実は。
ダーリンは一度、私の母に会っていた。
といっても、母が私に会いたい、と、近くの大型スーパーで待ち合わせていた場所へ、私がいきなり彼を連れていったのだが。
母は驚きながらも、その動揺を悟られぬよに平気そうな顔を取り繕う。
「お母さんはね、今会っておかなきゃ駄目だと思うのよッ。ねえッ、ダーリンさんも、そぉ思うでしょッ!?」
私と話しをし始めてすぐ、その流れで、おもむろにダーリンに質問を投げかけた。
母は、私が娘と会っていないことを快く思っていなかった。
何が何でも会わなければ駄目だ、と言っていた。
母は、孫に執着していた。
最初は、私が元ダンの所へ戻るのを一番の願いとしていた。
しかし元ダンが再婚してしまったので、その望みも絶たれた。
何としても孫を取り戻したい…
元ダンが再婚してからというもの、母の孫への執着は、より一層強いものになった。
このままでは、会うことも出来なくなってしまう…
そんな危機感からか、母の私に対する口撃は、どんどん激しくなっていた。
私は、もちろん娘に会いたい気持ちはあった。
しかし。
私と会った後、娘はどうなるだろう。
きっと元ダンや、再婚相手(継母)、元ダンの両親などに、あれこれ詰問されるに違いない。
そして、私に対して負の感情を抱くように、色々吹き込んだりもするだろう。
それに例えば、誰にも内緒で会ったとしても、娘に嘘をつかせることになる。
秘密事が苦手なあの子にとって、その心の負担はいかなるものか。
娘自身だって、継母と私を比べてしまい、今の生活に支障をきたすかもしれない。
周りの口撃に傷付くかもしれない。
私のことは、娘に何を吹き込まれても構わない。
娘が私を憎んでも良い。
私を恨むことがあの子の生きるバネとなるなら、それはそれで本望だ。
ただこれ以上、私のせいで、私が新たに関わることで、娘に余計な負担をかけたくはなかった。
何よりも、娘の心が平穏であってくれれば…
私は。
あの子の気持ちを第一に考えたかった。
母は。
それを理解しようとはしてくれなかった。
「そんなきれい事!!」
と。
それで、ダーリンが【会え】と言ってくれれば、と思い、最初の質問になったようだ。
もちろん、ダーリンが私の意に反することを言う訳がなく。
『チビが会わない方が良いと思うなら、それで良いと思いますっ。』
そうきっぱり言った時、母の顔色が変わった。
「あー、そぉッ!!ダーリンさんなら解ってくれると思っていたのにッ!!」
もの凄い眼光で彼を睨み付けると、そう言い放った。
いったい、何の根拠があったのか(苦笑)。
それからが凄かった。
母はダーリンを丸無視。
無視というより、最初から誰もいなかったかのように振る舞った。
私としか話しをせず。
なんとかダーリンとも話しをさせようと、ダーリンに意見を求めたりしても、その瞬間、違う話題を出したり、まるっきり、あさっての方向を向いていたり。
まるでタチの悪い子どもだった。
しかも。
母の話す内容は、すべて元ダン関係の話し。
そして、ほとんどが【あの時は楽しかったわね】的ことばかり。
(ホントに楽しかったことばかりなら、男のとこに逃げたりしてなかったと思いますが、私(苦笑;))
ダーリンが不愉快な思いをするように、わざとそうしたのだ。
初対面がそんなだったので、ダーリンは、私の両親、特に母のことを快く思っていなかった。
もっとも、私が色々話しをしていたし、何度も私が母と電話している様子を見ていたので、会う前からあまり良い印象はなかったが。
その為に、私と結婚したい、と、言いに行かないのか?
ただ単に意気地なしなのか?
それとも、そこまで私を必要としていないのか?
本音を言えば。
私を説得してでも、私の両親に会うぐらいのガッツが欲しかった。
自分が嫌な思いをしてでも、私の為に何かをしてくれる、というのが欲しいのだ。
彼が本気で私を必要としてくれている…
そんな【証し】が欲しかった。
ダーリンにとって、私って何だろう。
本当にこのままダーリンといても良いのか。
私は逆に、ダーリンの足かせになっているんじゃなかろうか。
そんなことを色々考えていたら、疲れてしまった。
翌日。
幸か不幸か、お店は非常に暇だった。
暇も暇、お客さんはカップルが一組だけだった。
丸一日営業して、2人だけだった訳だ。
それで…
という訳じゃないが、ダーリンにお手紙を書いた。
今の自分の気持ちを。
正直、返ってくる答えは解りきっていた。
でも、どうしても今の私の気持ちを知って欲しかったのだ。
前日の私の態度で、何かあるな、てのは、だいたい解っているだろうが、具体的なことは解らないだろうから。
自分の気持ちを綿々と綴ると、その手紙をソッとダーリンに渡した。
私は時々(年に数回)ダーリンに長い長い手紙を書いていた。
一緒に暮らし始めて、2年以上。
最初はレジャー的なものや、外食は、ダーリンが出す予定だった。
しかし生活が始まってみると、ベンツの諸費用の支払いも私。
今じゃ借金があり、それは一向に減らない。
そして、宙ぶらりんな私の立場。
そういう精神状態が微妙な時に限って
【入籍しましたッ♪】
【妊娠しましたッ♪】
と、TVの芸能ニュースがわんさかやる。
その度に、自分が今、置かれている状況を考え、どよーんと落ち込む。
それでダーリンに手紙を書くのだ。