「冬」をテーマに据えたショートストーリー。全27篇、短くてサラッと読めるけれど、それでいて印象に残る物語が多かったです。クリスマス、正月、バレンタイン。受験が控えている人もいればレジャーに行く人もいる。冬には物語がいっぱい。
シリアスだったり、ギャグだったり、感動ストーリーだったり。バラエティに富んでいながら、どの話も『このミス』らしく意想外の真相が仕込まれているのが嬉しいところ。もっとも、ある程度想像が及んだり何でもアリ感があったりするのですが、それでも全体的に楽しめたと思います。顛末的には『ジュンイチ君』『恋する消しゴム』なんかが特に好き。
それ以外では『二人の食卓』『クリスマスローズ』。この辺りは母親の情愛が胸を打つ展開であり、特に印象に残っているストーリーでした。そして、ほとんどが初めて読む作家さんでしたが、新鮮さがあって全編通して楽しめたと思います。
『真っ白な甲子園』 / 遊馬足掻
高野連は、甲子園の開催を夏から冬に変更することを検討している。その案に快哉を叫ぶは、北北海道地区の雪見高校野球部。毎年一回戦敗退の弱小チームではあるが、冬の野球ならお手のもの。優勝は約束されたようなもの。若き球児たちは、早速捕らぬ狸の何とやらに興じるのであった。
野球部を主人公に据えた話ではありますが、実際に野球をプレイしている訳ではありません。部室でただ喋っているだけの一篇ではありますが、それが妙に愉快で面白い。
『かわいそうなうさぎ』 / 武田綾乃
小学生の「ぼく」は、家族に内緒でうさぎを飼っていた。秘密が露見しないように細心の注意を払いながら世話に勤しむが、所詮は子どもの浅知恵。家の中で隠し通すことなど、はなから叶わず望み。あるとき妹が、そのうさぎを見つけ出してしまうのであった。
ちょっと微笑ましい一篇かと思いきや、最後に衝撃的な展開が待っています。子どもというのは、存外残酷で狡猾なものだろうと思います。
『ある雪男の物語』 / 拓未司
雪山に登山に出掛けたカップル。しかし、空模様を見誤った二人は、遭難して進退窮まってしまう。男はなんとか彼女を励まそうとするが、この寒さと冷たさの中では口を開くことすらままならない。しかし、案に反して彼女は極寒の中においても、平気そうである。朦朧とする男に向けて、彼女は語り始める。隠し通してきた、己の血筋の秘密を。
この話は他のアンソロジーで読んだことがあったのですが、結構印象に残っていて鮮明に覚えています。最後の場面は、愛しさ切なさが胸を打ちます。
ほかにも沢木まひろ『ファースト・スノウ』と大泉貴『スノーブラザー』は、別のアンソロジーでも読んだことがあります。
そして、しんがりを務めるは七尾氏の『全裸刑事』。凄絶な事件ではあるのだけれど、この破壊力たるや、どうにも笑ってしまいます。
二つ名どおり全裸の刑事であるチャーリーを主人公に据えたシリーズ。
この『全裸刑事』については、別のアンソロジー『コーヒーブレイクに読む喫茶店の物語』において、違う話を読んだことがありました。そっちがとにかく終始笑わせてくれる一篇だったので、今回も期待マックスだったわけですが、やはり期待を裏切らず、最初から最後まで笑いが止まりませんでした。言うに事欠いて「ペニスマホ」って。包経(ほうけい)大学の亀頭(かめがしら)教授って。前回同様、何かくやしいけど笑ってしまいます。「俺の股間は騙せない」と云うどう返せばいいのか分からない決め台詞をもって、『西口編』フィニッシュです。
[執筆者]
喜多喜久
里田和登
林由美子
沢木まひろ
喜多南
堀内公太郎
柳原慧
有沢真由
木野裕喜
大泉貴
伽古屋圭市
篠原昌裕
高山聖史
咲乃月音
法坂一広
相戸結衣
逢上央士
友井羊
英アタル
塔山郁
遊馬足掻
水田美意子
奈良美那
桂修司
武田綾乃
拓未司
七尾与史
読了:2021年12月25日