前回まで原綿が糸になるまでの流れを確認した。

この糸を使って布を作っていくが、織機で布を織るためには糊付けをする必要がある。

今回はその部分を見ていく。

 

機械で織る仕組みは、基本的には昔から変わらず、ピンと張った経糸の間を縫うように緯糸(よこいと)を通すことを繰り返して1枚の織物にしていく。機械の進化に伴い、この工程はどんどんスピード化されてきた。そこで必要になるのが、経糸の強度を高めるための工程だ。

 

まずは整経工程で1本1本の糸をまっすぐに並べて、1枚の経糸のシートにする。ここでは生地の規格に合わせて、規定の幅、長さになるように糸を並べ、シート状にする。生地の幅を決めるのが、経糸の総本数、生地の長さは、経糸の長さだ。糸は紡績工場で一定の重さに整えられて運ばれてくる。重さは糸の番手(太さ)によって決められているが、ほとんどの糸が約1㎏〜2㎏の分量で、円筒状のチーズと呼ばれる紙管に巻かれている。

糸を巻いたチーズは、整経機の屏風状のスタンドのクリルという部分にセットしていく。クリルにはチーズを指すための棒がついていて、上から下まで8段に糸をセットする。4列ごとに裏表が回転する仕組みになっていて、機械が表側のチーズから糸を巻きとっている間に、次のチーズを裏側にセットしておき、効率よく糸を巻いていく。

 

(写真:クリルにセットされたチーズ)

 

(写真:チーズから糸が引っ張られる様子①)

(写真:チーズから糸が引っ張られる様子②)

 

セットするチーズの数は、織物の規格により変わってくるが、400〜800個ぐらいにすることが多い。このときのチーズの数は全574本。上下8段にセットされた1本1本の糸が一斉に斜めに引っ張られ、重ねられていく。

(写真:チーズから糸が引っ張られる様子③)

 

分速300mの速さで糸は巻き取られ、574本の糸が美しく均等に並ぶ1枚のシートになる。そして、糊付けの工程に運ぶために、粗巻(あらまき)ビームという直径50㎝、長さ165 ㎝ほどの大きなボビンに巻きつけていく。

(写真:粗巻ビームに巻かれていく様子)

 

整経機は、糸が切れると瞬間的に停止する仕組みになっている。1本の糸切れも見逃さず、次の工程で支障のないよう経糸のシートを作る。また、経糸シートに綿ぼこりなどがついてしまうと、緯糸を通す工程の邪魔になるため、巻き上げを始めると機械についているガードが降りてきて糸を守る。巻き上げ時はもちろん、工場内には多くの送風機が設置されて、糸に綿ぼこりなどがつかないように品質を管理している。

(写真:整経機)

 

製織の予定数量に合わせて、セットするチーズの数量や、粗巻ビームの巻き上げ本数を調整する。

(写真:巻き終えた粗巻ビーム)

 

 

そして経糸に糊をつけて強度を与えるサイジング工程に入る。

布を織るときに経糸は一定のチカラで引っ張られながら、動かされる。こすれたり、しごかれたりすると、ダメージで経糸が切れてしまい製織することができない。

そこで、糸の毛羽を伏せて糸の表面を滑らかにして製織時の摩擦を少なくするため、また、糸を形成する繊維を互いに密着させて製織に耐える強度を保持するために、糊付けをおこなう。

この糊付け工程がサイジングだ。ちなみに、織物用糊のことを「サイズ」と呼ぶため、「サイジング」というようになった。サイジングの良し悪しで、織物の仕上がりの7割が決まるといっても過言ではないほど、この工程は重要とされている。

サイジングの準備として、経糸シートを巻いた粗巻ビームを上下2段に並べる。最大で上下各12個ずつ、24個分の経糸シートに一度に糊付け作業をすることができる。

(写真:粗巻ビームをクレーンで運び、上下2段にセットされる様子)

 

上段と下段の経糸シートは、それぞれに別のソウボックスと呼ばれる糊の入った容器で糊付けする。並べた各ビームの、ソウボックスに近いほうから順に経糸シートを引っ張っていき、間を埋めるようにすべての糸を重ねて1枚の密度の高いシートにし、糊付けをおこなう。糸を重ねる際には、後で各シートごとに分ける目印にするための畦紐(あぜひも)と呼ばれる紐を置いておく。

(写真:シート状の経糸がソウボックスに入る様子)

 

(写真:糊付中の様子①)

 

(写真:糊付中の様子②)

ソウボックスには、漬け込む糸に合わせて一定の濃度にした、液状の糊が満杯に入っている。漬け込む糊の温度はおよそ90度。そこにすべての糸を重ねたシートを漬け込むように、引っ張っていく。サイジング作業中は、糊を継ぎ足し、あふれさせることにより、常に糊面を一定に保つ。糊に漬け込んだ後の経糸シートは、絞りローラーで圧力をかけ、糊を浸透させるとともに余分な糊を落とす。

 

(写真:糊付けをしながら、余分な糊を落としている様子)

サイジング用の糊の材料は、コーンスターチや洗濯糊のようなものだけでなく、滑りをよくするための油剤や、静電気防止剤などを調合したものなど様々だ。そのためソウボックスでは直接糊を作らず、離れた場所にある別のタンクで調合する。 素材に合わせて選んだ糊材(糊の材料になる粉)を、お湯で最適な濃度に溶かし、圧力釜で約10分炊いた後、しばらく寝かせ、パイプを通して圧力でソウボックスの上にあるタンクに飛ばす。

 

(写真:ソウボックスの上に設置された糊を貯めるタンク)

糸シートの残量が少なくなるにつれて、テンション(引っ張るチカラ)が強くなるので、ブレーキをかけてテンションを一定する。また緯糸の通りやすい経糸にするため、糸の毛羽立ちを寝かしつける。

適度に糊を含んだ糸のシートは、熱伝導のよい銅にテフロン加工した乾燥シリンダーという、約120度に熱せられた蒸気の入った10本以上のドラムに、当てながら乾燥させていく。糊を付けた後の糸の伸縮性に合わせて、シリンダーの回転数を微妙に調整するなど、ここでも熟練工の経験が必要になる。

 

(写真:糊付け工程後、乾燥シリンダーに巻かれる様子)

 

(写真:乾燥し終えた経糸シート)

糸密度の高いシートなので、乾燥すると隣の糸同士がくっつく。くっつきを離すためにシートとシートの間に、滑らかな棒を差し込んで1シートごとにセパレートしていく。この作業を、田畑の境界線を示す「畦(あぜ)」という言葉から「畦とり」などといい、糊付けする前に置いておいた畦紐を目印におこなう。

 

(写真:畦とりの様子)

1本1本の糸にムラなく、一定の量の糊付けをするには、糸の総本数や、太さ、素材の違いに加えて、その日の温度や湿度によって糊の濃度、糊付けのスピード、テンション、乾燥させる温度など多岐にわたる調整が必要となり、熟練工の経験と積み上げてきたデータが必要になる。

このようにしてサイジングされた経糸シートは、サイジングビームと呼ばれる直径約1mのビームに巻きつけ、製織工場に運ばれていく。これでようやく経糸の準備が整い、製織の工程に進む。

 

(写真:サイジングビームに巻きつけている様子)