お店には、ソフトドリンクもあった。
フリードリンクのあるお店で、セルフで自分でジュースetc.を入れる機械と同じタイプの機械で。
それもボタンを押すタイプでなく、コップで直接レバーを押すと出るタイプのものが。
ファンタなどの炭酸飲料は、レバーをシッカリ押すと普通に炭酸ジュースが出るが、軽く押すと原液だけが出てきた。
その、ファンタオレンジの原液(オレンジジュースが濃縮された感じ)か、ライム酎ハイ用のライムの原液。
それを冷酒に入れて飲むと、何の問題もなく飲めたのだ。
そのままじゃ飲めないから、何か良い方法がないか…と思い、行き着いたやり方だった。
自分でも、何故それで全く平気になれるのか不思議だったが。
まぁ、味が変わることで【日本酒】という認識が薄れ、拒否反応が出なくなったのかもしれない。
その辺の事情を知らないお客さまに
「変わった奴だなぁ。」
と言われつつ、グビグビ飲んだもんだ。
もちろん、あまり調子に乗ると、また正気を失うので、注意深く飲んではいたが。
(今現在も、冷酒で拒否反応が出るかは定かでない)
そんなこんななある日。
また人事異動があった。
そこでなんと、ダーリンがC店の店長になった。
今回、また移動のなかった私。
そう、つまりは…。
久々にダーリンと同じ店舗になったのだ。
嬉しくて、天井に頭をぶつけるんじゃないかってくらい、飛び上がった。
やはり、ダーリンとの仕事は、色んな意味で楽だった。
しかし逆にダーリンは大変だった。
適当なことばかりする、ボケ。
物覚えの悪い、トマル。
2人を合わせた以上に使えない、ミニラ。
そんな彼らでも、いなければ困るのは事実ではあるが、実質、ダーリンと私で回しているような状態だった。
バイトの子も数人いたのだが、使えない3人の社員より、よほど頼りになった。
そんなある日、不可解な出来事が。
お店には、いくらかの【へそくり】があった。
お客さまの中には、気前の良い人がいらっしゃって、チップをくれたりしたお金、等を貯めておいたものだ。
たまに、皆でお弁当を買ったり、オヤツを買ったり、どうしてもレジのお金が合わなかった時に、そこから出していた。
どうも、そのお金が減るのだ。
それに。
ダーリンは、お店に【置き煙草】をしてあったのだが、それも数が減っている、と。
様々な状況を考えてみても、内部の者の犯行に違いなかった。
トマルは悪ガキだけど、そんな度胸はない。
ミニラも同じく。
となると、残るはボケ。
しかし、お金にしても、煙草にしても、証拠はない。
隠しカメラもお金がかかるし、指紋を採る訳にもいかず。
もちろん、そんなことで警察に届けるのも…。
そこでダーリンは、煙草の底の部分に名前を書いた。
黒いマジックでハッキリと。
《そぉーんな子どもだましに引っかかるかなぁ?》
とはいえ、他に方法もなかったので、とりあえずそれでやってみることに。
果たして、そんな子どもだましに引っ掛かった…ヤツがいた。
罠を仕掛けて数日後。
煙草がなくなった。
ダーリンは、帰りにちゃんと数を確認していたので、間違いなかった。
で
『おぃ、ボケちゃん。俺の煙草、持っていったか?』
「いや、ボク、知らないっすよ。」
『持っていったんなら、そぉ言えば良いんだぞ?』
「ほんとに知らないっすからっ。」
『そっか…。ところでお前、今、煙草持ってるか?』
「あ…。はぃ…。」
『ちょっと見せてみろ。』
なんだよっ的な顔で差し出した、ボケの煙草の箱の底には…
しっかりダーリンの名前が書かれていた。
ゲッ!!という顔のボケ。
怒りが沸々と煮えたぎった顔のダーリン。
私は、笑いをこらえるのに必死だった。
『ほぉー。俺の名前が書いてある煙草、売ってたんだー。』
「…。」
『俺も有名になったもんだなー。』
「…。」
うん、そりゃ返事も出来ないだろね。
その後、一応、謝りはしたものの、恐らく本人はさほど凹んでいないと思われた。
彼の日頃の言動を考え合わせると
【チェッ、バレちゃったよ。なんだよ、名前書くなんて、セコイ真似すんなよッ】
ぐらいにしか思っていなかっただろう。
そしてこの頃。
突然トマルが無断欠勤。
どうしたのか、と、ダーリンと2人でトマルのアパートへ。
すると、本人はいたって元気そう。
話しを聞いてみると…。
なんと、前日貰った筈の給料を、袋ごと紛失した、と。
アチコチ探したけど見つからず、やけになって仕事を休んだ、と。
まぁ、やけになって、というより、【お金落としちゃったから働いてもしょぉがないや】的な、短絡的な考えで休んだようだ。
給料を貰った後の話しを聞いてみるが、店内で落としたとしか考えられなかった。
とりあえず出勤しなさい、と促し、一緒にお店へ。
トマルは、おっちょこちょいで、結構だらしない。
貰った給料を、無造作に後ろポケットに入れていたらしい。
給料袋は、ポケットに入れても、半分近く飛び出ている。
仕事中に立ったりしゃがんだりしているうちに、落としたと思われた。
念の為に、もう一度店内を探してみる。
隅々まで探してみたが、やはり見つからなかった。