この日も痛みなく目が覚める。前日の荒れ様が嘘のような穏やかな天候。
携帯の電源を入れて駐車場に行く。幸い、車は無事だった。吹き付けた葉っぱだらけだが外傷はない。安堵する一方で、破損した車の持ち主の落胆を想像し、少しブルーになる。
絶飲ではないため、前日まで水とお茶のみ口にしていたが、どの程度のものまで飲んでもいいのか看護師さんに訊いてみたところ、フルーツジュースぐらいまでは良いとのこと。乳製品の入ったものは腸の動きを活発にするのでやめた方がいいといわれ、自宅での薬を飲むためのヨーグルト摂食がマズかったことに気付く。
午前10時頃、両親が着替えと充電器を持ってきてくれる。少し世間話をして気が晴れる。
この日、入院して初めてシャワーを浴びる。ホラー映画かと思うほどの髪が排水口にたまる。『来る~きっと来る~♪』というフレーズの脳内リフレインがしばらく止まらないが、とてもスッキリする。
リフレッシュの効果か、ごくわずかの(食べてないしな)入院後初めての便も出る。
「出たら見せるように(腸内の出血の有無の確認のため)」と言われていたのでナースコールを押すが、仕事とはいえ他人の排泄物を見なければならないとは大変だな、と改めて思う。
わずかに血が混じっているようだが、あらかた止まっているようだったのでホッとする。
午後3時頃、おやつのつもりで

小岩井純水りんごを飲み、美味しさにうち震える。
平常時に飲んでも美味しいんだけどね。小岩井純水りんご。
この頃には充電も終わり、虚血性腸炎についてGoogle先生に教えてもらったり、点滴されている輸液の名前を検索したり、以降ネット廃人のような状態になる。
うす緑色のカーテンの中に閉じこもっている間に、外の世界ではエライ災害が起こっていることを知り驚く。麻生美代子さんが亡くなっていたことにも驚く。
フネよさらば。どうか安らかに。
【9月6日】
お腹が空いて目が覚める。
先生が様子を見に来て下さり、この日の昼から食事開始となる。
人が見れば味気ない入院食に違いないが、自分にはお膳が輝いて見える。お粥を口に含んだときのでんぷん質のウマさ、おかずの塩味にえもいわれぬ幸せをかみしめる。
食べられるって素晴らしい。時間をかけて、ほぼ完食する。
一方で、食べるのが当たり前になったら、このおいしさを忘れてしまうのだろうと思うにつけ、幸せとは儚いものだ、と、少し先走った感覚も芽生える。
順調に食べられれば、いずれ点滴も終わる。自分の中で、それが今日いっぱいという根拠のない希望的観測が生まれる。
とくに不調もないまま、夕食を迎える。

避けた方がいいと言われていた乳酸菌飲料が出てきて小躍りする。
ビバ、ヤクルト!
ビバ、シロタ株!
乳製品のコクを満喫し、希望を胸に就寝する。
【9月7日】
輸液ポートがついたまま目が覚める。
希望的観測はやはり希望的観測だった。先生から「もう一日様子を見る」とのお知らせがある。ちょっとがっかりする。
食事を始めたので、次の課題は便通となる。腸の動きをよくするためにと、ベッドで肩倒立をする暴れ患者。輸液に自分の血液が逆流し、ビビってやめる。
食事は相変わらずの五分粥だが、まだまだ美味しい。回数をこなす毎に少しずつおかずの固形感が増す。なかなか気を使われているのだな、と感じる。
食後の牛乳を飲みながら、北海道地震による停電で搾乳が止まり、乳腺の張りに耐えている乳牛に思いを馳せる。
今暇だから、ここでチャリンコこいだエネルギーが北海道に送電できるなら、なんぼでもこぐんだけどな~(適度な運動での整腸作用も期待)。などと意味のないたらればに陥る。
あとは、点滴を受けながらネット廃人のように過ごす。食うもの食ってます感漂うガスは出てくるものの、お通じの気配はない。
夕飯後、下剤を貰うかどうか悩むが、翌日出なかったら考えることにする。
先伸ばしの神様に身を委ねて就寝する。
【9月8日】
お通じのことで頭が一杯になりながら起床。気にしすぎるとかえって良くないのはわかっていても『肩の力抜こうとしすぎて肩に力入ってる』トゥーマッチ売りの中年状態。
トゥーマッチ売りといえば、今日、横浜でレ・ロマネスクのダンス縁日振替公演あるんだよな~いいな~都会の人、と思いながら動画を見て心を慰める。
朝食後、輸液ポートが外れる。点滴卒業で、またひとつ退院への階段を上る。
点滴がなくなった分、意識的に水分補給をしていると、お腹がゴロゴロしだす。いよいよ来たか!と気色ばむが、調子のいいときのようにはいかない。
まだ炎症が治りきっている訳ではないので痛みがあり、一週間前の経験が思い出され少し恐怖するものの、そこまでの痛みにはならないままお通じが来る。普通便のあとに水様便が続くが血便はない。相変わらず微妙な気持ちで、看護師さんを呼んで確認してもらう。
3日目ともなると食べることにも慣れて雑になってくる。意識的によく噛むようにする。お粥は食べやすいが故にほとんど噛まずに胃もたれを起こすこともあるのだ。
夕飯後に姉子が退屈しのぎの本を持ってきてくれる。高校生の頃好きだった火浦功さんの、宇宙版スチャラカ必殺仕事人的な話。過ぎるぐらいに大人になった今でも面白いと思えるだろうか…
数十年ぶりに『ミスターブー アヒルの警備保障(日本語吹き替え版)』を見るような緊張感でページをめくる。まだまだ面白くホッとする。
少々ノスタルジックな心持ちで就寝。
【9月9日】
もはや病人というのも申し訳ない状態で起床。早々に退院する気満々で朝ごはんを待っているが、どうだかな…