『アリス殺し』に続き、この独特な読み味が好みでした。

今回は地球と「ホフマン宇宙」なる珍世界。この二つの世界線がリンクして起こる奇想天外の殺人事件。例によって地の文はあまり無くて全体通して会話文ばかりです。そして、この会話の応酬と登場人物がまた例によって素っ頓狂でシュールで空惚けていて実にいい。

ミステリー的な仕掛けとしては『アリス殺し』のほうが強烈でしたが、この奇天烈で変梃な世界観は相変わらず好きですし妙にクセになります。クルエルだったりグロテスクだったり、好き者に仁義を尽くしたような素敵な一篇。読んでいて楽しい。

 

 

[梗概]

大学院生・井森建の見る夢は、「不思議の国」の夢ばかり。その夢の中で井森は、間抜けな蜥蜴・ビルとなっている。ある夜、いつものように井森は夢の中でビルになっていたが、彼のいる場所は「不思議の国」ではない。まったく見覚えのない新しい世界。そこで井森/ビルは車椅子に乗った金髪碧眼の美少女・クララに出会う。

翌朝、井森が大学に行くと、夢で見たクララそっくりの少女が同じく車椅子に乗って門のところにいた。彼女の名は「露天くらら」。彼女はビルのことを知っており、井森がビルのアーヴァタールであることも知っていた。そして彼女は、何者かから脅迫状を受け取っており、実際何度か殺されかけた事があるという。井森はこの殺人未遂事件の捜査をするよう依頼される。

 

 

こんな導入であり、実際に夢(ホフマン宇宙)と現実(地球)の双方において殺人事件が起こることになります。そしてそれを夢/現実の両サイドから捜査していくというストーリー。

その中で出会う変なひとたち。「ホフマン宇宙」の登場人物は、ほとんどが人間ではありますが、これが基本的に変な人ばかり。この珍妙なキャラクター達とそして大部分を占める会話の応酬。初見だと当惑するかもしれませんが、ハマるとなかなか抜け出せなくなる魅力があります。この辺は、前作『アリス殺し』に通ずる特長であると言えるでしょう。

ちなみに本作は、その『アリス殺し』の続編という位置づけになってはいますが、ストーリー的には別であるので、そちらを読んでいなくても大きな支障はないかと思います。

『アリス殺し』は言わずと知れた『不思議の国のアリス』をモチーフにしていますが、今回はドイツの作家・E.T.A.ホフマンの作品をモチーフに据えた一篇。巻末に、『黄金の壺』や『砂男』など、それらの作品が紹介されています。自分はそれらは未読でしたが、本書のストーリーは十分楽しめたと思います。

 

 

 

 

メルヘンでウィキッドなミステリー。唯一無比の世界観と読み味だと思います。ミステリーとしては、二つの世界の繋がりとアーヴァタールの仕組みを利用した仕掛けであり、それも実に面白いものがありましたが、どちらかと云うとこの頓狂な世界観やセリフ回しを楽しんでいました。シリーズとしては『ドロシイ殺し』と『ティンカー・ベル殺し』と続いているので、そちらも追っていきたいところ。

 

  

読了:2023110