私は続ける。
《山さん自体は、あまり信用しきれない面もあるけど、お店は行ってみても良いと思うよ。とりあえず、今の状況を変えるのが先決だから。山さんのことは、様子をみながら付き合えば良いんだし。》
そう言った私の言葉に、少し安堵した様子のダーリン。
私も少しホッとした。
まだ、そこに勤めると決まった訳じゃないが、【微動だにしなかった水面】が少し動いたのが嬉しかった。
ここがダメだったとしても、これをきっかけに色々職探しをしてくれたら良い、と思った。
数日後。
その居酒屋さんへ。
隣の県ってのと、行ったことがなかったので、どれくらい時間がかかるか見当もつかず。
やや不安を抱えての出発だった。
夕方だったので、微妙に混んではいたが、1時間強で到着。
思っていたよりは、遠くなかった。
しかし。
その居酒屋、雰囲気が激暗。
【いらっしゃいませ】も、まともに言わず。
後からさり気に山さんに聞くと、全員(中が男2人、外が女2人)20代後半。
ホールの女性なんて、どちらも30代後半かと思ったのに(苦笑)。
店内に山さんの姿はなく、とりあえず、料理を注文。
この料理がまた…。
【焼き鳥】先の方がカッチカチ。
串の中ほどは比較的柔らかく、焼きすぎた訳でもなく、焦げてもいない、というコトは、一度火を通して置いておき、また焼いたのだろう。
注文が入ってからでは時間がかかるからか。
そういえば、やけに早かった。
【ホタテオムレツ】ソースが激マズッ。
味が全くなかった。
オムレツは暖かい料理なのに、ソースは冷蔵庫から出してそのままかけただけ。
食べれば食べるほど、時間が経てば経つほど、テンションが下がり、気分が悪くなった。
少ししてからダーリンが山さんに電話。
すると、もう一つの串焼きのお店に居るからおいで、と。
そこはオープンして約9ヶ月。
とても綺麗で、空間もゆったりしていた。
私達は2件目、ということで、あまり食べることも飲むことも出来ず。
そんな状態でも【美味しい】と感じた。
もっと色々食べてみたかった。
そしてコチラにいた、バイトの2人の若い男の子。
非常にテキパキと、一生懸命仕事をしていた。
先程のお店とは、料理も従業員も真逆だった。
心の中の【濁り】が、スーッと消えてゆくようにさえ感じた。
山さんは、ダーリンが来たことがとても嬉しかった…ように見えた。
早速、社長に話しをしてくれるとのこと。
2日後。
山さんから連絡があった。
社長に話しをしてくれたようだった。
社長は、いつからでもOKとのこと。
翌週行くことにし、時間の連絡を待つ。
そして私は、散々悩んだ挙げ句、再び消費者金融へ。
だめもとで聞いてみると、上限を上げて貰えると。
現在、上限50万円のを70万円に。
((助かった、これで家賃が振り込める))
そう、月末なのに相変わらず収入はなく。
こうやって、比較的簡単に借りられてしまうのが、後々、返済出来なくなる原因になるのだろうが…。
最悪、また大家さんにお願いして、少し待ってもらおうと思っていたので、本当に助かった。
そしていよいよ面接に。
社長は、自分の経営するスナックにいた。
スナックで、飲みながら面接。
しかも、いきなり給料の額が飛び出し。
もう採用するのを決めていたようだ。
てことで、即決。
私もどうだ、と言われたが、働くとすると山さんのいた串焼き屋。
給料もさほど多くないし、第一、居酒屋よりも早い時間に終わるので、3時間もの間どこかで待っていなくてはいけない。
1時間くらいなら、車で待っているのも苦にならないだろが…。
丁重にお断りした。
そのあと、山さんの串焼き屋で飲み直すことに。
色々話しているうちに、社長がとんでもないことを言い出した。
社長は、居酒屋にいた、片方の女性をクビにする、と。
で、私が働けば良い、と。
この女性、先日行った時、私と目が合ったのに【いらっしゃいませ】も言わなかった。
かなりふくよかで、愛想もないのが、余計にふてぶてしさ感を増幅させていた。
感じの悪い奴だ、とは思ったが。
「アイツは、元々気に入らんかったんだ。ちょうど良かった。」
私にしたら、とても有り難いお話しだったが、それにしてもなんだか相手に申し訳ないと思った。
しかし、なんと言っても社長の決断。
謹んでお受けすることに。
ダーリンだけでなく、私の就職先も一気に決まり、本当に良かった。
給料面も、前の店とあまり変わらず。
あ。
私の給料…いくら貰えるのか?
ダーリンの給料は言ったけど、私の給料は聞いてなかった(苦笑)。
まぁ、串焼き屋よりは貰えるだろし、今更聞くわけにもいかず、そのまま働くことにした。
初日。
この日は土曜日だった。
久々の仕事、しかも初日が土曜日とは。
どうなるか、と思ったが、さほど忙しくもなく。
働いてみると、お店の人達は皆、良い人達だった。
ただ私自身が勝手が分からず、ウロウロしてしまった感があった。
働き始めて1週間も経った頃。
ヤッコサンが、事務員のクルチャンに聞いたらしい話し。
社長が
「よく動いて、気の利く、明るい良い子が入った」
と言っていたらしい。
もちろん、私のこと。
(ドヤ顔)
社長は、豪快で太っ腹の感じがするが、実際は、滅多なことじゃ人を褒めないようで。
ヤッコサン曰く【超珍しいこと】らしい。
よしっ、これで給料もばっちりか(笑)。