リブ男と暮らすようになって、今まで経験したことがないようなことを沢山経験した。
美味しかった、屋台のラーメン屋さん。
私は豚の脂身が駄目(吐く)だったが、初めてまともに脂身が食べられたチャーシューの美味しかったこと。
吉牛も初体験でドキドキだった。
元々、家族で外食なんて、20年以上暮らした中でも数えるほど。
母が節約命の人だったので、母娘だけでファーストフードなんてことも無かった。
更に、元ダンは、【屋台なんて、得体の知れないもん使ってる】とか、【貧乏くさい】とか言うタイプの人で、もちろんファーストフード系もセルフサービス系も大嫌いな人だった。
だから、そういうお店とかに行くのが新鮮だったし、本当に楽しかった。
ちょっと高級感のある、おでん専門店。
スナック。
カラオケ喫茶。
連れていってもらう場所もそうだが、深夜に遊び歩く楽しさもまた、私をウキウキさせてくれた。
本当に、何もかもが新鮮だった。
下ネタしか話さない、小汚いオヤジばかりの飲み屋に連れて行かれたこともあった。
そこで私のことを、内縁の妻だなんて紹介してくれた彼。
嬉しくて、顔がにやけっぱなしだった。
そのお店は、その後も頻繁に連れて行かれた。
彼1人で飲みに行ったのに、【奥さんを呼べ】と皆に言われて、呼び出されたこともあった。
100円で一発やらせろ!
いや、50円だ!
10円だ!
なんてゲスな話しにも
『せめてお札にして下さいよー。』
なんて、常に笑顔で受け答えをする私を、常連さん達が気に入ってくれたらしい。
私も、そんな空間が心地良かった。
自分をさらけ出せる生活。
両親との生活でも、元ダンとの生活でも、出来なかったことや、やっちゃいけなかったことが、誰の目も気にせずに出来る解放感。
もしかしたらこれが、ずっと探し求めていた自分の本当の居場所なのかもしれない…
本気でそう思えるほど、居心地の良い空間だった。
だが、やっと探し当てたハズの自分の居場所も、自分1人だけのものではなかった。
そう。
彼には彼女が居た。
彼女は、夫も子供もある身。
2人が付き合っているのは、様子を見ればすぐに解ることだった。
特に、彼女の彼に対する言動は、解りやすかった。
もちろん、他の人達は誰も気付いていなかったが、誰かにバレてしまうのではないか、と思うほど解りやすかった。
それでも、リブ男は認めなかった。
彼女の身の上相談に乗ったことはあるけど、と。
それ、何処かで聞いたことあるパターンですよね?
私も、最初は身の上相談に乗ってもらったんですよね?
で、気付いたら違う所にも乗られてたんですよね?
どれだけ聞いても、頑として認めなかった彼。
当然、彼女に対しても、私の存在は明かされていなかった。
結局。
彼がその事実を認めたのは、私が家出をして、間もなくの頃だった。
2人で飲みに行った帰り道。
私はそのことを彼に問いただした。
それを知ったからといって、何も変わる訳ではなかった。
だが、明らかに解っていることに、嘘をつかれているのが許せなかった。
すると…
私の勢いに、逃げられない、と悟ったのか、やっと認めたのだ。
おまけに
『俺は、アイツとは別れないからなっ!! 』
と、高らかに宣言したのだ。
それは良い。
最初から解っていたことだから。
というより、ぶっちゃけどうでも良かった。
事実さえ解っていれば、私のことを大切に思ってくれさえすれば。
だがやがて彼女の存在が、私にいろんな感情をもたらした。
それは、彼女の身にも、同様に起こった。
彼女が、私の存在にハッキリと気付いたのは、職場で私達のことが騒ぎになってからだった。
最初、その騒動になる前に私の存在に気付き、彼に聞いたのだが、やはり、違うとトボケたらしい。
やがて騒ぎになり、私達の関係を知り、更には私が彼の部屋に住んでいるのを知ることとなる。
それでも、違うだの、なんだの、ノラリクラリと。
流石の彼女も、切れたらしい。
泣いて、わめいて、問い詰めたところ、やっと白状したのだ。
これは、例によって後に彼女と仲良くなり、色々チクッてくれて解ったことだが(笑)。
女の感は、あなどれない。
私もそうであったように、いくら隠したつもりでも、否定されても、解るもんである。
しかしやっと白状はしたものの、私のことがバレた後もまだ、最初の頃は、一度遊びで関係を持っただけだ、と。
一緒に暮らし始めたのは、私が行く所がないと言うから、気の毒に思って仕方なく置いてやってると。
まぁ、そんなことを聞いても、別に腹も立たず、特にショックもなかった。
彼の日頃の言動を見ていれば、予想のつくことだった。
むしろ、彼らしいとさえ思った。