いろいろ詰め込んでいる感。紙鑑定士の主人公が、残されたジオラマをヒントに行方不明の女性を探す。このにじみ出るイロモノ感たるや。

紙とプラモデルに関する蘊蓄が盛大に詰め込まれているわけですが、どちらもあまり興味ない身からすると、読んでいてたいそう辟易したものです。ただ、模型が幾つか出てくるわけですが、三つ目の模型以降はなかなか意想外の展開であり、ドライブ感もあって始終面白く読んでいました。カルティックでサイコでサスペンスで実にいいです。

紙もプラモデルも地味っちゃあ地味なのかもしれないけれど、それらを小説のガジェットに据えてみるその心意気や良しというところでしょうか。

 

 

 

[梗概]

渡部(わたべ)圭。職業・紙鑑定士。

どんな紙でも見分けることができるという鑑定眼を体得し、その技術をもって鑑定事務所を営んでいる。そんな彼の事務所に、ある日間違って浮気調査の依頼が舞い込む。本来ならそんな依頼はお門違いもいいところであるが、渡部は手掛かりであるプラモデルの写真をもとに、伝手を頼りながら調査を進めていく。そして渡部はその調査の過程で、伝説のモデラー「土生井(はぶい)昇」に助勢を請うのであった。

 

というような導入です。このあと渡部は、土生井の助力をもって浮気調査を無事完遂。そうしたら今度は依頼人から、新しくクライアントを紹介される。そのクライアントは行方不明の妹を探しているらしい。唯一の手掛かりは、妹にプレゼントされたと思しき、家のジオラマ模型。

そんなわけで、浮気調査の次は人探しになります。

浮気調査の話はイントロダクションみたいなものであり、こっちの妹探しのほうが本筋のストーリー。渡部が動き回り、土生井が得られた情報からアームチェアディテクティブを務める。そこに依頼人である曲野(まがの)晴子が加わってくる。基本的には、全体通してそんな構図になっています。

 

 

 

 

 

 

家の模型、山小屋の模型、漁船の模型に飛行機の模型。いろんな模型が登場するけれど、それぞれにはどうも不吉な仕掛けが施されている模様。

それらを探っていくなかで、主人公は遺棄された死体を発見したり、あるいはその模型自体が大量殺人の計画を示唆していたり、なかなか予想だにしない展開で話が進んでいきます。

そして何でまた、犯罪の予告だか告発だか分からないようなメッセージを模型に仕込んだものか。そんな迂遠で不確実な方法を取ることに何の意味があるのか。そこにはカルティックで狂気染みた真相がありました。

正直なところ前半を読んでいたときは、紙だの模型だのどうにも奇を衒った感が否めなくて、ちょっと興醒め気味で読み進めてはいたのですが、途中からの場面転換というかサイコ色を帯びてからは、俄然面白くなってきたように感じたものでした。

 

ただまあ、それぞれの模型に仕込まれた暗号とその推理に関しては、そんなに面白いと思わなかったのが正直なところ。フィクションとはいえ無理過ぎる気がするし、そもそも内容がマニアックであり、読んでいてふ~んって感じでした。模型にヒントを仕込むという必然性もあまり感じられません。ただ、ストーリー自体は面白いし動きも多いし、もしかしたら映像化とかあるんじゃないかって気がします。出てくるプラモデルについても、実際どんなもんなんだろうかって見てみたいものですし。

 

 

ミステリーありサスペンスあり、カーチェイスや恋愛やサイコな展開、そして模型と紙とトランプ。一篇の中にいろいろ詰め込まれていて、なかなか読んだ事がない趣だったと思います。もっとも、それが奏功しているかというと何ともなところですが。読む人によって印象に残るところが結構違ってくるのかなって気がします。そんなちょっと珍しい趣向のミステリー。好事家的なミステリーを読んでみたい方にはお誂え向きかもしれません。そして続編も出るようです。

 

 

紙鑑定士の事件ファイル 偽りの刃の断罪(読書メーター)

https://bookmeter.com/books/19387548

 

読了:2022224