最初の事件、出会いの事件、幼いころの事件。シリーズ最初の短篇集であり、全六篇、いろんな読み味のホラーが楽しめました。シリーズ主要キャラの過去エピソードが収録されており、さらにストーリーとしても長編に比肩するくらい読み出があります。全体的にそこまで怖さは感じなかったのですが、シリーズ未読のひとでもホラー短篇集として面白く読めるのではないかと思います。

 

 

内容

ゴカイノカイ

学校は死の匂い

居酒屋脳髄談義

悲鳴

ファインダーの向こうに

などらきの首

 

 

ゴカイノカイ

荻窪駅近くの雑居ビル。なぜか五階だけ、入居者が頻繁に入れ替わってしまう。以前の入居者たちに話を聞いたところ、そのフロアでは痛みを訴える子どもの声が聴こえるというのだ。この怪現象に打つ手を見出せずひたすら思い悩む、ビルのオーナー・梅本。そんな彼は、知り合いから、霊能者に相談することを勧められるのであった。

誰もが知っているあの「おまじない」。それが怪異を引き起こすという一篇。「おまじない」といっても、単に子どもの遊びだけじゃない場合もあるんだろうとは思いました。

 

 

学校は死の匂い

雨の日にだけ、体育館に現れる幽霊。複数の生徒が囁き声や足音を耳にしており、その怪異に恐れ戦いていた。相談を受けた比嘉美晴は、実際に体育館に赴き、そして目撃してしまう。白い女生徒が、頭から飛び降り墜落死するさまを。

幽霊の正体がとにかく悲しい。こんな悲しいことがあるだろうかというくらい、居たたまれない幽霊譚であったと思います。六篇の中では一番好きなエピソードでした。

 

 

 

居酒屋脳髄談義

いつもの居酒屋いつもの座敷。男性社員三人が、気の弱く頭も弱い女性社員をターゲットにパワハラとセクハラに興じていた。しかし、普段なら男性たちの悪口雑言に困惑するだけの彼女であるが、今日はどうにも様子が違う。どんな悪罵も軽く往なし、のみならず当意即妙に機転の利いた返しをする。目の前にいるこの女はいったい誰なのだ。

浮生、夢の如し。虚実が反転するような真相であり、六篇の中では一番意想外さがありました。特に動きがあるわけでもなく、ひたすら座敷で会話するだけの一篇ではありますが、それでも面白く読めるように書かれています。

 

 

悲鳴

大学の映画同好会が、自主映画の撮影に勤しんでいた。しかしその撮影が行われた山中は、無理心中した男女の霊が現れるという、いわくの深い場所であった。実際、メンバーの数人が、撮影中に女性の悲鳴を耳にしてしまう。

こいつ死ぬんだろうなという御仁が、案の定死んでしまう。その真相は、悪しきモノに魅入られたか、はたまた山の気に当てられたか、結局はっきりしないところがあり、それがまた縁起の悪さを醸し出しています。

 

 

ファインダーの向こうに

霊が出るという噂のハウススタジオ。オカルト雑誌の編集者・周防は取材でスタジオを訪れていたが、会社に戻って撮影された写真を確認すると、その中に明らかに別の場所で撮られた写真が紛れていた。カメラマンに問い合わせてみるも、心当たりは無いという。取材に同行したライター・野崎は、この怪現象について調べを進めていく。

六篇の中では唯一、胸ぬくまるような一篇。怖がるだけが怪談ではないのでしょう。ちなみに、前作『ずうのめ人形』のキャラクターが登場しているので、そちらも合わせて読むといっそう面白いと思います。

 

 

などらきの首

「などらき」。その首は洞窟の底に祀られており、胴体は首を求めて彷徨っているという。高校生・寺西新之助は、幼い時分その「などらき」にまつわる怪異を体験したことがある。その話を級友・野崎和浩に聞かせたところ、野崎は非常に興味を示し、そしてその怪異を検証するために二人揃って、兵庫県I郡武妙町までやって来たのであった。

六篇の中でもっとも土着的な雰囲気を帯びている一篇。読んでいる最中はそれほど怖いとは感じませんでしたが、読み終わってから想像すると、じわっと怖気が走ったものでした。

 

 

 

 

 

『ぼぎわんが、来る』『ずうのめ人形』に続く、比嘉姉妹シリーズ三作目にして初の短篇集。高校時代の事件、野崎と比嘉真琴の出会い、小学生時代の比嘉美晴。登場人物の過去エピソードが収録されています。正直なところ、自分はシリーズ自体にそこまで思い入れのあるわけではないのですが、それでも純粋にホラー短篇集として楽しめました。前二作を読んでいる人はもちろん、シリーズ未読の人でも十分以上に楽しめるのではないかと思います。

 

 

読了:2022113