何度目のトイレだったろう。
やっとの思いで布団に辿り着き、やっと横になったのに、
『チビッ!!チビッ!!』
と凄く怖い声で呼びかけながら、ダーリンが私の体を揺らしている。
((そっとしとけやっ!!コッチはしんどいねんっ!!))
痛いは、しんどいは、で、その意図が解らず、心の中で舌打ちをする。
『病院行こうっ!車に乗って行けるか?』
《・・・。》
『救急車なら行けるかっ?呼ぶからなっ!!』
え。
救急車っ!?
とうっすら思ったが、その時の私は、疑問を投げかけることも、逆らうことも出来ぬほど弱っていた。
そんな気力も余裕もなかった。
で。
初救急車(苦笑)。
時間は、朝の8時頃だったろうか。
しかし…
救急車が、あれほど乗り心地が悪いもんだとは思わなかった。
少し体に力が入っただけでも胃に激痛が走るのに、揺れる、揺れる。
病院に着くまでの間、布団で寝ていた時以上の痛みと闘うことになった。
病院は、迷子になりそうなくらい、大きな市民病院だった。
病院に着いてからも、痛みは酷くなる一方で。
胃に力が入るようなこと(正面から起き上がろうとしたり)をすると、激痛&胃けいれん。
そんな状態で胃カメラをのまされたから、たまらない。
更なる激痛が待っていた。
胃カメラをのむ前に、なんだか訳の分からない液体を口に含まされた。
(恐らく、カメラをのみ込みやすくする為の麻酔的なものか、軟化剤的なもの)
やや、とろみのあるその液体を、飲み込まないように、と言われ。
しかし、この時もアレルギー性鼻炎の症状が出ており、酷い鼻づまりだった。
口をふさがれては、呼吸もままならない。
その状態で
《ヒヒハヘヒハヒヘフヘホ》
(息が出来ないんですけど)
と、鼻を指さしながら訴えてみたが
「はい、あと1分半そのままでね。」
と言い放たれる。
鼻炎で呼吸が苦しいことは、解っていただけなかったようで。
仕方なく、胃の痛みと闘いつつ、顔の角度を微妙に調節し、必死で口呼吸も取り入れる。
ようやく、その液体から解放された、と思ったら、今度は胃カメラだ。
もちろん、激痛&胃けいれんと闘いながらになった。
ところが。
そんなに苦しい思いをしたのに、結果は異常なし。
吐いた時の軽い炎症はあるものの、他に重大な病状は見当たらない、とのこと。
え。
こんなに痛いのに?
妊娠している可能性があることを伝えると、尿検査をすることに。
しかし、水分すら受け付けない状態だった為、出ない。
後から、ということで終了。
結局。
はっきりとした原因は解らず。
胃薬やとんぷくを出され、帰宅して下さい、と。
妊娠検査もしてないし、痛み止めも全く効いてない状態で、だ。
納得のいかぬ顔の私達に、その研修医は
「まぁー、入院しても別に良いですが、痛みが変わるとは言えません。」
と、言いおった。
そう、彼は研修医だった。
まるで、コチラがいちゃもんつけてるかのような高飛車な物言いだった。
そんな言い方されちゃ、それ以上いられない。
ダーリンに悪いと思いつつ、帰宅することに。
(こんな状態で帰っても、ダーリンに迷惑をかけるだけなのは解りきっていたから)
時間はPM2時頃だったろうか。
病院のベッドから車まで車いすで。
(車いすもこの時初体験)
自宅近くに車を停め、歩いて家へ。
ところが。
ほんの5~6歩、歩いたところでメマイ。
ダーリンの腰らへんをギュッと掴み、その場にしゃがみ込んだ…
筈だったが、目を開けた時、見えたのは青空だった。
彼が必死に
『チビッ!!チビッ!!』
と、呼んでくれていた。
そのまましゃがんだつもりが、仰向けに倒れたらしい。
ダーリンが先に玄関を開けに行っている間に、少しでも歩こうとして再びメマイ。
座り込んで動けなかった。
ダーリンによると、その時も、目が逝きかけていたらしい;
あまりに心配で
『もぉ一度、病院行くか?』
と言っても
《家に帰る…》
と言ったから、仕方なく帰ったらしい。
歩けない私をおんぶして。
【帰ったらしい】と言うのは、座り込んだ以後のことを、私は覚えていなかったのだ。
そういえば。
これは、随分後で聞かされたのだが…。
最初に救急車を呼ぶ前、怖い声で私を呼んでいた時も、実は倒れたらしいのだ。
自分の中では、普通にトイレへ行き、用を済ませ、布団に戻った…つもりだった。
だがトイレに向かった私は、トイレの前で凄い音をたてて倒れたらしいのだ。
慌ててダーリンが抱き上げ、布団まで運んでくれたらしい。
【つもりだ】とか【らしい】ばかりだが、本当に、嘘偽りなく、全く記憶になかったのだ。
ものの見事に、その部分だけ記憶が抜けていた。
その時の私は、髪を振り乱し、白目をむき、引きつけを起こしていたそうだ。
ダーリン曰く
『本物の貞子かと思った』
今でも決して、その時の顔を忘れることは出来ないそうな。
(スマナイ;)