正義を絵に描いたような御婦人ですが、これほど正義の味方という言葉を恐ろしく思った話ははじめてでした。

 

法令遵守を金科玉条に据えるご婦人・高規範子は、高校時代の女友達四人による殺害・死体遺棄という、皮肉にも極めつけの違法行為でその生涯を終わらされる。幸いにもと云うか不幸にもと云うか、その事件の真相は露見せず、やがて加害者の彼女たちはそれぞれの日常に戻っていった。しかし、それから五年後、彼女たちのもとに薄紫色の招待状が届く。その差出人の名は、死んだ、いや殺したはずのあの女・高規範子であった。

 

というお話です。

誰が招待状を出したのか、指定された場所では何が起こるのか、そして彼女たちの罪は裁かれるのか。気になることがたくさんで、半分過ぎてからは最後まで一気に読み耽りました。 

全四章およびエピローグの構成であり、加害者の四人が殺害に至るまでの仕儀がそれぞれ描かれています。

高校時代、範子は痴漢をとっ捕まえたり、集金袋盗難事件を解決したり、まわりからの信頼と尊敬の念を集める。しかし、次第にその常軌を逸した正義が露わになり、スカートの長さや授業中に回される手紙までをも糾弾するようになる。大人になってからもそれは変わらず、そんな範子のことを加害者四人は、それぞれ最初は慕ったり頼ったりするものの、やがて、範子の行いが友情や思いやりをもって為したことではなく飽くまで「正義」を基準として執られたものであると悟るようになる。もとは、すごい格好良いという畏敬の念も、段々と違和感が生まれ鬱陶しくなり始め、そして最後には邪魔だ嫌いだ死ねという呪詛に成り下がる。そして起こったドライブ中の殺害・死体遺棄。

 

範子の正義の名のもとに行う所業はとにかく尋常でなく、読んでいると、こいつの方が鬼畜なんじゃないかと思えてきて、加害者の面々が不憫で不憫でやめてさしあげてと同情します。人の気持ちは法や理屈じゃ割り切れないでしょうし、正しかろうが筋が通っていようが、恨みは湧くし恨みが募れば殺意も湧く。それがよく分かるお話でした。

 

 

秋吉理香子さんの本は、少し前に『聖母』『暗黒女子』を読んでいて、この本が三作目になります。『聖母』『暗黒女子』はどこか縁起の悪い終わり方だった気がしますが、この『絶対正義』も最後にまたひとつ不穏な空気が生まれて終わり、そうゆう読み味悪い系のお話は、自分はとても好きなので、欣喜雀躍快哉を上げたくなります。今のところ読んだ三作は、お話自体が面白かったですし、どれもスマッシュヒットだったので、自分の中ではちょっと追い掛けていこうかな、と思っている作家さんです。もっとも、秋吉理香子さんは必ずしも後味悪いイヤミスばかりを書いているわけではないようですが、イヤミス以外のお話もそれはそれで読むのが楽しみです。

 

読了:20192  24