デジタルツイン」とか「5G」とかよく聞くワードではありますが、それが何なのか全く知らないという人には、分かりやすく書かれているのではないかと思います。

 

それらのテクノロジーを使って、さまざまなデータが取得できるようになるわけですが、データは集めるだけではなく、それらを分析して「洞察(インサイト)」を得ることが大切である、という内容がChapter 03

DX」より以前には「ビッグデータ」とか「データサイエンティスト」などのワードが流行っていたと思っています。一時期に比べれば、最近はそこまでではなくなった気がしますが、「ビッグデータ」は以前以上にあらゆる場面で使われているのでしょう。以前ほど特別なものではなくなったという事でしょうか。

 

そしてChapter 04は、その「洞察(インサイト)」をもとに「ビジネスモデル」を立案していく、という内容。そのために使えるであろう「OODA」や「デジタルシンキング」「アジャイル」などの手法が紹介されています。

また、「消費者ニーズはモノではなくコト」という主張は蓋し真理と言えるでしょう。

 

Chapter 01から04までの内容をもとにして「DX」のプランが出来たとしても、それを組織として定着させるには、これまた工夫が必要。その話がChapter 05

トップダウンでただ「やれ」と命じられたり、ツールだけ買ってきてさぁ使ってみましょうでは、この手の取り組みなかなか定着しないものだろうとは思います。定着しないだけならまだしも、本来なら良かれと思って始めたことなのに「また面倒なこと始めてからに」と現場の反発を買うこともあるでしょう。

こうした取り組みを推進していくには、そのための風土と制度も必要だという話。また、「DX」を推進するにあたっての「求められる人材像」が、レイヤーごとにまとめられています。

 

そしてChapter 06では、社会で取り組まれている「DX」の実例を紹介し、また、これからの社会において求められる行動や心構えを論じています。

特に最後にはSDGsについても取り上げています。SDGsを達成するにあたっても「DX」の取り組みは有効であるという主張。

 

 

 

 

本書は、三菱ケミカルホールディングスで実施されたeラーニング『DXの基礎』がベースになっています。冒頭において、その三菱ケミカルホールディングス フェローとCDO、そしてDIGITAL X編集長による鼎談が収録されています。

「どのような会社になりたいのか」「社会にどんな価値を提供したいのか」

この中で述べられているとおり、そうしたビジョンが明確であり組織全体に共有されていることが大切なのだろうと思います。逆にその辺が曖昧であると、ツールだけ導入してみたものの、あまり上手く運用されなくて結局フェードアウトしてしまう、という残念な結果にもなり兼ねないのでしょう。

「将来に向けた明確なビジョンと意志があるかどうかに尽きる」という述懐は、「DX」に取り組む際は金科玉条としたいところです。

 

 

読了:2023128